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しばし会話とまったりするのを楽しんでいたが、段々これでいいのかと不安になってくる。
昨晩から拘束してしまっているようなものなのだ。松平組としてはあまり望ましい状況ではないだろう。
「竜次郎、お仕事…いいの?」
「今は報告待ちでな。別にやることがないわけじゃないが、お前に構う方が大事だろ」
猫にするように喉をくすぐられて目を細めた。懐柔されているようで「真面目に言ってるのに」と唇を尖らせる。
「俺は嬉しいけど…真面目にしないと組長さんに怒られちゃうよ」
「……真面目な極道ってのもなあ……。ま、お前がそう言うなら渋々売り上げにでも目ぇ通すか…」
バリカタの枕の代わりにクッションを差し込んで立ち上がった竜次郎を見て、湊はいいことを思いついたと、追うようにして体を起こした。
「じゃあ俺、お茶淹れるよ」
「いやいい、そこで寝てろ。今日も夜から仕事だろ。温存しとけ」
ごく肩を軽く押されて横になっているように促されるが、そっと押し返して立ち上がる。
「お茶淹れるくらい大したことじゃないし……。折角来たんだから、俺も何かしたい」
「ったく……無駄に頑固だなお前は」
竜次郎は諦めて笑ってくれた。
「お茶?コーヒー?」
「お前」
そもそもこの事務所に飲み物の選択肢があるのかどうかわからないが、希望のものがなければ近くまで買いに行ってもいい、なんて色々考えながら聞いたのに、竜次郎はふざけて腰を抱き寄せて唇を寄せてくる。
真面目に言ってるのに、と再度思いながらも拒む理由はなくて目を閉じる、と、触れる寸前で至近の体がピクリと強張った。
「竜……?」
どうしたのかと聞こうとする前に、竜次郎は湊を放すと靴音も荒くドアまで直進して勢い良く開いた。
「うわっ」という声の合唱と共に、いかつい男たちが雪崩れ込んでくる。
「……お前ら……」
背後の夜叉、再び。
どうやら聞き耳を立てていたらしい男たちは、生命の危機を感じ取って青い顔で釈明を始めた。
「あ、兄貴……」
「代貸、違うんです。俺たちは別に出歯亀しようとかそんなんじゃなくて」
「そうそう、湊さんが鬼畜なプレイを強いられてないか心配で」
「ひいては兄貴が捨てられないために見守りたいっていうか」
「誰が鬼畜なプレイを強いてるって、あぁ!?」
すべては火に油を注ぐような弁明だったようだ。
先程よりも更に痛そうな打撃音が人数分事務所内に響いた。
「はい、お茶どうぞ」
「あっ……ありがとうございます!」
事務所にいた男たち全員にお茶を配り終えてほっとする。
後からやってきた日守にお茶について聞いたところ、普段そんなことはしていないが茶器は客用のものがあるのでそれを使っていいとのことで、茶葉は客用ではなく特売品の方を使うようにとの指示だった。
曰く「どうせ煎茶の味など全員わかりませんから」だそうだ。竜次郎もそこに含まれている辺りが何とも言えないが、とりあえずここは従っておくべきと思いそのようにした。
今度貰いもので使いきれていないコーヒーでも持ってこようと思う。
「何も全員分淹れるこたなかったろ」
それくらい自分でやらせろ、とやや呆れた表情の竜次郎に笑い返す。
「うん、でもついでというか別にそんな手間じゃないし」
「あー美味い!」
「天上の美酒ですね兄貴!」
「カフェ湊最高!」
「湊さんマジ天使!!」
「………………」
やけにありがたがっている男たちにイラっと来たのか、またしても竜次郎の雷が落ちそうになったところで、部屋の外がにわかに騒がしくなった。
「……何だ?」
事務所内に緊張が走る。
表情を険しくさせた竜次郎にこっちに来いと手招きされて寄っていくと、ぐっと後ろへ押しやられた。
同じタイミングでドアが開く。
「竜ぅ、てめえ……鉄砲玉よこすとは随分舐めた真似してくれるじゃねえか」
戸口にあらわれたのは、いかにもガラの悪いツナギの青年だった。
昨晩から拘束してしまっているようなものなのだ。松平組としてはあまり望ましい状況ではないだろう。
「竜次郎、お仕事…いいの?」
「今は報告待ちでな。別にやることがないわけじゃないが、お前に構う方が大事だろ」
猫にするように喉をくすぐられて目を細めた。懐柔されているようで「真面目に言ってるのに」と唇を尖らせる。
「俺は嬉しいけど…真面目にしないと組長さんに怒られちゃうよ」
「……真面目な極道ってのもなあ……。ま、お前がそう言うなら渋々売り上げにでも目ぇ通すか…」
バリカタの枕の代わりにクッションを差し込んで立ち上がった竜次郎を見て、湊はいいことを思いついたと、追うようにして体を起こした。
「じゃあ俺、お茶淹れるよ」
「いやいい、そこで寝てろ。今日も夜から仕事だろ。温存しとけ」
ごく肩を軽く押されて横になっているように促されるが、そっと押し返して立ち上がる。
「お茶淹れるくらい大したことじゃないし……。折角来たんだから、俺も何かしたい」
「ったく……無駄に頑固だなお前は」
竜次郎は諦めて笑ってくれた。
「お茶?コーヒー?」
「お前」
そもそもこの事務所に飲み物の選択肢があるのかどうかわからないが、希望のものがなければ近くまで買いに行ってもいい、なんて色々考えながら聞いたのに、竜次郎はふざけて腰を抱き寄せて唇を寄せてくる。
真面目に言ってるのに、と再度思いながらも拒む理由はなくて目を閉じる、と、触れる寸前で至近の体がピクリと強張った。
「竜……?」
どうしたのかと聞こうとする前に、竜次郎は湊を放すと靴音も荒くドアまで直進して勢い良く開いた。
「うわっ」という声の合唱と共に、いかつい男たちが雪崩れ込んでくる。
「……お前ら……」
背後の夜叉、再び。
どうやら聞き耳を立てていたらしい男たちは、生命の危機を感じ取って青い顔で釈明を始めた。
「あ、兄貴……」
「代貸、違うんです。俺たちは別に出歯亀しようとかそんなんじゃなくて」
「そうそう、湊さんが鬼畜なプレイを強いられてないか心配で」
「ひいては兄貴が捨てられないために見守りたいっていうか」
「誰が鬼畜なプレイを強いてるって、あぁ!?」
すべては火に油を注ぐような弁明だったようだ。
先程よりも更に痛そうな打撃音が人数分事務所内に響いた。
「はい、お茶どうぞ」
「あっ……ありがとうございます!」
事務所にいた男たち全員にお茶を配り終えてほっとする。
後からやってきた日守にお茶について聞いたところ、普段そんなことはしていないが茶器は客用のものがあるのでそれを使っていいとのことで、茶葉は客用ではなく特売品の方を使うようにとの指示だった。
曰く「どうせ煎茶の味など全員わかりませんから」だそうだ。竜次郎もそこに含まれている辺りが何とも言えないが、とりあえずここは従っておくべきと思いそのようにした。
今度貰いもので使いきれていないコーヒーでも持ってこようと思う。
「何も全員分淹れるこたなかったろ」
それくらい自分でやらせろ、とやや呆れた表情の竜次郎に笑い返す。
「うん、でもついでというか別にそんな手間じゃないし」
「あー美味い!」
「天上の美酒ですね兄貴!」
「カフェ湊最高!」
「湊さんマジ天使!!」
「………………」
やけにありがたがっている男たちにイラっと来たのか、またしても竜次郎の雷が落ちそうになったところで、部屋の外がにわかに騒がしくなった。
「……何だ?」
事務所内に緊張が走る。
表情を険しくさせた竜次郎にこっちに来いと手招きされて寄っていくと、ぐっと後ろへ押しやられた。
同じタイミングでドアが開く。
「竜ぅ、てめえ……鉄砲玉よこすとは随分舐めた真似してくれるじゃねえか」
戸口にあらわれたのは、いかにもガラの悪いツナギの青年だった。
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