溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

文字の大きさ
158 / 188
極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後4-21

しおりを挟む

 寝室に入ると、まだ眠るのには早い時間だが、布団が敷かれている。
 酒を飲んでいただけではあったもののやはり緊張していたのか、ほっとしてありがたくそこに座った。
 竜次郎もスーツのジャケットをおざなりにハンガーにかけて、隣に腰を下ろす。
 事務所に戻らずそばにいてくれるようだ。
 気遣いを申し訳なく思いながらも、やはり嬉しくて、甘えてよりかかった。

「竜次郎、夜ご飯食べた?」
「ちょい前だが適当に軽くな。お前は?」
「ん……俺はお酒でお腹一杯……」
「まあ、そりゃそうか。けどなんか腹にいれながら飲まねえと体に悪い…ってのがお前にも当てはまるかどうかはよくわかんねえが」

 それは一応知っているが、なにか食べていたらもっと早くに満腹になって負けていたかもしれないので今回は致し方ない。
 あとは習慣として、接客中、客が頼んだり勧めたりしなければキャストが勝手に食べ物をオーダーしたりはできないので、飲むだけになることが多い……というのもあるだろうか。
 過度な飲酒は体に良くない、という認識は当然あるが、自分自身でそれを実感できないので、危機感は下戸の人よりも遠いかもしれない。
「南野さんはちゃんと食べながら飲んでたよ」
 自分はともかく南野は大丈夫だと伝えると、竜次郎は何故かものすごく脱力した。
「…………ったく、無茶しやがって。相手は年寄りでもヤクザなんだ。まともに勝負しない可能性だってあったんだぞ」
「俺も一応相手は見てるよ。博徒の人だから勝負は好きだと思ったし、俺に対しては、絶対に勝てる相手だって油断があったと思うから」
 手の内を話すと、竜次郎は「意外と策士だな」と楽しげに笑う。
 不意にすいと伸びてきた手に後頭部を掬われ、吐息が触れそうなほど引き寄せられた。

「これ以上俺を惚れさせるなよ」

 至近で囁いた唇に唇を塞がれて、湊は無防備に目を閉じた。
 力強い腕にぎゅっと抱き締められると、ほっとして素直な吐息がこぼれる。
「ん……」
 口付けはあまり深くはならず、すぐにちゅっと音を立てて顔が離れた。
 不思議に思い目を開けると、熱のこもった瞳にぶつかる。
 続きが欲しくて、顔を寄せようとしたのだが。

「さ、疲れてるだろうからお前はもう寝ろ」

 ぽすんと布団に転がされて、思いもしない展開に目を丸くする。
「え………?竜次郎、しないの?」
「昨夜も朝もしただろ」
「もしかして疲れてるの……?」
 ここでやめるなんて、あまりないことだ。
 もしかして町内を全力疾走したり南野を二階まで運んだりしたせいでとても疲れているのだろうか。
「お前がな。俺は元気だ」
 なんと、心配されていたのは自分だったらしい。

 湊は起き上がると、竜次郎の首に腕を回し、自分からキスをした。

「…どうした?」
 あまりしない(自分からする前にされてしまうので)ことだからか、竜次郎は驚いた顔で覗き込んでくる。
「我慢されたら困るから頑張って誘惑してるところ…」
 宥めるように背中を撫でられ、そういう気分にさせられなかったかと少し残念に思いながら、素直に意図を告げた。
 竜次郎は低く呻くと、「お前な」と湊の肩口に沈んだ。
「煽るなっていつもいってるだろ。別に泥酔してなくても、凶戦士化することもあるんだからな」
 男は怖いんだぞ、と父親のようなことを言われて、一応自分も男なのだがと内心ツッコミを入れつつ、湊も考える。

「もしも…乱暴にされたりしても、竜次郎がしたいと思ったことなら、…俺は平気だと思う」
 先日怖いと思ってしまったのは、竜次郎が酔っぱらっていて湊をほとんど認識していなかったからだ。
 それも突然だったからで、次からは同じことがあっても大丈夫だと思う。…恐らく。

「あー……、まあ、なんとなく何を言いたいのかはわかった。けど、お前が楽しくないことは俺も楽しくねえから、そこは……お互いに気を付けるってことにするぞ」
「う…ん…、でも、俺竜次郎のスイッチはよくわからない……」
「………とにかく気を付けろ」
 顔を上げた竜次郎は、複雑な表情で念を押した。
 湊も素直に頷く。
「…じゃあ、続きする?」
「お前は平気か?」
「俺も元気」
 竜次郎は口の中で「お前な」とか「たく」とかもごもご言っていたが、欲望に負けたらしく湊の着ているものに手をかけた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...