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しおりを挟む翌日。
昼休み、いつも人を避けるようにして屋上で一人昼食を摂っている竜次郎のもとへと向かった。
近付いて行くと、グラウンドを背にフェンスにもたれた彼から気怠げな視線で迎えられる。
きちんと話をしてもらえるだろうかと、ドキドキしながら口を開いた。
「あの……っ、松平、昨日はありがとう」
「あぁ?……別にお前を助けてやったつもりはねえよ」
「でも、助かったのは事実だし……、その場でお礼を言えなくて、ごめん」
いや、と軽い返事があって会話は終わってしまった。
早く立ち去れという無言の圧力を感じないではなかったが、留まり「それで…」と緊張に乾く口をもう一度開く。
「……ここで一緒にお昼食べてもいい?」
「あ?」
面食らったような顔をしていた竜次郎は、すぐに「ああ」と得心したように皮肉げに口元を歪めた。
「俺の側にいれば、少なくとも学校にいる間は安泰だもんな?別に構わねえぜ」
「えっ、あ、……じゃあ、やめとくね」
「は?なんでだよ」
「ごめん、俺、そんな利用しようとかそういうつもりじゃなくて、……嬉しかったから。でも、ごめん」
確かに、強いものに取り入ろうとする調子のいい奴のようだったかもしれない。
恩人を嫌な気持ちにさせてしまったと、しょんぼりして踵を返した湊に焦ったような声がかかる。
「いや待て!いい、俺が悪かった。好きにすりゃいいだろ。特にここにいるのに俺の許可がいるわけじゃねえし」
「でも……」
「別に利用してるとか思わねえから。………ったく、調子狂う奴だな」
ガリガリと頭を掻きながら、それでも拒絶はされていないようでホッとした。
その日は帰りも声を掛けて、途中まで一緒に帰った。
歩幅広いな、と思いながらその横をちょこちょこついていくと、困惑気味な視線を感じて隣を見上げる。
「桜峰お前、俺が怖くねえのかよ」
「怖い?どうして?」
そりゃ……と濁した竜次郎が言いたいのは、彼のバックグラウンドに関してのことだろう。
徒歩圏内とはいえ湊の家は一駅ほど距離があるが、学校の近くに一家を構える松平組は地元では有名らしく、クラスではわかりやすく敬遠されている。
「俺、松平とそのご家族に暴力を振るわれたことも金を巻き上げられたこともないよ?」
「まあ…する理由もねえし」
「そしたら怖い要素なくない?………顔が怖いっていう人の気持ちは少しわかるけど」
「う、うるせえな。生まれつきなんだから仕方ねえだろ」
「違うよ、表情。もっと笑ってればいいのに」
ニコニコしているのもそれはそれで怖いような気もするが、害意がないと相手に示すことは大切なことだ。
「ウチの稼業はハッタリが大事なんだよ」
「……ごめん。俺、怖くないとか言って。ちゃんと怖がるフリするから」
「心の底からいらねえその気遣い」
振りかよ、と嫌そうな顔に声をあげて笑った。
一緒にいると楽しいな、と思って、それからはいつも一緒にいた。
休み時間や移動授業、二人とも部活に入っていなかったから放課後もずっと。
特に謝られたりはしなかったが、あの三人がそのあと何かをしてくるとかそういうこともなく(多分竜次郎はそれもあってそばにいてくれたのだと思う)、それまでの淡々とした学園生活を覆すような楽しい日々。
それまでの人生の中で一番幸せな時間だったと、はっきりそう言える。
けれど、どうか終わらないでという願いも虚しく、卒業の日はやってきて―――――
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