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しおりを挟む深夜に家から電話がかかってきて、竜次郎は湊の体調を心配しながら帰っていった。
別れ際、行かないで欲しいと甘えそうになったが、すんでのところで自制する。
一人になって、あらぬ場所が痛かったりだるかったりするので何をする気にもなれず眠りに落ちると、夢を見た。
夜中、物音で幼い湊は目を覚ました。
何の音だろうと思っていると、今度は喧嘩するような声が聞こえて、驚いて部屋を出る。
階下で言い争っているのは、両親だった。
最近父は帰りが遅く、母はいつもそれを暗い面持ちで待っていた。
「お父さん、今日も帰ってこないの?」
「お仕事が忙しいのよ」
湊が聞くと、手をつけられていなかった前日の料理を食べながら、自分に言い聞かせるようにしてそう言っていた。
父がいつも不在なことも、母が悲しそうなことも、幼い湊には理由がわからなかった。
だから、その終わりは、湊からしてみたら突然だった。
否、母にとっても、そうだったのかもしれない。
「もう無理だ、お前は重すぎる」
沈痛な面持ちの父と。
「嫌……!お願いだから、捨てないで」
美しい髪を振り乱して縋り付く母と。
二人の関係の最後の瞬間だけがはっきりと幼い脳裏に焼き付いていた。
去ろうとする父親の顔が、不意に竜次郎とかぶって―――――
「っ………………!」
飛び起きる。
全身に汗をかいていた。
嫌な風に鼓動が跳ねて、不安が全身を支配する。
湊の母は、夫を深く愛していた。
できることは何でもしてあげたいと思っていたようだし、いつでも一緒にいて欲しいという願望がとても強かったようだ。
父は、それを受け止めきれずに、外に逃げ場を求めた。
二人の間に具体的にどういうやりとりがあったのかは、幼かった湊にはわからないし、それは夫婦間の問題なので、合わなかったというのはもうどうしようもないことだろうと思う。
……ただ、自分が竜次郎に対して感じる気持ちが。
少し離れるだけでも寂しいと思うそれが、もし母親と同じ重さだとしたら。
ドクン、と不安が更に膨らんだのを感じた。
記憶の中の母親の姿は、未来の自分ではないのか。
竜次郎は、湊が寄っていけばいつでもその隣をあけてくれた。
父だって最初は、同じ温度じゃなかったにしても母を愛していただろう。
「竜次郎……」
彼の背にしがみつたときに感じた愛しさを思い出し、そして別れ際に縋りかけた手を見下ろしてぞっと自分に怖気を感じた、その時。
インターフォンが、鳴った。
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