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第二章 開拓同行願い

17話 死人の群れ

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――森の奥から湿った音が近付いて来た。
遠くから身体の一部が欠け所々が腐敗したゾンビのアンデッドが姿を現す。
――既に何かを映す事のない複数の空虚な瞳がぼく等を見る。
それ等の一部は欠けた肉体をそれぞれ他の生物で補い人としての姿を捨てて行く。
目の前にある光景は理解が出来ない程に現実味を失い、常人であれば正気を喪失してしまってもおかしくない異常な光景だ。

「まさか……ここまで沢山出てくるとは予想してなかったっすねぇ」
「それに端末の反応を見るに、死人使いルードが近くに居る可能性がありますね……」
「やっぱり巻き込まれるんやねぇ……」
「まぁうんそうなるよね……ただ開拓に同行するって決めたのはぼく達だからやる事はやろう」
「でも、これはいくら何でも多すぎて……」

 ダートの指に光を灯して暗示の魔術を使おうとする。
それを見たぼくは咄嗟に彼女の手を取り発動の邪魔をした。
使えば使う程影響が出てしまう術を使わせたくはない……

「レースっ!どうして……」
「それを使うのは本当にどうしようもない時だけにして欲しい……、それに今のダートにはぼくとコルクがいるから大丈夫だよ」
「それはそうやけど、今はいちゃつかずに自分の身はちゃんと守らんとあかんよっ!」
「まぁ……緊張感無いけどこれはこれで良いんじゃないんすかね……とりあえず行くっすよ」

 ケイがそういうと大剣を片手に持ちアンデッドの群れに突っ込んで行く。
その彼を水色の矢が何本も追い抜いて行き、頭を射抜いて的確に破壊して行った。
アキがさっきから黙っていたのは矢の準備をしていたのかと思い彼女の方を見ると、魔術で水の矢を作り狙いを付ける事無く連射をしている。
矢筒が無いのに弓を持ってるのが気になってはいたけど……、魔力で眼と腕を強化して魔術と同時に使用するってどうやってるのだろう。
例えるなら魔力で体を強化するのは、燃料を循環させるようなもので魔術の場合は燃料を燃やして消費するような感じだ……同じような物に魔力を武器に通して使う武術と言う物があるけどぼくには使えないから良く分からない。

「私の顔を見つめるよりも今は戦うべきだと思いますよ?……ダートさんを守るんですよね?」
「えっあ、すいません」
「ほんまよ……、ダートがいるのに浮気は良くないでっとぉ!」

 浮気って……だからぼくとダートはそんな関係じゃないのにと思いコルクを見ると素早い身のこなしでアンデッドに近づき短剣で頭を切り飛ばしつつ強化された脚で相手の身体を踏み砕きながら距離を取っていた。
斥候は肉体の強化を五感と脚力に割り振っている事は知っているけど、攻撃にも使う事が出来るのは面白いなと思う。
 
「ぼくが出来る事……全体の動きを良く観察して出来る範囲を探してみようかな」

 ぼくは普段から付けている診察の効果が付与されている魔導具の眼鏡で良く相手の事を見てみる。
アンデッド達の頭の上と四肢から細い魔力の糸が出ており森の奥へ向かい伸びている……これはいったい何なのだろうか。
まるで人形を操るかのように糸と体の動きが連動していて不気味さを覚えてしまう。

「死人使いと戦うのは初めてっすけど……アンデッドって頭を飛ばせばもう動かない筈っすよね?」
「それやけど……頭無くなっとんのに起き上がるの変やない?」

 二人が言うように一般的にアンデッドというのは脳を破壊する事で活動を終わらせる事が出来るけど皆が倒したアンデッドは、頭に他のアンデッドから切り離された腕を継いで立ち上がったりと明らかに異常な行動を取っている。
もしかして……?と思うけど確証が取れない。

「コーちゃん……これは本当にアンデッドなの?」
「んー、うちじゃわからへんよ……レースはどうなん?」
「今診てるのでもう少し待って欲しい」

 ダートが空間を切り裂きその間を真空にして作った刃を相手に飛ばして切っているけどそれも効果が内容だ……。
物理的なダメージでも駄目、アキやダートの魔術的な物でも効果が無いとなると……?、そうしている間に診察の結果が出る。
【種族:人型アンデッド 状態:傀儡(かいらい) 治療法:無】

「……傀儡という状態になってるみたいだね」
「まじっすか、傀儡とか厄介な魔術を使うっすね……それにアンデッドという生ける屍を人形にして操ってるってなると道理で倒しても直ぐ起き上がる訳っすね……何とか出来ないっすか?」
「何とか……?」
「レース!あんたの新術用に用意した短剣とか使えんの?」
「……それならっ!」

 本来なら相手の動きを阻害する為の新術だけど……自身の魔力を相手の魔力と波長を同調させることが出来る治癒術なら相手の魔術の干渉を止められるかもしれない。
物は試しとダートが魔術を使い一時的に倒したゾンビに短剣を突き刺して距離を取った。
短剣にはぼくの魔力で編んだ糸を括り付けていて、体と繋がっているから離れても治癒術を使う事が出来るように細工をしてある。

「今から傀儡を解除出来るか試してみます」
「待ってくださいレースさん……術者に波長を合わせて位置を知る事って出来ますか?」
「術者に……?やってみるよ!」

 意識を集中して相手の魔力の波長にゆっくりと合わせて行く。
暗い波長をした魔力が自身の身体に纏わり付いてくるような不快感が全身を襲い頭の中で酷い頭痛がして顔をしかめる。

「……レース、大丈夫?」
「うん、これくらいなら我慢すれば合わせられる」
「無理はしないでね?苦しかったら暗示を使って変わるから」
「それは駄目だ……お願いだからぼくにやらせて」

 どうにか波長を合わせる事が何とか出来た。
アンデッドから伸びている魔力の糸を辿り術者の姿を捜して行く……。
そうすると思いの外距離は離れておらず、近くの樹の後ろに座っている姿が脳裏に浮かぶ。
長い前髪で顔の右半分を隠し、左目には青い涙の刺青して、何処にでもいそうな村人風の服装をした12歳ほどの幼い少年の姿が映し出される。

「アキさん、ぼく達から見て左側の3本目の樹の後ろに居ます……」
「ケイ、お願い出来ますか?」
「今行くっす!」

 ケイがそういうと周りのアンデッドを大剣でなぎ倒すと自身の影の中に自らを沈めて行き死人使いの元へ転移する。
そしてぼく達から見えない所で大きい鉄の塊がぶつかる音がして、それと同時に周囲のアンデッド達が糸が切れたように倒れ元の死体へと戻って行く。
これで終わったと安心して緊張が解けて行く感覚に安堵感を覚えた。
それにしてもまさかアンデッドがいる場所よりも一人もいない場所に居る何て思わなかったな……戦いである以上味方が多い安全な場所にいると思っていたのだけど……

「これで終わったんですね……」
「暗示の魔術を使わないで終わる何て初めて……」
「言うたやろ?うちとレースが使わせへんって、それにしてもかっこつけの馬鹿だと思うとったけど栄花騎士団の最高幹部なだけあって実力は本物なんやねってまじかっ!」
「……っ!あなた達っ!まだ終わってませんっ!警戒を解かないでくださいっ!」

 コルクとアキが身構え警告をすると同時にケイが前方の樹と共に吹き飛ばされて飛んで来て体全体を激しく地面に打ち付けつつ、片腕で大剣を器用に地面に突き立てて両足で曲芸のように着地する。
さっきの音は確実に仕留めたのだと思ったのにそれはぼくの勘違いだったのだろうか。

「ヤバいっすよあれ……、死人使いだけなら何とかなると思うんすけどあんなんいるとは聞いて無いっすよ」
「あんなん……?それよりもケイ、あなたその腕と体の方は大丈夫なの?」
「いやぁ……駄目っすね…、左腕はこの通り捥がれてるっすけど魔力で肉体を強化してるおかげで何とか動ける感じで……それに体中の骨が折れてるっすよ……先生ぇ治癒術お願い出来ます?」
「直ぐ治癒に入るので動かないでください」

 ぼくのケイの身体に自身の魔力を通しつつ眼鏡を使い体内を診察して行く。
見事に体内の骨が所々粉砕されておりどうしてこれで立っているのかが不思議な位だ。

「……先生の秘密位なら俺達知ってるんでついでに左腕も生やしてくれたらなぁって」
「どこでそれを……」
「そんなのあんな新術を発表したら、国中の情報が常に入る栄花にも届くに決まってんじゃないっすか……」

 そう言うものなのかと思うけど、ぼくの犯した禁忌を知っていて尚変わらぬ態度で接してくれて、その術を自分に使って欲しいと言ってくれる彼に安心感を覚える。
けど……その時だった、死人使いが隠れている場所から少年が姿を現すとそれと同時に首から上には人間の頭が二つあり、眼を包帯で覆い隠し腕が左右4本、脚が2本の……体が左右で男女別々の姿をした、身長が2メートル以上ある継ぎ接ぎだらけの異形な姿が音も無く表れた。

「まずいっ!せんせぇっ!とりあえず骨だけでも強引に繋げてくれっ!奴は全員で行かないとやばいっす!」
「えっ?あっはい!」

……異形な姿をしたゾンビがぼく達に向かって走り出す。
それを見て急いで彼の言うように辛うじて表面上は元の形になるように骨を形を整え、捥がれた腕を止血する。
本当は戦える体とは到底言えない彼を戦いに復帰させたくないけど、それでも彼しか前衛に居ない以上は彼に命を預けるしかないけど絶望的だ。
ケイは体の動きを確認すると残った右腕で大剣を持ち絶望へと走って行った。
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