治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第一章 非日常へ

8話 望まぬ共同生活

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 難しい顔をしてしまう。
だってそうだろう?ダートさんが依頼を受けてぼくを迎えに来たと思ったらその依頼が建前でぼくに彼女の面倒を見ろという無理難題を依頼とは別の封筒に入れて手紙を寄越す。
この理不尽に対して何も思わないと言ったら無理がある。

「おめぇなんか難しい顔してるけどよ。手紙に何が書いてあったんだよ?」

 他人に言われる位だ、余程難しい顔をしているんだろう。
取り合えずこの手紙の内容はダートさんには秘密にして欲しいという事だし今はその通りにした方が良さそうだ。

「……師匠の手紙を読んだら、いつもの偶には帰ってこいって言う内容で反応に困ってました」
「そんな顔に見えなかったけどよ……、弟子のお前が言うならそういう事なんだろうな」

 取り合えず誤魔化せただろうか?
師匠の所で学んでいた時から思っていたが、あの人は絶対に性格が悪いと思う。
とはいえ魔術と治癒術という区分が無く魔法と呼ばれていた時代に魔術と治癒術という形を作り学問へと落とし込む事で各々の適正に合わせた術を覚えられるようにした偉い人ではあるし、それに治癒術師と魔術師の母のような人だ。
そんな人が弟子を心配して依頼をして、そういう手紙が入っていたとすれば納得するはずだ。
……けど流石にこれはやりすぎではないか?

「という事で話があんだけどよ。この村宿とかねぇんだわ……」
「あぁ、この村はまだ開拓途中なので宿と言えるようなものは確かにまだ無いですね」

 この村はまで出来てから歴史が浅く、現状は森を開いて開拓している。
それにこれと言ってまだ何かしら有名な産業があるわけでもない分、外から人が来ても見るようなものはない。
更に言うなら辺境開拓村と言われているが、訳有りの者や、仕事が無い浮浪者を集め村に住む事を許す変わりに森を開拓し人が住める環境を広げる事が義務付けられているだけだ。

「だからこの家に世話になるぜ?いいよな?依頼対象が近くに居た方が俺的には都合がいいんだわ」
「……え?」

 彼女は一体何を言っているのだろう。
女の子が年頃の家に世話になる?師匠の手紙があるから面倒は見るけれど、一緒に住むとなると話は別だ。
ぼくにはぼくの生活があるのに、そこに誰かが入って一緒に暮らす。
出会ったばかりではあるけど、ダートさんの性格は何となく荒い所があるのは理解出来てはいる。
それにこういう人はやると決めたら絶対に退かない人だ。

「あっ?だぁかぁらぁっ!ここにお世話になるってんだ」  
 
 とはいえ性格に問題はあるけれど見た目は美人だ。
そんな人と一緒に暮らす事になったら意識するなという方が無理がある。
無いとは思うけれどなんらかの間違えが合ったらダートさんに申し訳ない。
取り合えず村人が増える事を見越して立ててある空き家が何件か村にあるからそこを紹介して移動して貰おう。
 
「えっと、ダートさん?村に行けば空き家はあるので…「るっせぇなぁ!一緒に住んだ方が楽だろうが!俺が決めたんだからそれでいいだろうが!」 
「もう、それでいいです」
 
 本当に何なんだこの人は… これはもうどんな理由を作って説得しても駄目だろう。
こうなったら後はもうなすがままに押し切られてしまうだけだ。
何というか師匠がダートさんをぼくに寄越したのも、彼女のそういう所が面倒見切れなくなったのかもしれない。
そういう意味では師匠の気持ちがわかる気がしてしまう。
それにぼくは多少でも強引に動かされないと一つの場所に留まってしまうしそれが心地良いし変化があるのを恐れてしまう、だからこそこういう強引にでもぼくを動かせるを人を寄越したのだと思う。 
 
「……わかりました。男の一人暮らしなんであんまり良い環境ではないですが」 
「おぅ、気にしないからよろしく頼むわー」 
 
……ただ本当にこれでいいのだろうか…そんな不安の中で時間だけが過ぎて行った。
取り合えずなるようにしかならないだろうし、こうなってしまった以上は上手くやるしかない。
師匠がやらかした事に巻き込まれたような感じがするけど、取り合えず今は何とかしてみようと思う。 
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