魔王様のやり直し

物部妖狐

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過去に遡って……

21話

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 あの後ステラがアーロを連れて来ると、仕事があるからと直ぐに家を出て行ってしまう。
そして……

「んじゃ……観光だっけ?俺が色んなとこに連れてってやるよ」
「えぇ、お願いするわね、でも少しいいかしら」
「ん?あぁ、どうしたんだ?」
「どうしてあなたは腰に木の棒を差しているの?」
「これか?かっこいいだろ!この前外を歩いてたら見つけたちょうど良い棒なんだけどさ、思った以上に頑丈で使いやすいんだよ!」

 かっこいいのかどうかと言われたら分からないけど、確かに人を殴るって言う意味では丁度良い大きさをしていると思う。
けど、正直頑丈かと言われたらどうなのか分からないけど……持つ所にぼろきれのような布を巻いてる辺り大事にしているのかもしれない。
それに枝が生えていたであろう部分を、切り落としたのか所々色が変わっている所もあるし、ちゃんと手入れもしているようで何だか微笑ましく見える。

「……なら何かあったら私の事をちゃんと守ってよね?」
「この町は良い奴ばかりだから何の問題も起きねぇから大丈夫だよ」
「そう?でもあなたは将来、私の護衛になるのよ?だから今のうちにしっかりと意識した方がいいわ」
「お、おぅ……分かったよ」
「分かったならいいわ、じゃあ……観光に行きましょう?色んな所に連れて行ってくれるのでしょう?」

 そうしてステラの家を出た私達は、アーロに手を引かれながら町の観光を始める。
町の外に広がる畑は確かに美しいと思うし、働いてる人達がアーロを見つけると親し気に手を振って挨拶してくれてるのは、皆本当に仲が良いんだなって感じていいと思う。
牧場では新鮮な乳が採取出来る牛や、食料等に使われる豚等が飼育されているのが見えて……今まで見た事が無い光景に心が躍る。

「へぇ……家畜ってこうやって飼われてるのね」
「そうだぜ?特に牛は乳が出なくなった奴は、もう一度孕ませて出るようにしてやれば安定して搾れるし、高齢になったり病気で搾乳出来なくなった奴は食肉になったり、革細工になったりと捨てるところが無い位に便利なんだぜ?」
「じゃあ……豚は?乳は出ないし、食べる以外にやる事無いんじゃない?」
「そんな事無いぞ?町で出た生ごみとか、牧場にある回収箱に朝早くに出せば餌として食ってくれるし、糞は発酵させて肥料として使えるおかげで美味い飯が出来る、それに新しく農地を広げる時に牧場から借りて、雑草を食べて貰うついでに耕して貰ったり色々としてくれてるんだ」
「へぇ……って、畑に動物の糞を使うの?」

 もしかして今まで私が食べて来た野菜とかも、動物の糞が使われてたりするのかもしれない。
そう思うと何だか少しだけ気持ち悪さが込み上げて来て不快感が襲ってくる。

「失礼だな……真っ青な顔して言ってんじゃねぇよ、俺達平民がそうやって一生懸命協力して作った物を毎日美味そうに食ってんのが貴族様だろ?感謝をされる理由はあっても、そんな態度されるのはむかつくから止めた方がいいぞ?」
「えぇ……ごめんなさい」

 確かにアーロが言うように彼らが一生懸命作ってくれてる物に関して、そんな反応をするのは失礼だ。
家畜として飼育するという事は、その過程で情が湧く事もあると思う。
しかも……その育てて来た牛や豚達を食肉へと加工する為に、屠殺場に連れて行かなれけばいけないというは、想像するだけで凄い心が痛む。

「分かればいいんだよ、それよりもマリス様は牧場の近くにどうして畑があると思う?」
「……?食べる為ではなくて?」
「食べるのは合ってるけど、家畜が食べるようだよ……あれはマリス様の父ちゃん、現領主のマリウス様が、領主になった際に指示して始めたんだぜ?」
「お父様が?」
「あぁ、凄いだろ……辺境の主な役割はモンスターの間引き作業だって言うのに、それだけだとダメだ、もっと畜産や農業に力を入れないと俺達平民が植えるって言ってくれてさ、あぁやって家畜が飢えて栄養不足から乳の出が悪くならないようにしてくれてるし、生ごみばかりだと腹を壊しちまう豚の為に穀物を育て与える事で肉付きの良い美味い肉や良質の肥料が作れるようにしてくれたんだよ」

 アーロから聞いてお父様が領民の為に色々と行動している事が分かったけど、ふと思った事がある。
以前のやり直しの時や、一番最初の魔王になってしまった時もだけど、私はお父様が領主としてどのようなお仕事をしていたのか少ししか知らない。
多分だけど、魔王の頃は私がまだあの魔導書に選ばれていなかったからって言うのもあるだろうし、その他の時期に関しては私がそもそも関心を示していなかったのが理由だろう。
そう思うと申し訳ない気がする……、でも今の私はこうやってお父様に相談してお忍びで町に出て、結果的に平民の生活を見て聞きながら学んでいる。
行動が少し違うだけで、ここまで結果が変わるのは何て言うか不思議だ。

「んじゃ……次行こうぜ!町から少しだけ離れるけど良い所があるんだよ!」
「え?ちょっと!観光なのに町から出るのは危ないんじゃ!」
「大丈夫だって!俺達子供が良く遊ぶ場所で、危ない事何てなんも無いからさ!」

 アーロが再び私の手を取って走り出すと、町から離れて坂を上って行くと周囲に何もない寂しい場所に出る。
そして彼が私達が来た方向を指差し振り返ると、町全体を見渡せる美しい光景が見えて、感動に心が震えた。
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