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第二章 開拓同行願い

12話 馬鹿が三人

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――短剣と大剣が打ち合う音が響く中、私が俺に塗り替えられていく。
――戦うのが怖いという気持ちが目の前の敵を倒せと逆さの気持ちで訴えてくる。
泥霧と呼ばれる程の負の感情が魔術として実体化して形を成す。

「ちょこまかと目の前に居たと思ったら後ろから来たりうざいっすねぇ!」
「あんたこそそんな事言いながらうちの影から出て来てそんな大きい物振り回してくんじゃないよ!」

 大剣と肉体に魔力を通して自身の身体能力を底上げして戦う戦士と魔力で五感と脚力を強化して戦う斥候の戦いは一見戦士のケイが有利に見えるけど、速さで優れるコルクが魔術と身体強化を巧みに使い分けて付かず離れずの距離感を維持し続けている為拮抗している。
ただ見ているだけでも恐ろしいのは魔術と同時に武器に流した魔力を爆発させて一撃の重さを飛躍的に上昇させているケイの方だ。
見切ってかわしているから分かりづらいが一度でもまともに受けたら並の生物なら体がはじけ飛んでしまうだろう。
特にあいつの戦い方が大剣を持っているのに後ろから確実に首を狙っているのも恐ろしい、距離がどんなに空いていても一瞬で距離を詰めて確実に仕留めに来る戦法でまるで暗殺に近い……

「あんたさぁ……そんなデカいの持ってる割にどうして急所しか狙わんの?」
「そりゃあ……大剣での暗殺ってかっこいいじゃないっすか!闇夜に紛れて大剣を持ち相手の首を確実に切り落とす……良くないっすか?」

 前言撤回、あいつはただかっこつけたいだけの馬鹿だ。
そりゃあアキって奴も頭を抱えるわ……声はでけぇし態度もでけぇこれじゃあ栄花騎士団っていうのも高が知れるってもんだろ。
しかし何処で魔術を使うかだないい加減止めねぇ……。

「あんたはうちの事を探し来たんやろ?悪いけど帰る気はないんよ」
「んー、それはついでなんすけどねぇ……」
「ついで?ついででダーに近づいて脅したんかあんたは!」

 ケイの後ろから切りかかったコルクの攻撃を大剣で防ぐと勢いよく薙ぎ払う。
その軌道に合わせたコルクが大剣の腹を蹴り後ろに飛ぶことで距離を取りお互いに次の一手を警戒して睨み合っている。
狙うならここしかねぇな……俺は指先に魔力を込めると二人を囲うように空間を切り裂き見えない紐を作り出し拘束させて貰う事にした。

「なっ!ダーっ!これはどういう事や!離しぃや!」
「これはやられたっすねぇ……」
「てめぇら落ち着けや!やり合う前にまずは会話しろ脳筋共がっ!」

 あいつらに近づくと全力で頭をぶん殴る。
まさか殴られると思ってなかったのか二人はびっくりした顔をしているけど殴った俺の手の方が痛ぇし殴られた側がぴんぴんしてんのが気に入らねぇ……

「コーちゃんもコーちゃんだっ!俺達は次の開拓に行く為の話し合いをしてたんだよっ!そこで勘違いしてんじゃねぇ!」
「……だってあんた大剣を後ろから突き付けられてたやん!」
「それは俺が警戒して魔術を使う準備をしてこの馬鹿を警戒させちまっただけだっ!」
「はぁっ!?それはあんたのせいやん!!何しとん!……なら何でこの栄花の騎士様はうちとやりおうたんよ」
「ん?そりゃあ……開拓に同行するなら実力を知りたいっすしあれこれ何が出来るのか確認するよりも実戦でやり合った方がわかるっすよ」
「……あんたら馬鹿ばっかなん!?いい加減にせぇや!」

 この理屈だと馬鹿が3人がやらかしたみてぇじゃねぇかよ……。
なんつーか疲れたな……魔術を解いて元の俺に戻らせて貰うか……今の俺だと冷静な会話に向かない。
指先に魔力を灯してゆっくりと暗示と拘束を解いて行く。
昂っていた気持ちが収まって行き攻撃的な思考が元に戻って行く感覚に違和感を覚える。
私じゃない何かが私の中に居てそれに支配されていた感覚への嫌悪感……元の私が塗り替えられて徐々に戻れなくなっていく不快感に襲われるけど昔と比べてこの感覚にも慣れて来た。

「ケイさんにコーちゃんこの度は大変申し訳ございませんでした!」
「さっきと違って本当に性格違うっすねぇ……戦いになるとあそこまで変わるなんてびっくりっすよ。けど俺は楽しかったし二人の実力が分かったから満足したんで帰るっすよ!」
「あんた……うちの事は連れて行かんのか?」
「こんなとこに居るって事は幻鏡も何か訳有なんすよね?それに元冒険者にどうこうする気もねぇっすよ……じゃあ三日後村の入り口で待ってるっすよー」

 そういうとケイさんは自分の影に沈んで消えてしまう。
闇と闇の間を移動できると言っていたからアキさんの所に移動したのかもしれないけど、そんな便利な移動が出来るならここに来る時も使えば良かったのに……

「なんなんあいつ……うちあいつ嫌いやわぁ」
「あの……コーちゃん巻き込んでごめんね?」
「ん?あぁ……うちが勝手に勘違いしてあんたを守ろうとしただけだからええんよ。それより暗示の魔術つこうたな?」
「え……うん」

 必要だから使ってしまったけどどうしたんだろう。
あそこでは使わないと二人を止める事が出来なかったと思うし……何よりもコーちゃんに怪我をさせたくなかった。

「昨日言うたよな?あんたはもうその術を使わんでええんよって……今回はしゃーないとしても少しずつ今の状態でも戦えるようになんなさい」
「でも……戦うの怖いし」
「でもじゃないんよ……うちはあんたの事が心配でなってあぁそうかぁ……うちじゃなくてレースに心配して貰いたいんやなぁ?かわいいやっちゃなぁ」
「え?いや違くてっ!」

 そういうの私の頬を摘まんで「ここかぁ?そんなかわいい子はここかぁ?うりうり~」っと言いながら左右に引っ張って来る。
別にレースに心配して貰いたいわけじゃなくて……、でも誰かに心配して貰えるのは私の事を大事にしてくれてるって意味で凄い嬉しいけどそれはそういう意味じゃない。
ただそこで焦って反応してしまうとコーちゃんが飽きるまで遊ばれるだけだから黙っておかないといつまでたっても終わらなくなってしまう。

「うりうり~……ふぅっ満足したわ」
「コーちゃん……」
「ん?ごめんってダーは妹みたいにかわいいからついつい虐めたくなってしもうてな?」

 そう思ってくれるのは嬉しいけど喋らないで黙っているのも対話なんだってコーちゃんとレースのやり取りを見て学んだから何も言わずに見つめてあげる。

「って何や何か言うてよ……ごーめーんなーさいーっ!やり過ぎましたぁ!謝るんで喋ってくださいー!」
「ふふっゆるしませーん!」
「ごーめーんーてー!」
「ふふっ」
「あははっ」

 先程の戦闘の雰囲気が既に忘れられたかのように二人で笑い合う。
どんな状況からでもこうやって直ぐに空気を変えて楽しい気持ちにさせてくれるコーちゃんの事が私は大好きだ。

「ははっ……ふぅ、ところでこんなにドンパチしたのにレースは何やっとんの?」
「二日間寝てなかったから限界が来て寝ちゃってね?今はゆっくり休ませてるの」
「かぁーっ!ほんとあの研究馬鹿は……どうせ新しい術を作ろうとして無理したんやろ?昔からいつもこうなんよ誰かが面倒見てやらんと倒れるまでやんだから世話が焼けるわ……ダーもあの馬鹿が迷惑かけてごめんな?」

 ……私よりもレースの事を分かっているのを感じて何だか複雑な気持ちになる。
何でこんな気持ちになるのか分からないけどコルクの方が長くいるのだから分かっていて当然だしそれに関して嫌な気持ちが出るのは違うと思う。

「え?一緒に暮らしてるから私も迷惑かけちゃうし……お互い様じゃない?」
「ほんとダーはええ子やなぁ……レースよりもうちと一緒に暮らさん?美味しいもん食べさせたるよ?」
「それよりも……そろそろレースの事が心配だから帰らないと……」
「それなら二人で起きるまで待とうや……それにしてもダーは何ていうか人妻的魅力出てない?大丈夫?魔性の女ってや……痛いって!腕抓らんといて……まじでいったい!」

……誰が人妻的魅力なんだろう。
私の世界では16歳になってから結婚出来るけどこの世界では様々な種族がいる為結婚に年齢制限が無いし……そういう意味では誰でも同意があれば直ぐに結婚出来るけど……私とレースはそんなんじゃないし勘違いするような事を言わないで欲しかった。
そんな事を思いながらコーちゃんの腕を抓って家の中へ戻る。
――それにしても顔が熱くてしょうがない……私はどうしちゃったんだろうもしかして風邪を引き始めているのかもしれない。
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