治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
60 / 575
第一章 非日常へ

25話 当時の生活 ダート視点

しおりを挟む
 あいつに部屋まで案内して貰ったはいいが、本当に殺風景で何もない部屋だと感じる。
なんつーか窓が一つあるだけで家具も何も置いてありゃしない……、物置にしては綺麗だし何なんだろうな。

「取り合えず買ったりしたもん全部出すか」

 空間収納を開きベッドを窓際付近に置く、この方が朝起きた時に日の光が当たるから嫌でも目が覚めるだろうからこれでいいと思う。
他には俺が長期滞在する時に宿に置かせて貰う家具を適当に置かせて貰えばいいか。
ただ俺の性格だとどうしてもそういう並べ方は雑になってしまうから、ここは術を解いた方がいいか……。
それに暫くは来ないだろうから大丈夫だろ。

「……これでいいですね」

 指を慣らして術を解いた私は改めて部屋の中を見る。
ベッドが一つだけの部屋ではどうしても殺風景になってしまうし、女性の部屋としてもどうなんだろうと思うので空間収納の中から小さい衣装箪笥と小物入れを取り出してドアの邪魔にならない所に置かせてもらう。

「後は……どうしようかなぁ」

 衣装箪笥にはこの村に来た時に着ていた服と魔術師のローブ、後はおばさまから頂いた服もしまって行く。
そして上に元の世界から唯一持ってきた家族の写し絵が入っている小さな額縁を置いていつでも見れるように置いた。

「……お父様とお母様にもう会えないって分かっていても会いたくなってしまうわね」

写し絵を指で優しく触れて当時の生活を思い出して感傷に浸ってしまう。
あの頃はこの世界で言う魔術の名家に生まれ何不自由ない生活をさせて貰って、幼少から魔術の習い事をして来たけれど何処か満たされなかった。
この世界に来てからは色んな事があったけれど、自分の力で生きていると感じて楽しんでいる私がいて……それでも二人の顔を見ると会いたいと思ってしまうのはしょうがないのかもしれない。
家族に会いたいと思う気持ちは私の中では当然の気持ちだと思うから……

「ダメね……切り替えないと」

小物入れに生活必需品を取り出して並べて行く。
この家に助手として住む以上、お化粧とかもある程度はした方がいいだろうかと悩んでしまう。
お母様から将来必要になるからと一通りの事は教えて貰ってはいるけれど、この世界に来てから一度もした事がない。

「明日から少しずつまたやってみようかな……」

 そんなことを思いながら空間収納から手鏡を取り出して自分の顔を眺めるけど、幸いな事にこの世界では傷がついても治癒術のおかげで痕が残らないから綺麗なままでいられるおかげでお化粧をしても違和感はなさそうで良かった思う。
それに確かお母様が言ってたのを思い出す……。
若い頃にお化粧をし過ぎると肌が荒れてしまうから軽いお化粧だけにしなさいっていう風に教えてくれたっけ、それなら肌に軽く付ける位で良いのかな。

「部屋にテーブルが欲しいから今度買いに行きたいけど……今はこんな感じで良いかな?」

 そうしてる間にドアの隙間から良い匂いが入って来た。
この香りはお肉だろうか……、それに香草の良い匂いもして遠くからでも食欲がかき立てられる。
という事はそろそろお夕飯が出来る時間なのかもしれない、術を掛け直そうかな……。
指先に魔力の光を灯して自身に暗示の術を掛けて行く。
今の私が薄れて違う私に変わって行く感覚には何度やっても慣れないけれど……、まぁ俺がこの世界で生きる為には必要な事だ。

「さぁて、あいつが呼びに来る前に俺から行ってやるかねぇ」

 俺は部屋を出るとリビングへと早足で向かって行く。
近付けば近づく程良い匂いがするじゃねぇか……、これは結構期待出来るかもしれねぇな。
期待に胸を膨らませながら勢いよくドアを開けて部屋に入る。

「おぅっ!良い匂いがしてっから来たぜー!」
「……今からダートを呼びに行こうと思ってたから丁度良かったです」

……あいつが俺を笑顔で迎えてくれた。
そしてテーブルには美味そうな肉と野菜が二人分並んでいて、真ん中には取りやすい用に分けられたパンがあり丁度良いタイミングで来れた事に思わず笑みがこぼれてしまう。
これなら二日目の夕飯も期待できるなと思いながら椅子に座り飯を食う事にする。
食っていて思ったんだがよ……もしかしたら胃袋を掴まれているのは、あいつじゃなくて俺の方かもしれねぇな……。
んな事を思いながら夕飯の時間が過ぎて行くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです

砂糖琉
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。 それはある人と話すことだ。 「おはよう、優翔くん」 「おはよう、涼香さん」 「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」 「昨日ちょっと寝れなくてさ」 「何かあったら私に相談してね?」 「うん、絶対する」 この時間がずっと続けばいいと思った。 だけどそれが続くことはなかった。 ある日、学校の行き道で彼女を見つける。 見ていると横からトラックが走ってくる。 俺はそれを見た瞬間に走り出した。 大切な人を守れるなら後悔などない。 神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...