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第三章 戦う意志と覚悟

8話 笑顔の理由

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 コルクに言われたように、眠くなったから客室で寝かせて貰っていると誰かがぼくの身体を揺すったり顔をつついて来る。
帰って来た彼女が寝ているぼくに悪戯をしかけて来たのかなと思うけど、流石に昨日話に行ってくるって真剣な雰囲気を出した後にそういう事をするような人では無いだろう。

「……レース起きて?ねぇレース?」

 ダートが起こそうとしてくれてるのか……、そういえば最近朝になるとぼくの部屋に来て起こしに来るようになったし夜もちゃんと寝ているのか確認しに来る事が増えた。
何でもそうしないと治癒術の開発や薬の調合等で徹夜をする事が多いから心配だって言う事だけど、ぼくにとってはそれが日常だから心配される事に違和感がある。
とはいえ、今日はぼく達の家では無くてコルクの家に泊まっているのだから態々起こしに来なくて良いのに……取り合えずまだ眠いけど起きようか。

「ダートおはよう」
「やっと起きた……。何回起こそうとしても反応無いから心配したんだよ?……起きてくれたから確認したいんだけど、あのね?コーちゃんを追いかけて家に入ったら知らない人が客間にいて意識が無いコーちゃんを椅子に座らせようとしてたから咄嗟に魔術を使って拘束しようとしたんだけどそこから意識が無くて気付いたらベッドの上で寝てたの……」

確かにダートからしたら何が起きたのか分からないだろうし、更には眼を覚ましたら何故かコルクのベッドで寝ているとなると戸惑いもするだろう。
取り合えず彼女に昨日何があったのかを詳しく説明する事にした。

「えっと、つまり私が魔術を使おうとした相手はコーちゃんのお客様で様子がおかしいところを止めてくれたの?私知らないで失礼な事しちゃった……どうしよう」
「いや、その場面だったらぼくでも同じ事をすると思うからしょうがないと思うよ。……それに誰もあのタイミングでSランク冒険者に遭遇するとは思わないし」
「うん……」
「それに暫くはこの町にいるみたいだし今度会ったら謝ればいいんじゃない?その時はぼくも一緒に行くから安心して?」

 ぼくがそういうと、ダートは何故か顔を赤くして小さい声で『そういうとこだよ』と言うが意味が理解出来ない。
取り合えずどうしたものかなぁっと思っていると、玄関の扉が開く音がする。

「たっだいまーっ!レースにダー起きてるー?昨晩は若いお二人を残した事を心の中で反省してたけど……」

 コルクがぼく達を呼びながら客室に入ってくると一瞬にして困惑した顔になる。
それもそうだ……、困った顔をしたぼくと顔を赤くして俯いているダートを見てどんな反応をすればいいのか。

「レース……、人の家でそういうの止めた方がええよ?それに若いから朝からそう言う事したくなる年頃かもしれんけど、コルクお姉ちゃんはそういうのちゃんとお付き合いしてからがいいと思うな」
「いや、コルクが考えてるような事はこれからも無いから安心して」
「あんたねぇ、うちのおふざけを真面目に返されると反応に困るからやめーや、それにそういう言い方は相手によっては傷つくから気を付けんと駄目やで?なぁダー」
「コーちゃん、私はもう慣れたよ……この人はこういう人何だって、でも私はレースの良い所沢山知ってるから彼が他の人に嫌われても私だけは傍にいるよ」

 コルクに言われた事は確かに気を付けないといけないなと思ったけど、ダートは何か意味深な事を言っているし朝から本当何なんだろうね。
それに慣れたって言われるという事は無意識に傷つけてしまうような事を彼女にしているのだろうか……もしそうなら今度しっかりと謝っておこう。

「あ、そういえばコーちゃん……昨日と違って今日は凄い明るいけどどうしたの?」
「……あぁ、その事何だけど昨日は取り乱してごめんなぁ、うちしょうもない事に今迄捕らわれてたみたいでな?それが解決して嬉しいんよ。それにダーこの左手の薬指見てみー?」
「……指輪?これどうしたの?」
「実はなぁ?うちが昔冒険者だった時に仲間だった奴等がおるんやけど、その中の一人と昔親密な関係になったんやけど冒険者と一緒になるのは許さんって親父に反対されて駆け落ちしたんやけどな?……うちがヘマして仲間を傷つけてもうてそれが原因で逃げるように冒険者止めてこの町に来た事はこの前ダーにも言うたと思うけどそれ以来、ずっと探してたみたいでな?……昨日勇気出して話し合いに行ったらうちの事をずぅっと心配してた言うてくれてこの指輪を私てこれから一緒にいてくれって言うんよ……最初は断ろうと思ったんやけど熱意に負けて受け取ったんやー」
「えぇっ凄いっ!いいなぁっ!……コーちゃん良かったねっ!」

 長い……話が長い、ただこの話を聞いているダートはまるで自分の事のようにコルクに共感しているし羨ましそうに指輪を見てぼくの顔を見たりしている。
そんな謎のジェスチャーをされてもぼくが何をしろというのか……。
こういう時に下手に口を挟むと面倒事に巻き込まれるだろうから黙っていよう。

「でも、指輪を受け取ったって事は将来的にこの町を出てどこかに行くの?」
「行んよ?うちはこの町が気に入ってるからねぇ……あいつもそこんところ理解してくれてこの家で一緒に暮らしてくれるって言うからずっといるよー」
「んー、それは良いと思うけどこの町って冒険者ギルド無いじゃない?その人お仕事どうするの?」
「ほらちょっと遠いけど隣町にならあるから大丈夫なんよ。それにもう一人の仲間が向こうで宿の部屋を取って依頼を受けてくれるらしいから仕事も問題無いしねぇ」

 コルクからしたら逃げ続けて来た問題が解決したのが本当に嬉しいんだろう。
でも、ジラルドと一緒に生活をするって言う事はこれから先ぼくが栄花騎士団に同行する時が来た時について来て欲しいとは言えなくなる。
彼女の幸せを祝ってあげたい半分、ちょっとだけ残念だ。

「ところでレース?あんた全部顔に出てるから、そういう所気を付けなきゃいかんよ。……どうせあんたの事だからぼくが栄花騎士団に同行する時が来たらコルクお姉ちゃんにもう頼れないからどうしようって思ってるんやろ?そん時は仲間にこの店任せてついて行くから安心せぇや」
「……それってジラルドさんが嫌がったりしない?」
「は?嫌がろうがうちがやりたいって思った事だからええんよ。それにそんな心配なら付いて来させるわ、仮にもAランク冒険者になって【紅の魔槍】何て痛い名前で呼ばれとるんだからこきつこうたるわ」

 ぼくが彼等に会った時はまだBランク冒険者だったから、あれから数年してAランクに昇格したのだろう。
そして隣ではまるで憧れの関係を見るかのような少女の顔をしたダートが眼を輝かせている。

「いいなぁ……私もそうなりたい」
「んー、それは無理やろ。うちらにはうちらのダーにはダーの関係があるんやから自分らにあった関係を築けばええ、無理のない範囲で頑張りや?」
「うんっ!」
「本当、ダーはかわええわぁ……って事でレース、暫くうちはジラルドと一緒に暮らす準備に忙しくなるからアキラさんの方はあんただけで頼むわ」
「わかった。ぼくからもそういう風に伝えておくよ」
「あんがとね。まぁ、でも肉体強化と魔術を同時に使えるようになったらって言うてたしそもそも数に入ってないと思うけど一応な?」

 確かにそう言っていたけど、ぼく一人であの人とうまくやれるだろうか……。
相手はぼく以上に人とのコミュニケーションを取るのが苦手そうだから心配になる。

「後仲間の事をダートに紹介したいから今日一日借りるで?って事で今日はこれから仲間達もここに来るし、あんたも待たせてる人がおるんやからさっさと行ってあげな?」
「……私も会って見たいから今日はこっちにいるね?。正直レースが一人で大丈夫か心配だけどたまには一人で頑張ってみて?いってらっしゃい」
「わかった。行ってくるよ」

そういうとぼくはコルクの家を出てぼく達の家へと向かって歩いて行く。
人が来るならずっと居るのも邪魔になるだろうから直ぐに帰ろう。

「ちょっ!朝ご飯食ってから行けばって行ってもうた……せめて三人で食べてから行けばいいのに……」
「もしかしてレースなりに気を使ったのかも?」
「気遣いは嬉しいけど、せめて言葉にしぃや……慣れたけど」

……ぼくが出て行った後にコルク達がそんな事を話してるなんて知らずに家に向かって歩き始める。
ただ町を出る前に朝ご飯を食べていなかった事を思い出して、昨日アキラさんと一緒に入って飲食店に一人で入るとこの前接客をしてくれた人がいてぼくが一人で来た事に驚かれた。
取り合えず軽食を頼んで食べ終えたら直ぐに出て行ったけど、出てくるまでの間にダートと今度一緒に来て欲しいと言われて反応に困ってしまう。
何かぼくの日常の中で彼女が傍にいてに当たり前の存在になってるように周囲からもそうみられているようで複雑な気持ちを抱きながら帰路へと付いたのだった。
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