氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐

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第一章 目覚めたらそこは……

13話 宿の場所と緑髪の女性

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 宿を探すと言っても、この地域の地理に詳しくない以上何処で休めばいいのか分からない。
これは冒険者ギルドを出る前に職員におすすめの場所を聞いた方が良かったか……

「兄貴、宿が何処にあるのか分かる?」
「……分からない、ミコトは何回か街に訪れた事があるのだろう?知らないのか?」
「私は……、来ても食材とか買ったり怪我してる人を治したら直ぐに帰ってたから分からなくて……えっとその、兄貴ごめんね?」
(それなら泊まらないで洞窟に戻る?……シュラちゃんは怒りそうだけど、セスカちゃんになら事情を説明すれば分かってくれると思うよ?)

 道の真ん中で思わず三人立ちどまって考え込んでしまうが、洞窟に戻るという選択肢は選ばない方が良いだろう。
事情を説明して中に入ったとしても、住みやすいようにすると言っていたからな……受け入れてくれながらも嫌そうな顔をして私達を睨みつけて来る光景が脳裏に浮かぶ。

「いや、戻るのは止めた方が良い」
(リーゼちゃん、それならどうするの?泊る所分からないしこのままだと野宿だよ?)
「兄貴、私さすがに野宿は嫌なんだけど……」
「野宿が嫌というが……、洞窟の中で今迄暮らしていたのに何を言ってるんだ貴様は」
「ちょっ!恥ずかしいから言わないでよっ!」

 ずっと野宿をしていたのにいったい何を言ってるんだと言いたいが、確かにここは私の配慮が足りなかったな……。
取り合えずミコトに謝罪をしながら周囲に宿が無いか改めて探す事にするがやはり見つからない。
これは一度冒険者ギルドに戻り、職員や冒険者に宿の場所を聞いたほうが良いかもしれないな……と思い戻ろうとすると

「あなた達、こんな道の真ん中で立ち止まってたら邪魔よ?」

 後ろから声が聞こえたから振り向くと、先程冒険者ギルドに居た緑髪の黒い着物を着た身なりの良い女がいた。
何故だか先程とは違い機嫌が良さそうな顔をしているが……、それなら何故私達に話掛けて来るのだろうか。
どう見ても面倒事にしかならないというのに……

「え?あ、ごめんなさい!ほら兄貴、セツ姉っ!邪魔になってるから他の所に移動しよ?」
(その方が良いと思う、折角嬉しそうな顔をしてるのに邪魔したら悪いよ?)
「そうだな……、邪魔をしたようで悪かったな」

 そう言って彼女から離れとりあえず冒険者ギルドに戻ろうとした時だった。
何故か腕を掴まれると……

「待ちなさいよ、あなた達泊まる場所を探してるんでしょ?」

 と声を掛けられ困惑をしてしまう。
取り合えず頭の中でどう反応を返すべきか話し合うが、ミコトはどうすればいいのか分からないようで困惑した声が聞こえるだけで会話になりそうにないが。
セツナはどうやら冷静なようで……

(リーゼちゃん、ミコトちゃん、もしかしてこの人泊まれる場所を知ってるのかもしれないから話を聞いて見よ?)
「何よ、冒険者ギルドでは私の事あんなにじろじろと見て来た癖に……、私から話しかけて来たら黙っちゃってさ、そういうの感じ悪いから止めた方がいいよ?」

 と一人だけ前向きだ。
そして緑の髪の女が私達が黙っているのを見て気を悪くしたようで、文句を言ってくる。
とはいえ彼女の言う通りで三人で反応せずに黙っているのは余りにも印象が悪いだろう。

「……すまない、いきなり腕を掴まれて驚いてしまってな」
「う、うんそうなの、兄貴が驚いて黙っちゃったから私達どうすればいいのかわかんなくなっちゃってさ、えっと……名前」
「あら、ごめんなさいね……、まだ名前を名乗っていなかったわね、私の名前はキリサキ・キクって言うの聖女様宜しくね?」
「そんな、聖女様何て恥ずかしいから止めて!?、私はただ傷ついてる人がいるのがほっとけなかっただけで……」
「その善意のおかげでどれくらいの冒険者が救われたと思っていて?あなたは誇っていいのよ?……ところで私が名乗ったのだからあなた達の名前を聞いても良いかしら?」

 キリサキ……その名前に何となく聞き覚えがある。
確か私達が生きていた時代にキリサキ・ゼンという人物に会った記憶があるが……、大分気持ちの良い青年だった気がするのだけれど、ふと隣に常にいた女性の姿を思い出そうとするとそこから先の事が記憶から抜けてしまっているのに気付く。

「名乗る前に一つ聞きたいのだが良いか?貴様はキリサキ・ゼンという人物に聞き覚えは無いか?」
「……聞き覚えは無いかって、キリサキって苗字を聞いたら分かるでしょ?その人は私の遠い遠いご先祖よ?お伽噺でも語られてるじゃない、三英雄の一人【斬鬼】キリサキ・ゼン、彼の正当な血縁のみが名乗る事が出来る家名なんだから」
「あ、あぁそうだったな……、失礼な事を言ってすまない、取り合えず謝罪を込めて名を名乗らせて貰おう、私の名前はイフリーゼ、そしてこっちがセツナ、私の姉なのだが持病で声が出せなくてな……変わりに名前を伝えさせて貰う、そしてこの隣にいるのが」
「えっと、この街では聖女って呼ばれてるけど、私の名前はミコトって言うんだ……よろしくね?キリサキさん」
「イフリーゼにセツナ、それにミコトね覚えたわ、こちらこそよろしくね」

……キリサキはそう言うと笑顔で私達の手を順番に握り『じゃあ挨拶も済んだし行きましょうか』と言うと私の腕を引いて何処か連れて行こうとする。
思わず『まて、貴様は私達を何処に連れて行くつもりだ!?』と声を荒げると『私の実家がこの街で宿をやってるのよ、新米冒険者用の安い部屋もあるから安心してと泊まって行きなさい』と嬉しそうに笑うのだった。
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