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第四章 師匠との邂逅と新たな出会い

26話 新たな日常へ

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 アンが帰った後、クロウが起きるのを待っていたけど目を覚ます様子が無いから心配になる。
多分一時的に大量の血液を失ったり、肉体の一部を切除した後に作り直したせいで本人の体力と魔力を使い過ぎてしまったんだろうけど、もし魔力欠乏だったら今日はもう目が覚まさないだろうなって思うけど……

「レース、あの……、アンさんが私に言った事気になる?」
「んー、ダートが言いたいなら聞くけど、そうじゃないなら別にいいよ」
「……そっか、ならいい」

 ダートも何かこんな感じだし、いったい何を言われたんだろうかと気になるけど、夫婦になったらするって言ってたし何れ分かる事だろう。
そんな事を思っているとぼくの部屋のドアが開いて、ふらついたクロウが出て来たから、話の途中だけど立ち上がり彼の元へと向かう。

「……すまない、今回役に立てなかったな」
「いや、あの時助けに来てくれただけで嬉しかったから大丈夫だよ」
「それならいいが、力不足を体感した以上は鍛え直さなければな」

 彼はそういうと玄関に向かって歩いて行く。
顔色がまだ悪いから心配だけど、彼の性格的にここで止めてしまうとプライドを傷付けてしまう。
特に狼の獣人族は戦いにおいては誇り高い種族として知られているから、鍛え直すと決めた以上は必ず強くなる筈だ。

「俺は今日は帰らせて貰う……、今日は世話になった」
「クロウ、今日はありがとう」
「……あぁ」

 彼はそういうと玄関の扉を開けて家を出て行く。
ぼくはクロウが見送るとダートの居るリビングへと戻って隣に座ったけど、何やら彼女が難しそうな顔をしている。

「ダート、どうしたの?」
「んー、ちょっと考え事をしててね?、何て言えばいいのかな……」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
「ありがとう……、あのね?マスカレイドの目的は私なんでしょ?そしてケイスニルも今回私目当てに来たよね?」

 ……確かに彼等の目的はダートをマスカレイドの元へ連れて行く事だけど、その度にこうやって戦う事になるのは正直難しい事がある。
このまま行くと間違いなくこの町に被害が増えるだろうから、何れここを出て他所に行く事も考えなくてはいけないかもしれない。

「……そうだね」
「それでね?私がこの町にいると周りに迷惑をかけてしまうから、出て行った方が良いんじゃないかなって……」
「ん?どうして?」
「どうしてって、私がいると危険な人達が来ちゃうでしょ?だから私だけでもこの町から出て、お義母様の所でお世話になろうかなって思うの、そうすれば彼等も容易に手を出せないだろうし」
「そんな事考えなくていいよ」

 ぼくが言うとダートが驚いた顔をしてこっちを見るけど構わず続ける。

「ダートがそんな事を考えなくても良いようにぼくが強くなるし、それにもしこの町を出て行かざるおえなくなった時は、ぼくも一緒に行くよ」
「……でもそれだとレースも危険な目にあっちゃうよ?」
「それがどうしたの?、ぼくが君と一緒にいるって決めたんだ、それなら何があっても君を一人にはさせないし、君が辛い時はこうやって側にいる、だから出て行くとか考えなくていいよ」

 不安げな顔をしていたダートが、今度は顔を赤くして俯いてしまうけど、言いたい事はちゃんと伝えないと伝わらない。
だからこのままちゃんと言わないと……

「だから、二ヵ月ちょっと前の時に言おうとしたけど、ダートに自分の言葉で伝えて欲しいって言われた事を言うよ、君が好きだこれから先もずっと一緒にいて欲しい」
「わかったっ!わかったからもうやめてっ!……恥ずかしくてしんじゃうからっ!」
「で、でも、自分の気持ちや考えは伝えられる時に伝えないとっ!」
「それはそうだけど、勢いで何でも言えってもんじゃっ!」

 ダートが耳まで真っ赤にして声を荒げる。
……もしかしてまた何かをやらかしてしまったのかもしれない。
現に隣に座っているぼくの肩を何度も叩いてくるから、怒らせてしまったのかもしれない?

「もしかしてダートの事怒らせちゃった……?」
「……そうじゃないけどっ!ほんっともうっ!あなたはそういうとこだよっ!ちゃんと相手の事見ればそうじゃないのくらい分かるでしょ!?」

 そういうと彼女はソファーから勢いよく立ち上がると何故かキッチンの方へ歩いてってしまう。
確かにもう直ぐ夕飯時だけど、今日はぼくが夕飯を作る番だった筈だ。

「ちょっと……、今日はぼくが作る日だよ!」
「いいのっ!今日は私がレースの好きな物全部作ってあげるから座って待っててっ!立ったら怒るからねっ!」
「えぇ……」

 さっきまで怒っていた筈なのに、今度はキッチンの方からご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
……本当に何が何だかわからないけど、機嫌が戻ったのなら良いかなって思う。

『……ほんっと、おめぇら見てる分には面白れぇわ』
「さっきからずっと黙ってると思ったら……」
『だってそうだろ?、巻き込まれるなら嫌だけど、こういうのは見てる分には最高の娯楽なんだよ』
「……そうなんだ?」
『にひひ、そうだよ』

……ダリアがそう言うと楽しそうな笑い声を出しながらぼく達の事をからかって来ると『いつか俺にもおめぇらの作った飯を食わせてくれよな』と言って黙ってしまう。
ダートが夕飯を作ってくれてる間の話し相手になってくれるのかなって思っていたけどそうじゃなかったみたいで残念だけど、キッチンの方から良い匂いがする。
この匂いは本当にぼくの好きな料理を作ってくれてるみたいで嬉しくなる、ぼくも明日はダートが好きな物を沢山作ってあげようかなと思っていると、料理を持った彼女が笑顔でキッチンから出て来た。
そして二人で昨日今日と起きた事を、色々と話し合いながら一日が過ぎて行く。
今日が終われば、この忙しすぎる非日常が終わって、明日からいつもの日常がやって来る。
そこにはカエデや、アン、まだ顔を合わせた事が無いけどヒジリっていう人もいるだろうけど暫くしたら慣れるだろう。
そんな事を思いながら、ダートが傍にいてくれる日常を大事にしたいと思うのだった。
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