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しおりを挟む望月の言葉はいつも力強く、根拠がなくとも聞くものを勇気付ける。
それはきっと、この人は誰かの窮地を絶対に見過ごさないだろうという信頼感から来るものだろう。
悩んだ時や迷った時、望月に喝を入れてもらいに来る客が多いのも頷ける。
こんな人が自分の上司であるということが、ありがたいと思う。
今はまだ、恐れを払拭するほどではない。
だが、いつかこの言葉を信じられるようになりたいと思った。
「けど、…まあ、俺以外のことに関しては推測ではあるんだけど、お前の周りにいる奴は、もっと湊に我儘言われたり、迷惑かけられたりしたいと思ってるんじゃないかな」
「………え?」
「今俺も、お前がそうやって少しでも自分の気持ちを話してくれたのが嬉しかったし」
付け足された言葉に思わず望月を凝視した。
なんだか、最近同じようなことを言われた気がして記憶を辿る。
榛葉だ。
「榛葉さんにも……似たようなことを言われました」
もう少し甘えてくれてもいいのにと、そう言われたことを告げると、望月はあからさまに嫌そうな顔になった。
「あいつに?そりゃあれだ。よっぽど一人で頑張ってる感出てたんだな。他人の荷物は絶対に持ちたくないあいつに言われるんだから相当だぞ」
「そ、そこまで……」
榛葉は暗黒を感じる物言いは多いが、面倒見はいい人だと思う。
では、ただただ気を遣わせてしまっただけかと思っていたが、もしかして、元気付けようとしてくれていたのか。
その榛葉は、今はカウンターの方で鹿島とバーテンダーと何か話している。
鹿島に対しては更に辛辣だが、あの二人は仲がいいのだ。
視線を感じたのか、榛葉が振り返り、目が合うと手を振られた。
自分の周りには、優しい人ばかりだ。
知らなかったわけではないけれど、ずっと、どこか自分はその輪に入っていないと感じていた気がする。
竜次郎のこと、母親のこと、そしてまた一つ、湊は見えていなかったものを思い知った。
今からでも榛葉に礼を言いに行こうかと思ったところで、スマホが震え、八重崎からのメッセージの通知を知らせた。
定期的な報告か、それとも事態が動いたか。
万が一何かあった場合、激しく動揺すれば何事かと思われるだろう。
湊はトイレに行くと言って席を外した。
店を出て、メッセージを確認しようとすると、エレベーターから人が出てくるのが目に入り、それが知っている人物だったため、思わず背の高い観葉植物の脇に隠れた。
いつもの作業服ではないから少し雰囲気が違ったが、あの男を見間違うはずがない。中尾だ。
数人の仲間らしき男達と共に、湊のいる場所とは反対の方に歩いていく。
ここは複数の店舗が入る商業ビルで、この階には他にも飲食店が入っているので、たまたま食事に寄ったということも……ある、だろうか?
もしもプライベートであれば、会話の機会があればいいと思うが、今この情勢でノコノコ出ていくのが危険だということは流石にわかっている。
わかってはいるが……動向が気になる。
仲間も数人だし、少し様子を伺うだけだと、湊は足音を忍ばせてその後を追った。
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