治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第三章 戦う意志と覚悟

7話 合わせる顔が無い

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 ダートをそのまま床に寝かせておくわけにも行かないから、家主のコルクには悪いけど彼女の寝室をまた貸して貰おう。
ぼくは気を失っているダートを背負うと寝室へと運んでゆっくりと降ろして寝かせてあげる。

「後は……、コルクの方だけどシャルネさんの言い方だと大分取り乱していたみたいだから起きた時に暴れたりされないようにしないとね」

 取り合えず店舗側にコルクを拘束出来る物は無いだろうかと探してみる。
元とは言えBランク冒険者だった相手が本気を出したらぼくでは一溜まりもない……、ただ座っている椅子に腕を後ろにして縛るだけでは横に倒れた瞬間にぼくには分からない方法で拘束を解かれる可能性があるからやるなら、体幹や四肢を拘束して身動きが取れないようにした方が良いかな……その方が、体に力を入れて転倒する事もないし怪我をさせる心配もない。

「ロープ見たいな物があったらいいんだけど……」

 棚を物色していると、荷造り用のローㇷ゚が一巻き置いてある。
ぼくはそれを手に取るとコルクがいつも座っている場所にお金を置いて客間に戻る事にした。

「まだ……起きてないみたいだね」

 取り合えずロープを使い手足を椅子に固定した後に、きつく縛り過ぎないように体幹を縛る。
これで問題無い筈だ……、後は彼女が眼を覚ますまでゆっくり待とう。

「……ん、んん……って動けないってなんやこれっ!?ってレースっ!?これやったのはあんたなん!?」

 何時起きるのか分からないから暫く座ってコルクの顔を見ていると、彼女が目を覚まして驚きの声を上げる。
それはそうだろう……、起きたら縛られていて身動きが出来ないようにされていたらぼくだって同じ反応をすると思う。

「落ち着いて聞いて欲しいんだけど……」
「こんな縛られた状態で落ち着くも何もあるかっ!あんた……ダーに一途な男だと思ってたら私にこんな事をするなんて見損なったよっ!それにうちはもうこの町から出るんだから放っておいてよ!」

 自由に動く首を動かしてぼくの事を睨みつけながら声を荒げる。
コルクにこんな事をするなんてと言われても……日頃ぼく達の事を弄って遊んでる以上説得力がないのと、彼女との付き合いが長いから反応したら自分のペースに引きずり込まれるのも理解している以上乗る気はない。
それにしてもやっぱり町を出て行くつもりだったのか……シャルネさんが気絶させてくれて良かった。
ぼくがコルクの思惑に乗る気が無いとわかったのか徐々に大人しくなって行く。

「で、話って何なんよ」
「……シャルネさんが取り乱したコルクをの意識を刈り取る事で無力化したそうだけど覚えてる?」
「……あれは賊やなくてシャルネさんやったんか、そりゃ一撃で伸されるわけだわ」
「その後にぼく等がコルクの事を追って家に来たのだけれど、ダートが先に入ったらシャルネさんを敵だと勘違いして同じように意識を奪われたから彼女はコルクの部屋で寝かせてるよ」

 話していて思うけど本当にあの人は、たった一撃で二人を無力化出来るってどれくらい強いんだろう。
考えれば考える程理解が出来ない世界に眩暈がしそうになる。

「……取り合えず分かった。うちを縛ってるのももしかしたら起きた後に暴れるかもって事やろ?良く分かってるやん」
「そりゃ付き合いが長いからね……。一応シャルネさんから伝言を受けてるからそれも伝えたいのだけどいいかな?」
「こうなったらうちに聞くしか選択権無いやん……」
「そうだね……、ジラルドさんとクロウさんを連れて来たのはシャルネさんらしくて今同じ宿屋に宿泊してるって」

 その言葉を聞いて、コルクは俯いて無言になってしまう。
ぼくは彼女の仲間がどうして重傷を負ったのかを知っているから何故逃げるのか知っている。
冒険者ギルドの依頼で、とある遺跡のダンジョンを探索する事になったらしいけどその際に3人では手に追えない強力なスライム系のモンスターに遭遇したらしく抗う事すら出来ずに無力化されてしまい、暫くして連絡が取れなくなった彼女達を冒険者ギルドの職員が救援に向かい救出されたとかそんな流れだった筈だ。

「うちはジラルド達に合わせる顔が無いんよ……レースも知ってると思うけど、強力なモンスターが出る場所じゃないからって油断して私があの時索敵に失敗しなかったらっ!あんな事にならなかった!」
「でも、ここを出ても彼等が探してる以上はまたこうやって見つかるよ?……それにその度にまた逃げてもいつか逃げ場が無くなるよ?」
「……そんなん分かってるんよ」
「一緒にこの町に逃げて移住したぼくがいうのも違うと思うけど、こうなった以上は話し合った方がいいよ」

 ぼくがそういうと暫く無言の時間が続く。
コルクはコルクなりに何かを考えているのだろうしそれを邪魔してしまうのは彼女に悪いだろうから今は答えを出すのを待ってあげよう。
そんな事を思いながら様子を見ていると、何かの覚悟を決めたような顔をしてぼくの顔を見る。

「もう逃げないから拘束を解いてよ」
「……分かった」

 コルクの意志を尊重して四肢と体幹の拘束を解いて行く。
その間も大人しくしてくれているのを見ると本当に逃げる気はないらしくて安心出来る。

「縛られてたおかげで全身が痛いわぁ……それにしてもあんたが特殊な性癖に目覚めたのかと一瞬心配になったけどそうじゃなくて良かったわ」
「特殊な性癖って……まぁ何ていわれても良いけどさ」
「ほんっとあんたは、ダーと違ってつまらん男やわぁ」

 暫くして拘束を解くと勢いよく立ち上がり客間を出て行こうとする。

「どこに行くの?」
「ん?……あぁ、折角来てくれたんやし勇気出してうちから会いに行ったろうと思うてな」
「辛かったら無理はしない方がいいんじゃない?」
「ええんよ、うちが決めた以上はしっかりとやるから朝まで留守番頼むわ。あんたは知ってると思うけど眠くなったら客間の隣に客人用の泊まれる部屋があるからそこのベッド使いなよ?……後はせやねぇ、あんたの大事な女の子が近くで寝てるからって変な事せんようになー?別にしてもええけどうちには分からんようにしときっ!って……怖い顔すんのやめーやっ!コルクお姉ちゃんの茶目っ気位多めに見てって!」

……正直行くならさっさと行けと言いたいけどそれを言うとまた面倒な事になるから絶対に反応はしない。
ぼくが黙っているとふざけても意味が無いと悟ったのか『じゃあ後はよろしくね』と言い残してそのまま家を出て行く。
しかしコルクが朝まで帰って来ないとは思わなかった。
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