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しおりを挟む黒神会のトップはヤクザの風上にすら置けない外道だということはよくわかった。
ただ、摘発を恐れずに賭場が作れるというのは完全にその威光のお陰ではあるわけで、胸中は複雑だ。
「ねえちょっと聞いてる?」
「……聞いてねえ」
竜次郎と神導は、地下の賭場から出てカジノがあるフロアの事務所へと移り、現在は人員などの話をしていたところだった。
話し中に一瞬気をそらしたことを誤魔化しもせずに宣言されて、神導は唇を尖らせる。
「一応、僕の方が立場が上なんだからもう少し敬えないの」
「縦社会には興味ないから畏まらなくていいっつったのはそっちだろ」
「じゃあ訂正する。向かい合ってる人の話はきちんと聞くこと」
「そりゃ悪かったな。で、なんの話だ?」
まったく、と溜め息をついた神導が、やけに真剣な面持ちでこちらを見る。
「……湊のこと、ちゃんと大事にするよね?って」
射抜くように。探るように。
大きな瞳で見据えられて、わけもなくたじろいだ。
「何でお前にそんなこと心配されなきゃいけねえんだよ」
怯んだのは一瞬。すぐに自分と湊のことはこの男には関係ないだろうと苛立ちが湧き上がってきて、やや喧嘩腰で応じれば、神導から返ってきたのは竜次郎からしたら意外な一言だった。
「僕にとって、スタッフはみんな家族だから。特に『SILENT BLUE』のメンバーは思い入れがあるし、何より湊は可愛いからね。友人としても大切にしてるし」
「………………………………」
思わずぽかんと見つめ返すと、相手からも訝しげな視線が向けられる。
「何、その顔」
「いや……お前にそんな人間らしい情があったのかと少し意外で」
「僕のことをなんだと思ってるの?」
「あんな外道のそばにいられるくらいだから相当いかれた奴だと」
「……まあ、醜い中年男性とかには何の情も湧いてこないけど」
平気で腕を斬り落とすくらいだからな。
「大事にするに決まってんだろ。もちろん、お前が言ったからじゃねえぞ」
宣言してやれば、反論はせずに神導はほっと息をついた。
「ならよかった。五年前いなくなった湊を探さなかったの僕的にはありえないからさ。真剣じゃなかったら拷問するところだったよ」
笑顔の拷問宣言。
やっぱりこいつは黒神会の頭同様いかれた奴だ。
そんな話をしていると、スマホが震えた。日守からだ。
神導の『どうぞとって』というジェスチャーに、通話をタップする。
「どうした」
『湊さんがいません。何か連絡を受けていますか?』
「……何だと?位置は」
言いながら竜次郎自身も持っていた端末で位置を確認する。
湊にスマホを持たせたのはこのためだ。
『ご実家の辺りですね。移動はしていません』
掛け直すと言って一旦通話を終了する。
確認すると、確かに実家の方に行くという旨のメッセージが入っていた。
だが、時間は二時間以上も前だ。
母親との関係もあまり良好ではなさそうだった湊が、実家に行ってそれほど留まる理由があるだろうか。
色々と悪い想像が頭を過るが、埠頭や山中やシマ外の繁華街へ移動しているわけではないのだ。
早合点で荒くれ者たちが押しかけて行って、親子の再会をぶち壊しにするようなことがあってはならない。
「とりあえず様子見に行ってもらえるか。俺もすぐに向かう」
掛け直し、そう指示をすると、「何かあった?」と問いかけてくる神導に暇を告げた。
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