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222小噺

純白は猫に捧ぐ

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 来たれ、美しき猫、恋する我が胸に。 ーボードレール


「ちー様、今日は二月二十二日で、にゃんにゃんにゃんの日ですよ」
 部屋を訪れるなり、目を輝かせながらそんなことを言い出したましろに、天王寺は驚いたように一瞬目を瞠った。
「にゃ……、ああ、そういえば、そんな風に言うそうだな」
「猫ちゃんの日なので、今日はシロのために、おもちゃを買ってきました」
「そうか……。シロ、よかったな」
 だが、ましろがわくわくしながら目の前にじゃらしおもちゃや蹴りぐるみなどを並べても、当のシロは軽く匂いを嗅いだくらいで、ふいっと歩いて行ってしまう。
「シロ……あの、お気に召しませんか……」
 問いかけたところで、当然だが返事はない。
 踵を返したシロが真っ直ぐに向かったのは、ましろがおもちゃを入れて持ってきた紙袋のところで、何か気になる匂いでもするのか、熱心にふんふんと鼻を動かしている。
 食べ物などは入っていないのに、と不思議に思っていると。

 さりさりと顔を擦り付け。
 かさ……かさ……と控えめに手を出し。
 かしゃ……かしゃかしゃ……と何やら不穏な空気。
 がさっがさっと激しく紙袋にパンチを繰り出したかと思うと。
 ざっと引き。
 だだっ!と走り。
 ズサーッ!と紙袋目掛けてスライディング!

 紙袋と戯れるシロに、ましろはただ圧倒されるばかりだ。
「シロ……。激しいです……」
「まあ、猫は大抵紙袋が好きだな」
 静かに寝ていることが多いので、のんびりした生き物なのだと思いがちだが、やはり元は野生の肉食動物なのだと思い知る。
 活発なシロも可愛いし見ていて楽しいのだが、自分では役不足なのだとちょっとしゅんとしてしまった。
 その肩を天王寺がぽんと叩く。

「猫は万事そういう生き物だから、そう気を落とすな」
「はい…」
「代わりに俺がお前と遊んでやる」
「え…。ちー様が……?」

 ましろの持って来たじゃらしおもちゃを手に取った天王寺は「ほら」と猫にするようにましろの前で揺らした。
「わ、私は猫では、…………っ」
 言いながらも、さりげなく手を伸ばすと、さっと退けられる。
「え、えいっ」
 今度こそ、と思ったが、やはりそれも届かない。
「う……ちー様、意地悪です」
「…、ましろ」
「隙あり!……あっ!」

 拗ねたと見せかけて、天王寺の隙をついたつもりが、勢いがつきすぎたのか、足を滑らせてしまった。

「っと、」
 すかさず、天王寺が抱きとめてくれる。
「……あ、ありがとうございます……」
「お前、中々策士だな」
「運動神経でちー様に勝てるとは思っていませんから……、あの、怒りましたか……?」
 卑怯だっただろうかと、恐る恐る問いかけると、天王寺は楽しそうに笑った。
「そんなわけないだろう。俺の恋人は綺麗なだけじゃなくて、頭もいいんだと見直したところだ」
 甘い言葉と共に、額に軽いキスが降る。
 彼の腕の中、優しい瞳に見つめられて、顔が赤くなってしまう。
 もっとして欲しいなんてねだりかけたその時。

 ばりばりばりという音にハッとしてシロの方を見ると、先ほどまで袋だったものは、見るも無惨な姿に成り果てていた。

「……シロ……見事に仕留めてますね……」
「猫が掃除を大変にする遊びの方が好きなのは何なんだろうな……」
 獲物が動かなくなると(最初から動いてはいないが)、興味を無くしたらしく、シロは身軽に冷蔵庫の上に飛び乗り、何事もなかったかのように体を舐め始める。
 目の前に広がる惨状に、ひとまず甘い時間はお預けにして、紙袋の残骸を片付ける二人であった……。

 おしまい。
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