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第三章 戦う意志と覚悟

4話 秘匿の技術 ダート視点

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 使うなと言われてはいたけど、レースがやられた以上は元の俺のままじゃ戦えねぇ。
それにあいつから話し合えと言われた以上は俺の方が良いだろう。

「ダー……あんた……」
「コー、使うなって言われてたのにわりぃ……けどあいつが傷つけられた以上は話は別だ」
「……あんたが決めて必要だと思ったならいいよ。うちには人の意志を止める権利はないからね」

 俺達が小声で話してる間に、目の前にいるアキラとレースに呼ばれた男は氷でテーブルを作り、周りを囲うように氷の椅子を3脚並べると座の部分に敷物を置いて何処からかティーポットを取り出すと人数分の紅茶を淹れ始める。
……何なんだこいつ

「何をぼけーっとしている?話し合いをするのだろう?……この通り場所を用意したのだからさっさと座れ」
「……おめぇ、さっきまで何してたか忘れたのか?」
「今は感情論で動くべきではないと思うが?」
「ダー、気持ちは分かるけど今は話し合いの方が大事だよ……おっ!この紅茶美味いなぁっ!しかもあの一瞬でここまでの香りも出せるなんてどうやったん?」
「貴様……今は確かコルクと名乗っているのだったな……、コルクは分かるのかこれがっ!」

 アキラは急にテンションを上げると凄まじい程の早口で、この紅茶をどのように淹れたのか説明しだす。
お湯の温度にティーカップの温度の話をされても俺には何もわからねぇし、正直美味しければ何でも良い……、その過程の作り方の難しい話何て出来る奴に任せれば良い話だけどこのままではレースが望む話し合いが進まない気がする。

「……コー、話し合いするんじゃねぇのか?」
「……今は相手の機嫌を取ってこっちのペースに引き込んだ方がえぇんよ。アキラさんは紅茶が凄い好きなんやねぇ……。凄い勉強になったわぁ、今度時間を貰ってもっと詳しくうち知りたいなぁって思うんでそろそろお話ししましょ?」
「ん?あぁ、そうだったな。ならまずはレースが言った誤解の件なのだが、私は同僚のアキからレースに魔術の指導と戦闘技術の指南に来ただけだ」
「それならどうして腕を掴んで強引に連れて行ってたんだよ」

 魔術の指導はまだ分からないでもないが、あいつに戦闘技術の指南だ?。
あいつが戦う必要はねぇと言いたいが、女子会で言ってたように俺を守る為の力が欲しいって理由だったら嬉しくなっちまう。
レースを守るのは俺だけど……、好きな男に守られるっていうのも何だか良いなって思うけどそれなら何故さっきの戦闘中に誤解を解こうとしなかったのかが理解出来ない。

「ん?栄花の戦闘技術は秘匿としている物が多い、そのような大事な話を町中でするよりもレースの家で落ち着いて伝えた方が良いだろう」
「いや、理由は分かったけど、どうして腕を掴んで強引にだな」
「強引ではない、任意の上での行動だ。レースが嫌がるなら止めたが嫌がってないなら問題ないだろう」
「あぁ……、アキラさんってもしかしてめんどくさいって言われたりせん?」

 アキラはそう言われると驚いた顔をして暫く黙り込んでしまう。
もしかして自覚が無かったのか?とは思うけどそれを言うとこじれるかもしれねぇから俺は黙っていた方が良い。
それにこういう時の交渉は俺よりもダーの方が向いてるだろうし、俺は何かがあった時に直ぐこいつの動きを止められるようにいつでも魔術を使えるようにする。

「急に黙り込んでどうしたん?」
「……アンに、いや嫁にも同じ事を言われた事があってな。【あなたは自分が正しいと思った事を相手に押し付けてしまうめんどくさい人だから私がいないと駄目だ】って良く言われていてな……」
「はぁっ!?おめぇその性格で結婚してんのかよっ!?」
「……同僚にも同じ事を言われるから慣れているが、初対面でそれを言うのは失礼な奴だな」
「わ、わりぃ……」
「ダー?あんたはちょっと黙っときな」

 思わず声を荒げちまったがしょうがねぇよ……それにこいつと結婚して夫婦になる女ってどんだけ良い奴なんだよと思うけど相手の異性の好みに関してとやかく言うのは好きじゃねぇから、コーが言うように黙っている事にする。

「ならそのお嫁さん……アンさんでいいの?その人が言うように気を付けるんよ?」
「だな……。現に勘違いから戦闘になった経緯が私の落ち度であった以上そう言われてもしょうがない謝罪しよう」
「……うちらが死にかけた事には言いたい事あるけど、正直冒険者何ていつ死ぬか分からん仕事してる以上あそこで死んでも何も文句は言えんのよ。まぁ、うちはもう冒険者じゃないんやけどねっ!」
「そこは貴様らが弱いのが悪いと思うが……、いやそんな顔をしないでくれ本当にこの度は申し訳なかった」

 確かに弱いと言われたら何も言えないし、冒険者をしている以上はいつ死んでもおかしくないのは俺も理解している。
依頼を受けてダンジョンと呼ばれる古い遺跡や洞窟等の秘境や危険地帯の探索を行い内部に生息しているモンスターと戦闘する事もあれば、盗賊等の犯罪者を討伐する中で運が悪ければ死ぬ事があるけどそれはもうしょうがない事だ。
例えばこの町の外部にある開拓地の森もダンジョンの一つで本来は俺達冒険者が駆り出されるが、ここの領主は冒険者を雇う金を渋っているらしくてCランク以下の元冒険者を安く雇い護衛隊として運用していたりする。

「謝罪すんなら誠意を見せて貰わんとなぁ……、栄花の秘匿としてる戦闘技術と言うの見せてくれへん?」
「……ここは町中ではないから良いだろう。それに元Bランク冒険者の貴様なら無暗に他言はしないだろう。」

 そういうとアキラは椅子から立ち上がり、自身の魔力を練り上げる。
一見すると魔術を使う為に魔力を一点に集中しているように見えるんだが……

「……ん?それくらいならうちでも出来るで?」
「コーっ!違う……これはそんなもんじゃねぇっ!」
「ほぅ……ゆっくりと時間をかけても貴様らでは分からないとは思っていたが貴様はこれの意味が分かるのか」

……これは確かに俺達が弱いって面と向かって言われても文句言えねぇと感じる位の現象が目の前で起きていて言葉が出なくなる。
魔力を放出する魔術の流れの中に、肉体強化の為に肉体を循環させる魔力の流れを内包していて……外側には治癒術の魔力の波長を合わせる力を纏わせてそれぞれの流れをどうやっているのか1つの形へと組み替えて行く。
それは刀身が氷で出来た一振りの美しい刀だった。
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