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第三章 戦う意志と覚悟

21話 あの女だけは許さない ダート視点

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 俺の前でジラルドの脚が切断され、目の前でコーちゃんの腕が切り取られ、それを助けに来たレースの脚が目の前で形も残らない程に壊されてしまう。
その姿を見た瞬間に、暗示の魔術を使ってなかったのに頭の中で何かが切れた音がしてもう一人の私に切り替わる。
そして心の中でこの女だけは絶対に許すわけには行かない、生かしていては行けないという憎悪が魔力となって身体から溢れて行く。
その気持ちに身を任せ本能のままに立ち上がると駆け出した。

「……あの黒染め野郎、コーちゃんやジラルドだけじゃなく俺の男までっ絶対殺してやるっ!」

 どの魔術であいつを始末するか?私が使えるのは空間に干渉する魔術で特性は切断だ、そして俺が使えるのは相手の精神に干渉する呪術と言われる呪詛を相手に与える術だ。
どちらも闇属性に分類されるけど、私がいた世界では空間属性と呪術として分けられて属性分けされていたからこの世界の人達よりも上手く使いこなす事が出来る。
試しに走りながら相手との距離を計算して空間に干渉していく。

「現在の距離約50m、空間跳躍時誤差2m」

 距離と誤差を計算したら後は跳ぶだけだ。
数歩先の空間を魔力を灯した指先で切り裂いて繋げると飛び込んで行く。
そしてあいつの側面に現れると共に呪術を唱える。

「狂え狂え狂気の腕、空の空の虚無の心、汝の心に空いた満たされぬ隙間に心押し潰され消えよ。汝の心に呪いを穿つ――我が許す自害せよ」

 呪術の力を宿した腕をあいつの顔に向かって大きく振りかぶる。
当たりさえすれば自ら命を絶つだろう。
それにこのふいうちだ躱せるわけがない。

「馬鹿ね……周りの風の動きであなたが来た事位分かってるのよ」
「やっべっ!」

 俺の身体に向かって風の刃が飛んで来るが、咄嗟に目の前の空間を切り拓いて風を受け止める。
幾ら切れ味が鋭い風の魔術でも通る場所が無ければ俺に届く事は無い。

「まさか……この集団の中であなたが一番相性が悪い何て思わなかったわ」
「貴様と相性が悪いのはもう一人いるがな……」

 アキラがそういうとあいつの周りに氷の壁を作ると初級魔術のファイアーボールを圧縮して中に投げ込んで蓋をする。

「……怖いのね、掴まっていたら酸素が無くなって死んでいたわ?それに仮にその状態で逃げようと壁に穴を空けたら外気を吸い込んで爆発させる気だったのでしょう?あなたの得意技だものね」
「相変わらず素早い奴だ……」
「当り前じゃない、風を受けて加速したり空を飛ぶのは風属性の基本よ?私ね、騎士団に居た時はずっと考えていたのあなた達と戦う時があったらどうすれば殺す事が出来るのかなって沢山頭の中でイメージしたわ?でもいくらやっても勝てないって思ったのは二人だけだったの、ちなみにあなたは倒せるに入っていたわ?」
「俺の事無視して仲良く話してんじゃねぇ!」

 空間を薄く切り裂いて相手に向けて飛ばす。
こうすれば相手からしたら眼に見えない風よりも厄介な不可視の刃になる。
ただそう来るのが分かっていたと言うようにそれを風の刀で受け止めると俺に向かって切りかかって来た。

「くっ!貴様っ!邪魔をするなら離れていろっ!」
「こんな風にあなたは味方がいると守ってしまうから弱くなる……だから私はあなたを倒せるの」
「……本当に貴様はやりづらいっ!」

 アキラが俺とあいつの間に入り氷の刀で受け止めてくれたけど、その後に風を正面から当てられて吹っ飛ばされてしまう。
……こいつ俺が痺れを切らして攻撃するのを待ってやがったのか。
アキラが言うようにやりづらい。

「後はあなただけどどうする?大人しく付いて来てくれるなら危害を加える気はないわ?」
「……仮に俺が付いて行くって言ったら、レースやコーちゃん達はどうなる?」
「え?……どうなるって殺すわよ?そうした方があなたの心を折れるじゃない?それに道中気が変わったって理由で逃げられる何て事もないでしょう?その為に殺すわ」

 こいつ躊躇う事すら平然と相手を殺すと言えるのか、俺もこいつを殺すつもりだから人の事言えないのかもしれないが。
この女は俺とは違いただ必要だから相手の命を奪うし、ただそうしたいと感じたからという理由だけで人の命を終わらせる事が出来る異常者なのだと思う。
大抵はこういう人殺しは捕まった後に、この人の過去にはこういう悲惨な事があったから大目に見てあげて欲しい、過去の経験から善と悪の境界線が曖昧だから、こいつが悪いんじゃなくて環境が悪かったんだからやり直す時間を作るべきだと第三者が騒ぐだろうが、それは本物の前では通用するわけがない。
冒険者ギルドから討伐命令が出た理由も良く分かる……、こいつは終わらせて上げなければ行けない人の姿をしたモンスターだ。

「それにあなたの男だっけ、あのレースって言う人は脚が無くなったって事はそろそろ血を流し過ぎて死んでるかもね。殺すとは言ったけど既に死んでる人は殺せないわ」

 その言葉を聞いた瞬間に頭の中で何かが更に切れる音がした。

「……よくも、よくもレースをっ!」

 無意識にレースの名前を呼びながら、言葉にならない程の悲鳴を上げて空間魔術の刃を飛ばし続ける。

「やり過ぎてしまったかもしれないわね。まさか魔術だけでここまでやられる何て思わなかったわ……」

 風の刀で受け止めきれなかった刃が腕を飛ばして行く。
躱しきれなかった所が切り裂かれて血しぶきが舞う。

「……落ち着け馬鹿者、レースは生きているしコルク達も無事だ」
「あぁっ!あぁぁぁっ!!」

 もう一人敵がいる……倒さないとっこいつの周囲の空間を切り裂いて範囲を狭める事で体を上下に切り離してやる。

「落ち着けと言っているっ!」

 顔を勢いよく叩かれて頭に上がっていた血が下がって行く……、私は何をしていたんだろう。
私は今誰を殺そうとしたのだろうか、目の前に居るのはアキラさんでその向こう側には全身から血を流しながら切り落とされた腕を残った方の手で持っているミュカレーがいる。

「あの……私は……」
「落ち着いたなら別に良い……戦えるか?」
「はいっ……」
「あまり気にしないで良い、戦場の雰囲気に呑まれただけだ。それ位誰でもなる可能性がある事だからな戻って来たなら問題無い」

 アキラさんはそういうと氷の刀を構えて相手の方を向いた。
それに合わせて彼の動きを補助できるように指先に魔力の光を灯していつでも魔術を使える準備をする。
そしてミュカレーは心器の武器を消すと片腕で器用に切断された腕を体に紐で括り付けて固定した後に空中に飛びあがり頭上の魔導具を蹴り上げるとそのまま回収してしまう。
……次は何をする気なの?

「そんな警戒しないで良いわ?……それにこんな状態で戦えると思う」
「貴様、まさか逃げる気か?」
「そうよ?悪いかしら?それに優秀な戦士は不利を悟ったら生存を優先するものよ……傷が癒えたらまた来るから楽しみにしててね?」
「……その時にまた皆を傷つけるなら私があなたを討伐します」
「あら怖い……でも楽しみにしてるわ」

……そういうとミュカレーは町の方へ飛んで行って見えなくなった。
どうしてあちら側に行ったのだろう……彼等の潜伏している筈の国は反対側なのにと違和感を感じる。
そして戦いが終わって緊張の糸が解けたんだと思う。
眩暈がしたと思ったら、急に視界が暗くなって行きそのまま意識が闇に沈んでしまったのだった。
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