不器用な初恋を純白に捧ぐ

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
102 / 104
222小噺

純白は、猫に挑戦する

しおりを挟む

「シロ、今日はこれで遊びませんか?」

 ましろはニコニコしながら、別室で組み立てたおもちゃを床に置く。
 ラグの上でのんびりしていたシロだが、好奇心をくすぐられたらしく、起き上がってすぐに寄ってきてくれたので、好感触だと嬉しくなった。

 ましろが持ってきたのは、自動で動く猫のおもちゃである。
 先端に羽のついた、少し柄が短い猫じゃらしのようなものを、中心となる機械に差し込んでスイッチを入れるだけで、くるくると回って動くのだ。
 カサカサと音のする素材のカバーがかけてあり、その下を獲物が動くような様が、猫の興味を引くらしい。
 ましろの動きではどう頑張ってもシロにじゃれてもらうことができないので、これならば遊ばせられるのではと思い、購入したものである。
 インターネット上でたまたま見かけた広告で、商品ページの動画には、激しく遊ぶ猫が映っていた。
 シロがそんなふうに遊ぶところを見たい。
 思いが募り、迷わず購入ボタンを押していた。
 猫のおもちゃと侮るなかれ、スピードも三段階に切り替えられて、飽きさせないよう不規則な動きもできる優れものなのだ。

 万感の期待を込めてスイッチを入れると、音を立てて回り出す。
 生き物のように滑り出したそれを、シロは近くでじっと見ている。
 やがて姿勢を低くし、お尻を振り、狙いを定める動作をし出したシロを、固唾を呑んで見守った。
 シロが飛びかかる!そして……、

 どかっとおもちゃの柄から中心の機械ごと、押さえ込むようにして横になってしまった。

「え……シロ、それは」
 そんな、本体を押さえてしまっては……。
 機械の方も、動くことができず、キュンキュンと困惑したような音を立てている。
 当然、ましろとおもちゃの困惑など汲むはずもないシロは、どっかりと体を乗せたまま、毛繕いを始めてしまった。
 おもちゃが獲物だとしたら、最終目的はその動きを止めることだろうと思うので、対処としては正しい。

 正しいのだが……悲しい。

「シロは、頭がいいですね……」
 ラグの上に膝をつきがっくりと肩を落とすましろを、後ろで一部始終を見ていた天王寺が優しく慰めてくれる。
「猫にはよくあることだ。気にするな」
「ちー様…」
 手が伸びてきて、猫にするように顎を撫でられた。
 皮膚の薄いところを指の腹で柔らかく擦られると、少しくすぐったい。
「はぅ……私は猫ではないです……」
「だが、気持ちがよさそうだな?」
「それは……、ちー様に触ってもらえるのは、嬉しいから…」
 身をかがめた天王寺の唇が、額に触れる。
 もっと他のところにもしてほしくて、強請るように目を閉じた。
 こめかみ、頬、そして、唇。
「お前のことは、俺が構ってやる」
 耳元で甘く囁かれると、頭が痺れるような心地がして、ぼうっとなってしまう。
 膝をついて視線が近くなった天王寺が、ましろの腰を抱く。
 ましろは身を委ねかけたものの、ふと不審な音に気付き、反射的に視線を向け、驚愕に目を見開いた。

「し、シロ……?」

 シロが、おもちゃの先端についている羽を、食いちぎっている。
 状況を掴みかねているうちに、先端は無残な有様になり果てた。
「も、……もう仕留めてしまったのですか……?」
 口元に羽をつけたまま、シロは「何か?」という表情でましろを見る。
 背後では、翼を失ったただの棒が、ただくるくると回っていた。
「シロ、お前な…」
「うう…今回も惨敗です…」
「うな~~~」

 猫は強し。
 シロが食べて喉や腸などで詰まってしまっては大変なので、甘い雰囲気は一先ずお預けにして、二人はおもちゃを片付けた……。

 おしまい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...