103 / 188
103
しおりを挟む「あっ、兄貴!」
竜次郎と中尾、中尾の仲間に支えられた長崎と共に外に出ると、荒れた様子の境内には数台の車が止まっていた。
竜次郎の姿を見ると、マサとヒロ、他にも見知った顔が数人、喜びの表情を浮かべて近寄ってくる。
「代貸、無事ですか」
「おう、来てたんなら助けに来いよお前ら」
「あの黒神会の奴が邪魔だからここにいろって言うから…。それに兄貴なら殺されても死なないかなって」
どういう意味だそれは、と竜次郎にどつかれて、「痛いっすよ。褒めたのに何で殴るんすか」と涙目になっているヒロ。みんな楽しそうだ。
「緊張感のない奴らだな」
羨望の眼差しを向けていると、ぼそっと声が降ってきて、そちらへと振り向いた。
呆れたような顔の中尾に、先程のことを思い出し、慌てて頭を下げる。
「中尾さん、さっきは助けていただいてありがとうございました。あの後、八重……子ちゃんと会ったんですか?どうして……」
八重崎は、一体どんな魔法を使って中尾を竜次郎に協力するよう仕向けたのだろうか。
水戸の店に行った時は何も出来なかったので、その後八重崎が個人的に接触したのかと考えながら問いかけると、中尾は少々面食らった顔をした。
「何だ。あれはお前の差し金じゃなかったのか」
「?何のことですか……?」
「……あいつが、八重子連れてまた来いって言ってたぞ」
「水戸さんが?もちろん行きたいですけど、あの、八重子ちゃんは中尾さんに何を?」
「おい、八重子って誰だ?ってか何でお前らやけに親しげなんだよ」
答えがもらえずに食い下がっていると、二人が話しているのを見咎めた竜次郎が割り込んでくる。
面白くなさそうな竜次郎の様子を見た中尾は、ニヤリと唇の端を吊り上げた。
「……クッ、何だお前、こいつに何も話してねえのか?こりゃ面白え」
「は?何の話だ、おい、…湊?」
「じゃあな」
「あっ中尾さん……!」
中尾は言いたいことだけ言って、乗ってきたものらしき車に乗り込むとさっさと引き上げて行ってしまった。
「………………………」
「あ、あの……」
八重子のことをフォローすべきか悩んでいると、竜次郎は一つ息を吐いて雰囲気を和らげた。
「とりあえず……帰るか」
大きな手が頭を撫でる。
あたたかさに感傷的な気分になって、泣きそうになったのを必死で堪えながら頷いた。
エンジンが止まり、見知った場所に降り立つと、ほっとする。
長崎はもう一つの車に乗せられて、北条の医院へと運ばれたようだ。オーナーがああ言ったのだから、北条の元に連れて行けば、彼はきっと助かるのだろう。助かったら、長崎はどうするのだろうか。
……それを考えてしまうのは、自分にもまた決断の時が迫っているからだ。
「怖い思いさせちまって、悪かったな」
連れ立って玄関に入り靴を脱いでいると、竜次郎に突然謝られて、とんでもないと首を振る。
「竜次郎のせいじゃなくて、俺が、……」
あのビルで、迂闊に中尾を追って行ったせいだ。
そう言おうとしたが、「お前は何も悪くねえ」と苦笑した竜次郎に抱きしめられたことで、言葉は途切れた。
「何か、酷いこととかされてねえか」
また首を横に振った。
湊のせいであんな危険に晒されたのに、竜次郎はどうしてそんなに優しくしてくれるのだろう。
嬉しいのに、愛しさが膨らんでいくことが今の湊にはただ恐ろしい。
このあたたかい場所から、離れられなくなる。
「竜次郎、」
好きだと言いたくて、……言えずに縋り付いた。
「湊?……んなに熱烈にしがみつかれると、スイッチ入っちまうだろ」
いいよという言葉の代わりに、縋り付く手に力を込める。
お前な、といういつものぼやきが聞こえて、湊は寝室へと攫われた。
6
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる