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第五章 囚われの姫と紅の槍

7話 お金で人は動く

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 いつの間にダート達は冒険者ギルドの奥に移動したんだろうかと疑問に思うけど、それ以上に気になるのはクロウがこの場にいる事だ。
一ヶ月程前に、ケイスニルの件で自分の実力不足を感じたから、鍛え直す為に暫く修行に出るとの事で暫く町を出ていたけど、まさか国を出ているとは思わなかった。

「レース、思う事があるとは思うが、理由は後で話すから待っていてくれ」
「待っているも何も、あたしが冒険者ギルドの職員に扮した理由が彼を見つける為だよー、姫ちゃんやダートちゃんには拳狼を捜しに先に行く事は教えてあったんだよねー」
「……レースごめんね?実は知ってたんだ」
「私もヒジリちゃんに内緒にするようにってお願いされて……」

 知ってたってまさか、二人は分かってて黙ってたって事なのか。
どうして言ってくれなかったのか気になるけど、何か理由があるのかもしれない。

「そんな怖い顔しないで?黙ってたのはあたしがお願いしたからだからごめんねー?、だってさぁ、レースくん知ってたら意識しちゃうでしょ?、知った上で演技何てどう見てもできないしー、それにこういう言葉があるの、敵を欺くにはまず味方から 」
「事情は分かったけど、欺くって……?」
「メセリーの冒険者ギルドで、ジラルドくんの話を聞いて急いでメセリーを出て、トレーディアスに向かったクロウくんをかなぁ、だってこの人何するか分からなかったから、大袈裟に騒いで表に出させる必要があったの」

それで冒険者ギルドに着いた時に、ヒジリの姿を見つけたぼくを一人で向かわせたのか。
とはいえ、大袈裟に騒いだ結果ジラルドを見つけた人に白金貨一枚と言う大金を渡す事になったけど良いのかな……

「でも、昨日ジラルドの事を話したばかりなのに、どうしてクロウの事が分かったの?」
「分かったのってそんなの簡単よー、心器を使える人は管理用の通信端末で常に場所が分かるようになってるから彼の居場所がトレーディアスになってるし、彼が何故いるのか確認する為に移動経路を確認したら、メセリーの冒険者ギルドからトレーディアスに急いで移動した経歴がある、これって昨日の話と合わせるとジラルドの事を聞いて急いで向かった事が分かるでしょー?」
「確かに……」
「ここからは私の完全な妄想なんだけど、ジラルドくんの相棒であるクロウくんが冒険者ギルドで仕事を受けようとしたら、職員からジラルドくんがトレーディアスで賊として捕らえられて処刑された事を知る、何故職員が伝えたのかっていうとー、仲間が処刑されたって言うの『紅の魔槍と組んでいる、拳狼のクロウだ』みたいな感じで名乗ったら違和感を持たれて、確認されるよねー、あってるでしょー?」
「まぁ、大体そんな感じだ」

 クロウはそういうと機嫌が悪そうに腕を組んで眉間に皴を寄せる。
自分の行動をあたかも見て来たように言われるのが気に入らないのだろう。

「それで事実確認をしに、急いで向かったら聞いた話と同じ事をここでも言われて、更にミント王女が帰って来たと国中で噂が広まっていて、その時に掴まった賊が処刑されて既に死んでいる事を改めて聞いたら冷静さを失ったクロウくんが何をするか何て容易に想像出来るよー」
「容易って……ぼくは分からないんだけど?」
「それはレースくんが冒険者じゃないからだよ、命を預け合った仲間が死んだらやる事は一つしかない……、タマを取った奴の首を取って仲間の墓に供えんだよ、あたしがあんたの仇を取ったぞって、冒険者は死んだら何も残らない、どうせ訳有でまともな仕事に就けなかった奴等がなる事が多い職業だからね、皆がそうだとは言わないけど死んだら、共同墓地に名を掘られて終わりなんだよ、だからそいつの事を覚えてる奴が死後の世界で安らかに眠れるようにと、仇の首を墓前に持ってくんだ……、だからこのクロウって奴は商王のタマを取ろうとしてんだよ」

 ヒジリの口調が急に変わったかと思うと、冒険者の在り方を話してくれる。
内容はとてもぼくの価値観では受け入れる事が出来る物では無いけど、これが本当だったら何て恐ろしい事を考えているのだろうか。
如何なる理由があったとしても大国の主を殺すという事は許されない事だ。

「その女の言う事は事実だ……、俺は商王を殺す為に冒険者ギルドで簡単な仕事を受けながら、忍び込む為の下見をしていた」
「……で、そこにぼくが現れてヒジリとあんなやり取りをし始めたから出て来たって事?」
「あぁ、ジラルドが生きているという事実を確認したかったのもあるが……、どうしてレースが見つけた奴に白金貨と言う高額な報酬を払うのかと思ってな」
「クロウくんってもしかしてバカぁ?」
「……何だと?」

 その瞬間クロウの耳の毛がブワッと逆立つと組んでいた腕をほどいて、ヒジリの元に近づいてくる。
一方彼女は面白い物を見るように彼を見て挑発気な笑みを浮かべる

「冒険者はお金を貰えるなら、非合法な仕事以外は何でもやるでしょ?、そこで大金をチラつかせてジラルドを探すように言えば、彼等は血眼になって探し始めるでしょー?、草の根をかき分けるように何処までもねー、それこそ二、三日したらあの様子なら見つかるでしょ、冒険者のあんたがそんな事に気付けない何て馬鹿以外の何があるのー?」
「……君は冒険者がお金だけで動く低俗な集団だと思っているのか?」
「Cランクまでの冒険者何てそんなものじゃない、あなた冒険者を特別な仕事だと思ってるタイプ?、そういうのだっさいからやめたらー?」
「ヒジリちゃん……、言い過ぎですっ!クロウさんに謝ってください!」

 クロウが怒りに眼を血走らせヒジリに掴みかかろうとしたタイミングで、カエデが二人の間に入り彼女に謝るように言うが、反省したような気配は無い。
むしろ『むしろここまで言われたのに、あなた何もしないの?』と言いたげだ。

「ヒジリちゃんっ!副団長権限ですっ!謝りなさいっ!」
「……姫ちゃん、権限はそうやすやすと使う物じゃないよ、それにアキラくんからレースくんに伝言があるから、クロウくんとやり合う前に伝えといてあげる」
「……伝言?」
「『怪我人が出たら教会へ行って治療をして貰え、とある筋からの情報なのだがそこに尋ね人がいる可能性がある』だってさー、さぁ行こうか子犬ちゃん、会議室から出て前の扉を開けたら訓練場があるからそこで冒険者の立場を分からせて躾けてあげるっ!」

……ヒジリはそういうと優雅な足取りで会議室から出て行く。
その後ろ姿を無言で睨みつけるようにクロウが見ると、犬歯を剥き出しにしながら後に続いた。
ぼく達はその伝言の意味を考えながら二人をおいかけるのだった。
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