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第五章 囚われの姫と紅の槍

1話 非日常が送られて来た

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 あの騒動から気付いたら三カ月の月日が経過していた。
その間にあった事と言えば、様子を見に来ると思っていた師匠が一向に来る気配がなかったからダリアの身体についての手紙を送ったら、暫くしてぼく達の家に転移して来て『思い付いた事があるから、レースちゃんとダーちゃんの髪の毛と皮膚の一部を頂戴っ!悪いようにしないからっ!』と言ってぼく達の了承を得る前に魔術で髪の毛を少量と指先の皮膚を一部切り取って『じゃあ、大体半年位で人の形になると思うからそうしたら持ってくるわねっ!』と言って持って行った事と、診療所の運営が人が増えた事で安定した結果、急患を除いた初診の患者さんを週に一度の決まった曜日に受け入れ、それ以外は予め予約を入れてくれている患者さんのみをに診るようにしたらどうかという、カエデの提案を受け入れた結果、今迄の負担が嘘みたいに減り受診する患者が多い日以外は3人程で回るようになった位で後は……

「レ―スさん……あの、今日もお願いします」
「あ、ちょっと待ってねカエデ」

 診療時間が終わり皆が帰った後に、カエデと二人きりで診察室に入る事が増えた位だろうか。
何でもぼくの治癒術で相手を治療する時間が余りにも速く、一般的な治癒術師とは違うとの事で、どのような理論で術を使用しているか彼女の身体を使って教えて欲しいという事なのだけれど、何だかいけない事をしているような気がして気が引ける。
特に最初の頃はダートに、十三歳の少女に対していやらしい事をしているんじゃないかというあらぬ疑いを掛けられた事があるのだけれど、どうしてそのような発想になったのか分からなくて逆に問い返したら顔を真っ赤にして逃げられてしまったので今でも分からないままだ。

「準備出来たよ、じゃあやろうか」
「……はいっ!」
「じゃあ、いつものようにこのタオルを強く噛んでおいてね」
「……ふぁい!」

 カエデがタオルを口に入れて噛み締めたのを確認すると、手に触れて魔力を彼女と同調すると、内側から命に別状がない範囲で身体を破壊する。
その瞬間痛みで彼女の身体が跳ねるがいつもの事だから気にしない。

「……っ!?んーっ!」
「じゃあ今から直すからね」

 そして同調した魔力の中からカエデの魔力を使って治癒術を使いどのように体が治って行くのか、どうやって壊れた部分を細胞から作り直して行るのかを教えて行く。

「終わったからもう楽にしていいよ」
「……はい、ありがとうございます」

 治療が終わると、カエデはペンとメモ帳を取り出し実際に経験した事をそこに書いていく。
この治癒術の指導を始めてから一カ月程立つけど、実際に彼女の治癒術を使う速さは以前と比べて比較にならない程に早くなったし治療の制度も飛躍的に上昇した。
とは言え最初に彼女にこの方法を提案した時は、異常者を見るような目で『そんな事されたら死んじゃいますよっ!』と怒られたけど、ぼくが小さい頃師匠にこうやって治癒術の使い方を教わったと説明すると、顔を真っ青にして『あの非常識な人から教わるとこうなるのですね』と言った後暫くして、『私が一歩先へ行き人として一皮剥ける為には、自ら過酷な道へ行く事も必要なのかもしれませんっ!覚悟を決めましたっ!お願いします』となり今に至る感じだ。

「いつも思うんですけど……、レースさんの治癒術の理論は実践で学ぶ感じですが、そこからどうやって新術を作ってるんですか?」
「んー、そこはやっぱり色んな人の身体構造を常に見ているからかな、ほら人って骨の数って小さい頃は三百個位あるんだけど、大人になると大体二百個前後にになるんだ、成長するにつれて離れていた骨がくっついて行って骨の数が減りその本数になるんだけどさ、実際に患者の魔力と同調して身体の構造を見ると、下半身の骨が一本増えていたり、尾骨辺りに尻尾の名残があるんだけど、そこは本来なら胎児の時点で二ヵ月したら引っ込んで行くはずの尻尾が残っている人もいる」
「あ、あの、ちか、」
「他にも筋肉もそうで、男性なのに女性に近い筋肉の付き方をする人もいれば逆もいる、それはその人のホルモンバランスもあるが日々の食生活も影響している可能性があったり、ぼくが師匠の所にいた時に実際に実験したんだけど、モンスターでゴブリンっていう亜人がいるでしょ?それの年老いた固体に若い個体の血液を輸血し続けて様子を見ると、年老いた固体の細胞がどんどん若返って行くっていう傾向があったんだ、それらをリストアップして人に転用した場合どういう風になるかを纏めて、師匠に試して貰うと暫くしたら結果が出るから、その時の経験を元に新術を作っている感じかな、特に人体再生の禁忌と言われた治癒術も切断された箇所を自己再生出来るモンスターがいるんだけど、そのプロセスを解明してぼくなりに治癒術の形に落とし込む事で……」
「ダ、ダートおねぇさまぁ!たすけてぇっ!」

 カエデが何か大声で叫んでいるけど、聞かれた以上はしっかりと伝えないといけない。
気にせず続けようと思っていると勢いよく首元を誰かに掴まれ後ろに倒されたかと思うと、彼女の前にダートが現れてぼくに対して怒りを込めた顔で詰め寄って来る。

「レースっ!あなたは伝えようとするのはいいけど、相手の事をしっかりと見なさいっ!暴走しすぎてカエデちゃんが怖がってるじゃないのっ!」
「え……?」
「あの……、聞いた私が悪いと思うんですけど、レースさんどんどん詰め寄って来て怖かったです」
「……ね?そう言う所さ、小さい頃お義母様とマスカレイドと一緒にいたから影響受けてるんだと思うけど、マスカレイドみたいで私嫌いだよ?」

 ダートに嫌いと言われて内心ショックを受ける、確かに彼はぼくにとっては父親代わりみたいなものだったけど、マスカレイドみたいと言われるのは嫌だ。
そう言う所しっかりと直していかないとな……、特に人に嫌な思いをさせるのだけは止めた方が良いと思うし、何より彼女には嫌われたなくない。
ここはちゃんとダートとカエデに謝ろう。

「……ダートごめん、気を付けるよ、後カエデも怖がらせてごめんね」
「謝ってくれたならいいですけど、次は気を付けてくださいね?」
「うん、気を付けるよ」
「次やったら今度は、私がレースを殴ってでも止めるからね?」

 そういうとダートは拳を作り軽くぼくの頭を小突いてぼくに笑いかけると、ふと何かを思い出しかのような顔をして、『ごめん、ちょっと待ってて』と言うと二階に走って行く。
何があったんだろうとカエデと二人で待っていると……

「待たせてごめんね、さっき差出人不明のレースと私へ向けた封筒が届いたんだけど何なのか心配だから、カエデちゃんも一緒に見てくれる?」
「お姉様がそういうならいいですけど、レースさんは見ても大丈夫ですか?」
「んー、まぁ、差出人不明である以上二人で見るよりも誰かが居た方が安心するのは確かだから見て貰っていいかな?」
「お二人が言うなら分かりました、では見ましょうか」

……そうして届いた封筒を開けて中を見るとそこには急いで書いたのか、読み辛い殴り書きで書かれた手紙が入っていて、読むのに時間が掛かったけど……、『レースとダートへ、ミントがトレーディアスの首都にて、商王に囚われ幽閉された、俺一人ではどうしようもないから助けてくれ ジラルド』と書いてあり、その内容を見たぼくは日常から再び非日常へと変わった事を理解するのだった。
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