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第二章 修行、そして旅に出る

13話 首都の裏口

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 兵士隊専用の出入り口に向かう道中で、いつも使ってるところを見ると思っていた以上の騒ぎになっていた。
腰を抜かしてしまったのか、その場で座り込んで動けなくなっている人やこの世の終わりとでも言うように泣き出している人。
何があったのか理解できないみたいで、その場で呆けたようにボケーっとしている人にパニックを起こしている人もいて最早地獄絵図、誰がこんな酷い事をしたの!?って感じだけど、原因を作ったのは私だからそんな事を口にした瞬間、ゼンさんに間違いなく怒られる……と思う。

「……何か凄い事になってるね」
「そりゃあそうだろ、首都の近くにあった森が轟音と共に一瞬で消し飛んだんだぞ?」
「まぁ……俺もその場にいなかったら理解が追い付かなかったろうね」
「とにかく出来る限り今はあんまり喋るな、俺達がここにいるのが衛兵達にバレて怪しまれたら面倒だ」
「……うん」

 ゼンさんの後ろを着いて行くと首都を覆う壁の前に来る。
もしかしてここにその兵士達専用の出入り口があるのかと思ったら……

「おかしいな、確かここら辺に建物があったと思うんだけど」
「ゼン、もしかして迷ったのかい?」
「いや、そんな事ねぇよ……俺が昔首都を出た時はここにあった筈なんだけど……」
「ゼンさん、それって大分まえの事だよね……多分場所が変わったんじゃない?、例えば首都の入り口の反対側とか」
「そんな事あるか?まぁ、壁伝いに行ってみるか」

 壁伝いに行くのはいいけど、それで向きを間違えて入り口の方向に行ってしまったらどうするんだろう。
いや、でも……それだと左回りになるから多分大丈夫?、歩いてる感じ的に右回りだから多分時計回り、だからきっとこのままいけば反対側に到着する筈。
けどこれで兵士達専用の出入り口が無かったら、首都の周りをぐるりと一周して入り口に戻ってしまうんじゃ?けどそれだと、一日以上歩くことになるから途中で気づくよね。

「ん?なんだこれ」
「どうしたの?」
「シャルネ、そこの壁を良く見てみろ……何か手をちょうどひっかけるようないい感じのくぼみがあるように見えないか?」
「……えっと、どれ?」
「これだよこれ、ほらこんな感じで手がちょうど入るだろ?」

 ゼンさんがくぼみに手を突っ込むと脚を使って引っ張りだす。
物語に出て来る忍者屋敷の隠し扉じゃないんだから、そんな事をしても意味が無いのに……

「ゼン、何をやってるんだい?」
「こういうくぼみって何か隠れてるように見えないか?ほら、隠し扉とかさ」
「……そう考えると面白そうだね、けど引っ張るんじゃなくて押すって言うのもあるかもしれないよ」
「押す?そのくぼみはどう見ても、引っ張る用だろ?」
「んー、ゼンさんやカー君って物語の読み過ぎじゃないかな、こんなところに隠し扉があるわけなん……て?」

 二人がくぼみの前であーでもない、こーでもないと話し出すから、何を言ってるんだろうと思ってくぼみの前に立って横に動かすと、壁の中でガコっという何かがずれたような音がする。

「……えっと、今何かずれた?」
「ほら、俺が言った通り何かあったろ?ちょっと待ってろ……今切るから」
「切るって、壁に穴を開けていいの?」
「いいんだよ、こんな所にあからさまなもんを隠してるのが悪い」
「……俺達何だか、首都に来てから問題ばかり起こしてる気がするね」

 確かに問題を起こしてばかりだけど、そこまで大事になるような事してな……。
いやさっき森を消し飛ばしたからしてるけど、まだ私達が犯人だってバレて無いから大丈夫だと思う。
それなのに首都を守る為に作られている壁を切って穴を開けるのは犯罪だし、見つかったら拘束されて牢屋に入れられてしまう気がする。

「ゼ、ゼンさん、壁は切っちゃダメ……何か他の方法を探そうよ」
「……他の方法って言われてもなぁ、横に動かすと音がするんだろ?」
「それなら色んな角度で動かしてみるのはどうだい?」
「そうそれっ!ゼンさん、とにかく動かしてみよ?」
「お、おぅ……、そこまで言うならお前らに任せるわ」

 とりあえず任せられた以上は、なんとしてでもこの壁の謎を解いて見せる。
そうっ!シャルネちゃんの名にかけてっ!とイキってみたけれど、出来る事なんて特に無くて、取り合えず力一杯力を入れて動く方向にガタガタと動かす。
すると……奥の方からカチっという音がして……

「ちょっと!そんな事をしたらスイッチが壊れるから!」
「あ……」
「あんたここの隠し扉を知ってるのに開け方を知らないって事は、新人の兵士か何かか?」

 くぼみの隣にある壁が動いたかと思うと、兵士の服を着た人が顔を出して私達に向かって話しかけてくる。

「ん?あぁ、そうだ……実は最近この首都に来て生活する為に兵士になったんだけど、自主訓練をする為に外に出てたんだよ」
「自主訓練とはやる気があるじゃないか、けどどうしてここでそんな暴れてんだ?」
「俺達が外で訓練をしていたら、急に近くの森が消し飛んでさ……急いで首都に戻って来たんだ、そうしたら入り口の方はパニックになっててね」
「あぁ……だから、この兵士専用の隠し扉に来たってわけだ、けど開け方を知らない奴を通すわけにはいかねぇぞ?兵士を名乗る不審者の可能性があるからな」

 はい、私達はあなたが言う兵士を名乗る不審者です。
たまたまくぼみを見つけて、隠し扉があるんじゃないかと力一杯にガタガタと動かすのに、内心子供心が刺激されて凄い楽しくなってました。
反省はしてます、だから見逃してください、お願いします。

「……仮に兵士を名乗る不審者だとしたらどうすんだ?」
「そりゃあんたらを捕まえて、衛兵に引き渡す」
「ならどうすればお前は俺達を見逃してくれる?こういう露骨な隠し扉があるって事は兵士の出入り口以外にも何か入る方法があるんだろ?」
「……へぇ、あんた分かってんな、それなら気持ちをくれよ中身次第では通してやるし、その後も黙っといてやるからさ」
「そういうの嫌いじゃないぜ?ほら、俺達の気持ちを受け取ってくれ」

……ゼンさんはそう言うと大金の入ったお金を兵士に渡す。
すると嬉しそうな顔をした兵士さんが『どれ……中身を確認するから待ってろ』と言うと、袋を開けて金貨を実際に噛んだり叩いたりし始める。
暫くして『いいぜ、全部本物みたいだから通してやるし黙っといてやる……首都の中まで案内してやるから着いてきな』と、私達を中へと招き入れるのだった。
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