魔王様のやり直し

物部妖狐

文字の大きさ
上 下
26 / 50
過去に遡って……

19話

しおりを挟む
 とりあえずアーロの事に関してはこれでいいけど私の服はどうしよう。
脱がされて上だけ肌着になってしまっているのは凄い恥ずかしい。

「あの……ステラ、私が着る服って何かあったりする?」
「マリスお嬢様がお召しになられる服ですか……この家には女性物の服は私のしか、あ、いえ少しだけお待ちください……確かお隣に年頃の娘がいるのでもしかしたら子供の頃の服が残ってるかもしれません」
「母ちゃん、それなら俺が取って来るよ……ほら、マリス様を脱がしちまったの俺だし」
「いえ、私が行くわ……いきなり男の子が尋ねて来て女の子の服を貸して欲しい何て来たら、ただでさえ働いてないのに更に周囲からの評判が下がってしまうわよ」
「俺は外に出ないんじゃなくて勉強してんだよ、畑を継げねぇ以上モンスター狩りしか出来る事無いんだから、奴らの事を俺なりに調べてんだ」

 調べてるって……モンスターに関しての資料は町長等、町や村を管理する役職の方が管理してるから、アーロのような子供が独学で調べる事は出来ない筈。

「という事だからマリスお嬢様の事頼んだわよ?……くれぐれも変な事をしないようにね」
「しねぇよ!母ちゃんがいつも女の子には優しくしろって言ってんだろ?だから大丈夫だって」
「……信じてるからね」

 そうしてステラが急いで家を出ると私はアーロの方を見て……

「……私を脱がしてあんな事したのに良くそんな事を言えるわね」
「いや、だからあれはほんと悪かったって……だから責任取って」
「悪いけど私は貴族であなたは平民よ?夫婦になんてなれないわよ……だから護衛騎士になって貰うの、精々これから頑張ってよね」
「それは分かったけど、俺は成人するまでの間何をしてればいいんだ?」
「えっと……考えてなかったかも、町長さんの所に行ってモンスターの本を読んだり、身体を鍛える為に剣を振ったりとか?」

 アーロがこの町で出来る事と言ったらそれ位?いや……一応平民だから税を納める為の仕事はした方がいいと思うし。
けど私が思いつくのはそれくらいで……えっと、どうすればいいんだろ。

「剣を振るよりも、兄貴が親父から継いだ畑を手伝いに行って、農具を振ってた方が身体が鍛えられるよ」
「……そうなの?」
「マリス様は知らないと思うけど、畑仕事ってかなりの力仕事なんだぜ?雪が降るまでの間重い農具を使って地面を耕したり、刈り取る作業は慣れてる大人達でも悲鳴を上げる程だからな」
「知らなかったわ、私……お野菜は収穫が終わった物しか見た事無かったし、お肉やパンもそうだけど調理された状態の物しか今まで見た事無かったもの」
「まぁ、貴族様はそうだろうな、平民だって凄い頑張ってるんだぜ?……まぁ俺はやる気が無いからこうやって畑仕事しないでモンスターについて調べたりしてたんだけどさ──」

 それってそんな自慢気に言う事なの?って思うけど、触れてしまったら話がこじれそうだから敢えて何も言わない。
だってやり直す前の一番最初の人生の時にお母様が教えてくれたもの……

『マリス、人との会話は時に何も言わずに黙っている方が必要なの……あなたは分からないでしょうけど、黙する事も会話なのよ』

 って……まぁ当時の私はそれがどういう事か分からずに、そのまま学園に行って色々とやらかしたり恥ずかしい目にあったけど、この何度か死んでやり直してる今なら分かる気がする。
敢えて黙って何も言わない事で、相手は自分の話を聞いてくれていると感じて話を次に繋げやすくなるのかもしれない。

「──ってな感じで、町長と一緒にモンスターの間引き作業に参加した人達に聞いて色々と俺なりに調べたんだよ」
「へぇ……凄いのね」
「だろ?そこで特にやべぇって思ったのはスライムなんだよな……、あいつら身体が液体で出来てて物理的な攻撃、例えば殴るとか蹴るとかあるじゃん?それが効かなくて領主様の魔法や、町長が持ってる魔法の道具が無いと倒せないらしいんだよ」
「……?魔法って平民は使えないの?」
「ん?あぁ……一部では平民でも生まれつき魔力って言うのが凄いある一族が一子相伝の技術っつう不思議な技を使う、魔法使いって呼ばれてる奴等って位だって聞いた事あるけど、見た事無いから知らね、むしろ魔法が使えるのは貴族や使用人の中でも主人に気に入られた奴しか基本的に使えないって母ちゃんから聞いた事あるぜ?、だから俺達平民に出来るのは精々武器を振るか領主様や町長を守る為の肉壁になる位だよ」

 お父様やお母様が当たり前のように魔法を使ってたからそれが当然だと思ってた。
けど実際は使える人が限られる物だったみたいで、今まで私が常識だと感じていた物が音を立てて崩れるような感覚に襲われる。
確かに……死んでやり直す前、魔王だった時も私を討伐しに来た勇者と呼ばれる人達は魔法を使って来る人は滅多にいなかった気がする。
剣に魔力を込めて光らせて、我が国に伝わる聖剣とかいう人がいたり……禍々しく脈打っている黒い血管のような物を浮かべた武器に、自身の血を吸わせて魔力の刃を飛ばしたりしてくる変な人なら見た事あるけど、あれ等は魔法って言うよりも武器が特殊なんだと思う。
だって……魔力を全部吸われてカラカラの死体になったり、血を全て失ってその場で死んでしまったりとか、思い出すだけで恐怖その物で……頭の中に当時の記憶が浮かぶだけでも吐き気や眩暈に襲われそうになる。
今は一度死んで人生をやり直してる最中だというのに……

「おい、顔色が悪いけど大丈夫か?」
「……ちょっとダメかも、横になれる場所とかあるかしら」
「あぁ、それなら俺のベッドを使えよ、母ちゃんが戻って来るまで寝てていいからさ」
「うん、じゃあ……そうさせて貰うわね」

 アーロの言葉に甘えてベッドを借りるけど……何だか変な感じがする。
木の板に直接シーツを敷いたかのような感じがして、背中が痛くなりそうって言うか何時もの身体が沈んで優しく包まれるような心地よさが無い。
もしかして……平民が使うベッドってこんな劣悪な環境なの?って思いながら眼を閉じると、手を優しく包まれるような感じがして薄く眼を開ける。
すると……私の手を握りながら、頭を撫でてくれるアーロの姿があって、幼い頃お昼寝の時間にステラが良くやってくれたのを思い出して懐かしい気持ちになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...