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第二章 開拓同行願い

6話 夢なら良かったのに ダート視点

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 お茶をテーブルに置くと満面の笑みを浮かべたコーちゃんが私達の正面に座るとベルフラワー色の瞳でジーっと見つめて来た。
彼女が真剣な顔をしている時は何か悪戯を考えている時で……この一か月何度もやられてきたから嫌な予感がする。

「で?話ってなんなん?……もしかして、ダーとレースの結婚式の仲人になって欲しいとか?」
「……ブフォッ!」

 お茶を飲んでいたレースが勢いよくお茶を吹き出して咽る。
私はどうせ何かやるんだろうなぁって思ってたから準備は出来てたけど彼は無理だったみたい。
でも……油断していたら私も彼と同じような反応をしていたかもしれない。

「なんや人の家で汚いなぁ……一緒に暮らしてんから何らかの発展があってもおかしくないやん?で?どうなの?」
「コーちゃん……今日は遊びに来たわけじゃないからそういう悪戯は止めてあげて?」
「んー……そうなん?なら早く言ってよー」

 コーちゃんはそういうと布巾を取り出してテーブルを綺麗に拭いたと思うと部屋から出て行く。
どこに行くんだろうと思ったけど暫くしたら着替えて戻って来た。
仕事着から私服に着替えに行ってたみたいだけどどうして着替えたのかな……。

「で?レース……デートは何処に行くの?」
「コーちゃん……」
「冗談だってぇ……レースも呆れた顔せんとな?そんな顔してると幸せが逃げて器量が下がるで?」

 器量が下がるでは無くて……下げるでは?と思うけどこの人は分かっていて言葉を間違えるから下手に突っ込むといつまでも終わらなくなる。
初対面の時も度量を見せるって言う言葉の方が正しいのに……器量を見せると言う変な言い回しをして凄い困惑する事になった。
私の生まれた世界と言葉の使い方はそこまで変わらない筈なのにいきなり知らない使い方が出てきたら意味が分からなくなってしまう。
その時に色々といじられて取り乱してしまった結果、暗示が解けてしまいコーちゃんには私が魔術で性格を変えている事がバレてしまったけど……そんな私を受け入れてくれてレースには内緒にしてくれている優しい人だ。
でも……私より十も歳が上なのだから大事な時はしっかりとして欲しいな……。

「コルク……冗談はこれ位にして大事な話をしていいかな?」
「ん?ええよ?その為にこうやって着替えて店閉めて今日の売上捨てたんやから……つまらない話ならしばくで?」

 ライトブルーの髪を手で書き上げなら普段とは違う鋭い目でレースを睨みつける。
こんな姿を今迄見た事が無かったから恐怖と不安で体が跳ね上がってしまう。
いつもは独特な雰囲気の明るいお姉さんなのに……こんな顔も出来るんだ。

「実は一週間後の開拓に同行する事になったんだけど……元Bランク冒険者の幻鏡の刃ミント・コルト・クラウズに着いて来て欲しい」
「……あんたつまらない話ならしばく言うたよな?それに私の秘密を他人の前で口にしたな?」

 コーちゃんの気配が目の前にいるのに幻のように消えて行く。
そこにいるのにいないという感覚に戸惑うけど嫌な予感がしてレースの周りの空間を薄く削り取り真空の壁を作り守りを固めた瞬間だった。

「ダー……あんた良い反応するねぇ、このアホの助手させてんのが勿体無いわ」
「っ!?」

 前に座っているのに目の前にもコーちゃんの姿が見えている。
両手に何らかの液体で濡れた黒いナイフを持って真空の壁に音もなく突き立てていた。

「そりゃそうだよ……、村では助手って事にしてるけど彼女の本職はA級冒険者だからね」
「Aランクの……?魔術師というと死人使いルードか闇天の刃ミュカレー、幻死の瞳グロウフェレスかギルドに登録してから短期間でAまで上り詰めた期待の新人、泥霧の魔術師ダート位やけど……ダート?つまりこの嬢ちゃんが泥霧なんか?」
「えぇ……彼女がその泥霧ですよ」

 コーちゃんが私の事を氷のように冷たい目でこちらを無言で睨んで来た。
暗示をかけている時の私なら睨み返す事も出来ただろうけど今の私にそのような度胸は無い。
もしかしたらその手に持っているナイフを私の胸に突き立ててくるかもしれないという不安と恐怖で体が震えてしまい歯がガチガチと音を鳴らす。
昨日まで仲良くしていた人から明確な死の気配を感じる現実を受け入れる事が出来なくてこれはもしかしたら夢で私はまだ自室のベッドで横になっているんじゃないかと感じてしまう。
もしそうなら夢から覚めないといけない……けどこの心臓を掴まれたような感覚とそこから流れる冷たい血液が流れて指先が徐々に冷えて行く感覚が夢ではないと私に訴える。

「パッと見はそうは見えないけど……この子のアレを見ると訳有なんだろうね……」
「ダートのあれ?ってなんです?」
「あぁ、レースは知らんのか……まぁ女同士の秘密って奴だから知らないなら本人が話すまで深入りすんじゃないよ?ただでさえあんたは人の地雷を踏むのが得意なんだから、それにしても興が醒めちまったよ……さっさとそこで胸を抑えて苦しそうにしてる嬢ちゃんの様子でも見てやりな」


……二人が何か話しているけど何を話しているのか言葉の意味を理解出来ない。
徐々に呼吸が苦しくなって来て手足が痺れて感覚がない。
視界も揺らいで良く見えなかったけど多分焦った顔をしたレースが何かを話しながら私に声をかけてくれて呼吸がしやすい用に処置をしてくれている。
そんな彼と優しい声に安心した私は意識を落として眠る事にした。
これはやっぱり夢で起きたら仲が良い二人がいると信じたかったから……
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