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第二章 開拓同行願い

22話 お金の匂い

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 朝になって部屋から出ると部屋のドアの前に立っているダートと目が合った。
起こしに来てくれたのかなと思うけど、ぼくの顔を見ると頬を赤くして足早に歩き去ってしまう。
……もしかして無意識に怒らせるような事をしてしまったのかもしれないけど思い当たる節が無い。
どうしたものかと思っているとリビングの方から声が聞こえる。
盗み聞きするようで悪いけど、そろそろ朝食の時間だろうし近くに行っても問題ないだろう。

「どうしようコーちゃん……私レースの顔を見れないし声が出なくなるの」
「ダーは本当可愛いなぁ……うちがこの前言った事が今なら理解出来るんちゃう?」
「うん……」

 ぼくの顔を見れないし声が出なくなる……?まさかそこまでダートを怒らせるような事をしてしまっていたとは思わなかった。
ただ怒らせてしまった以上は謝った方が良いとは思うけど、原因が分からないのに取り合えず謝るのは止めた方が良い気がする。
ぼくが逆の立場だったら取り合えず表面上だけ謝っといた方がいいという考えが分かる謝罪の仕方をされたら複雑な気持ちになるだろう。
……取り合えず彼女と会話しながら原因を探してみよう。

「ダート、コルクおはよう」
「あ、あの……お、おはようレース」
「おぉ、レースおっはよー。昨晩はダートとお楽しみさせてもろたよー」
「コ、コーちゃんっ!?レ、レースこれは違うのっ!起きたら同じベッドの上で一緒に寝てただけでそんな事なんて無かったからっ!……あっいえ……ご飯出来てるから早めに食べてね?私部屋に戻るからっ!」

 さっきは顔を赤くして怒っていたと思ったら、今度は急に慌てだして要件を伝えるとそそくさと部屋に戻ってしまう。
本当にぼくがいったい何をしたというのか。

「ふふっかわいい子やねぇ」
「コルク……、ダートはいったいどうしたの?」
「んー?しーらなーい、それ位ダートの為にレースが自分で良く考えなきゃダメだよ?」

 本当に何なのか……。
分からないから聞いているのに自分で考えろと言われるのは理不尽だ。
しかもそれがダートの為になるって言われてもどうすればいいんだろう。

「ただそうやねぇ……、あんたはほら、興味が無い相手だと名前すら覚えもしないし感情を理解する気もないじゃない?そこんとこも含めてあんただから否定はしないけどさ、身近な人にもっと関心を持った方がええよ?ダーにも言われた事あるんじゃない?」
「確かに一緒に暮らし始めてから直ぐに言われて怒られはしたけど……あれは暗示の魔術を使ったダートであって……」
「そういう時にあれこれ言わんの、前置きに言い訳を長々としてあんたの株を自分で下げるのは止めた方がええよ?それに暗示を掛けてようがなかろうが本質は変わらないしダーはダーだよ。……まぁこれを言うと話が逸れるから戻すけどな?もっとダーの事をちゃんと見てあげた方がええよ?じゃないとあんな良い子がかわいそうだよ。ちゃんとダーの仕草や話し方を良く見て誰にどういう感情を抱いているのか考えてみな?」

 ……要するに言い訳をして自分を悪く見せないで、身近な人の事をもっとしっかり見てあげてという事だろうか。
見てる筈だけど結構難しいな……、取り合えずダートが用意してくれた朝ご飯を食べながら考えよう。
野菜と鳥肉を炒めてパンの中央に切り込みを入れて挟んだ物か……確かバケットサンドって言ったっけ……、パンの優しい味の後に鳥肉の柔らかい食感と野菜のしゃきしゃき感が口の中で踊り食べているだけで楽しくなれる。

「あかん、軽く助言する筈ががっつり言っちゃったわぁ……って本当あんたはブレないなぁ。うちがここまで頑張って話してるのに堂々と良い顔して飯食べれるんやもんなぁ」
「いや、ちゃんと聞いてたけど食べながら考えようかなって」
「……はぁ、まぁいいけど、しかしあんた見事に胃袋掴まれてるんやねぇ」

 確かに最近ダートの作ってくれるご飯が美味しいから毎日でも食べたいと思っているけど、胃袋を掴まれてるかどうかと言われたらわからない。

「そういえば話変わるけどケイやアキは何時うちに来るか知ってる?」
「ん?あぁそうやねぇ……レースが寝てる間に連絡があったけど朝早くは悪いから、お昼過ぎに来るって言うてたよ?ただこの魔導具本当に便利屋ねぇ……近くにいる誰かと魔力の波長を合わせる事で会話が出来るとかうちの店でも欲しいわぁ、あったら商品の仕入れとか色々と楽になりそうやし」

 そう言うとコルクがアキから渡された端末を見て何やらぶつぶつと言い出す。
商品の仕入れが楽になる?確かに村に来る行商人に必要な物を伝えて揃えているとは言っていたけど来るのは一月に一度位だった筈、確かにそれなら直ぐに連絡が取れるこういう端末があればいつでも欲しい商品を伝える事が出来る……面白いかもしれない。

「って事でな?あの二人が来たらばらして研究して良いか聞いて許可を貰えたら、うちの知り合いの魔導具職人に渡して作って貰うから出来たらあんたらにも渡すわー」
「渡すってぼくが持つ必要ある?」
「あんた商売が分かって無さ過ぎやろ……これが診療所にあれば急患の連絡もスムーズに行えるし、レース達が常に診療所におらんくても治療が必要な時に連絡を貰えるようにすればその時だけ診療所を開くとかできるやん?その分あんたが強くなる為の修行の時間が増えるんだから良い事尽くめやんか」

 言われて気付いたけど確かにそれならコルクが言うように出来る事が増えると思う。
それに魔術の勉強以外にも診療所で使う薬草類も森に集めに行きやすくなるだろうし、それなら是非とも欲しい。

「って事で、食器はうちがなおしておくからダーのとこ行ってきー」
「……何でダートの所に?」
「あんたまだダーに魔術を教えて欲しいって伝えてないやろ?……一応うちがあんたが起きる前に話しといたけど本人からしっかりと教えてと言うのが筋やろ」
「…ありがとう。それならお願いするよ……ところでなおすって何?」
「かたすと同じ意味や……、その場の勢いで商国の言葉使うたうちが悪かったわ……そんなんはいいから、さっさと行ってきな……あ、片したらおばちゃん1時間位外に出といてあげるから物音がしても大丈夫だよ」

 魔術を教えて貰うだけだから物音がするような事はしないんだけど……、まぁコルクの発言全部気にしてたら切が無いから相手にしなくていいか。
コルクに片付けを任せてダートの部屋に行くけど近づくにつれて何やら声が聞こえてくる。

「朝ご飯美味しいって思ってくれたかな、コーちゃんに教わってレースの好きな物を沢山入れたんだけど……気に入ってくれたなら嬉しいなぁ、でも不味いって思われたらどうしよう。……こんな事なら魔法の勉強以外にもお母様からもっと嫁入り修行受けとくんだったなぁ……」

 ドアをノックしようとしたら聞こえた声に困惑してしまう……ダートはいったい何を言っているんだ。
今も現在進行形でぼくが好きな服装は何だろうとか髪型はどういうのだろうかとか凄い言ってるけど、服装は彼女の好きにすればいいと思うし髪型は今でも充分似合ってるのだから変える必要ないだろう。
そもそもな話、何故そこにぼくの名前が出てきているのか……今日の彼女は何かおかしい気がするけど部屋の前でいつまでも盗み聞きしてるのも良くないと思うからノックをすると暫く部屋の中でドタバタと音がした後に勢いよくドアが開く。

「え?あっコーちゃん?どうしたの?……えっ?」

 そして勢いよくドアが閉められる。
部屋をノックしたのにどうしてこういう扱いになるのだろうか……。
何か言ってるのが聞こえるけどもう一度声を掛ける。

「……今の聞かれてないよね?……大丈夫聞かれてない……」
「……コルクから話を聞いてると思うけど魔術を教えて欲しいんだ。」
「え、あっうん……今部屋掃除してるから待ってて?」

……何故部屋を掃除する必要があるのかと思うけど下手にあれこれ言ってまた怒らせるのは嫌だから黙って待つことにした。
暫くしてゆっくりとドアが開きコルクの姿が見えると思わず息をのみ出すべき言葉を失ってしまう。
ただ思ったのは、普段着てる青い村娘風のワンピースとは違い、お嬢様が着るような白いワンピースを着たダートがいて可愛いという印象だ。
……でもただ部屋に入って魔術を教えて貰うだけなので着替える必要があるのかという疑問があるけどぼくにはその行動の理由が理解出来ない。
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