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不器用な初恋のその後
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しおりを挟む「ましろ」
「ん……、ち……さま……?」
優しく肩を揺すられて、ましろは緩やかに覚醒した。
まだ寝ぼけたまま、それでもそばにいる人が誰なのかだけはきちんと認識していて、安心しきったままそっと目を開ける。
「起こして悪いな。昨夜、出掛けることを言えなかったから…」
「ぇ…?……あっ、お、おはようございます……!」
ワンテンポ遅れて慌てて起き上がると、天王寺は苦笑して「そのまま寝てていいぞ」とましろを押し留める。
ベッドの中から見上げれば、天王寺はコートまで着込んで、既に出かける装いだ。
ようやく目が覚めてきて、昨晩は結局、食後に眠くなって寝てしまったのだと思い至った。
「ちー様…折角のクリスマスイブに…寝てしまって、ごめんなさい…」
しょんぼりすると天王寺は穏やかに首を振り、プレゼントはちゃんともらっただろと笑う。
何をプレゼントしたか思い出して恥ずかしくなり、赤くなって上掛けを引き上げたましろの頭を撫でると、天王寺は言った。
「今日は仕事で午前中だけ人と会う用があって出かけるが、午後には戻る。…お前に特に予定がないなら、戻ってから少し出掛けるか」
天王寺と出掛ける。
ましろは嬉しくなって、何度も頷いた。
寝坊してしまったのでせめてそれくらいはと天王寺を玄関で見送り、ドアが閉まるとましろは一人になる。
天王寺は寝ていていいと言ってくれたけれど、再びベッドに入る気にはなれず、とりあえず服を着替えて、朝食を摂ることにした。
パンがあったので、トースターで焼いてコーヒーを淹れる。
ダイニングテーブルでのんびり食べていると、シロがそばにやってきて、膝の上で丸くなった。
「シロ…一緒にいてくれるのですか?」
撫でると、ごろごろと喉を鳴らして目を細めている。
とても可愛い。可愛いが、パンを食べ終え、コーヒーがなくなる頃にはだんだん重くなってきて、少し姿勢を変えようとした拍子に、居心地悪そうに膝から降りてしまった。
シロが行ってしまうと、部屋の中がやけに静かに感じて、寂しい気持ちになる。
こんな時、普段は何をしていただろうか?
ましろが手持ち無沙汰になると、いつも碧井が連絡をくれたような気がする。
思い返せば、『SHAKE THE FAKE』で働くようになってから、碧井と顔を合わせない日はほとんどなかった。
あまり意識してはいなかったが、碧井はとても自然にましろのそばにいて、ましろのことを気遣ってくれていたのだなと今更ながらに思う。
今、彼はどうしているだろう。思わずスマートフォンを手に取った。
『ハク、どうしたの?天ちゃんと絶賛イチャラブクリスマス中じゃないの?もしかしていじめられた?』
「ち、違います。彼が、仕事に行ってしまったので」
『あー、一人で寂しくて暇だったわけね』
あっさりと図星を指されて、申し訳ない気持ちになった。
暇つぶしに電話などしてしまったことを謝り、碧井と話したくなったのは本当だと伝えると、真面目すぎる、全然気にしていないと笑われる。
『俺もいつも暇つぶしにお邪魔してるでしょ』
「でも、それだけではないのです。私が一人でいるとき、ミドリがいつも声をかけてくれたということを思い出して、あの、今までずっと、ありがとうございました」
『ちょ、そんな最終回みたいのやめてくれる?俺はこれからも一番の友達でいるつもりなんだから』
「それは…、もちろんです」
『じゃあ、もうこの話はおしまい。で、昨日は楽しかったの?』
ましろは頷き、ワインの礼を言ってから、天王寺からの提案について相談した。
「実は、引っ越し先で一緒に暮らさないかと言ってもらえたのですが…」
『お、良かったじゃん。いや、ましろが徒歩圏内にいないのは俺にとってはちょっと寂しいけど、でも、多少距離が離れたとしても、ちゃんと遊びにいくから』
「ミドリが来てくださるのを楽しみにしていますね。ただ…、大きな変化になるので、少し不安です」
『そりゃそうだよね。オーナーにはもう話したの?どこに住むかにもよるだろうけど、職場と遠くなるなら送迎のこととかもあるだろうし、早めに話しておいたほうがいいよ?住民票移したり色々手続きも…あ、それはハクは必要ないのかな?』
言われてはっとする。
確かに、碧井よりも先に月華に話すべきことだ。
ただ……、
「月華には……彼とのことをまだ話していなくて」
『んー、でも、他ならぬハクが望んでいることなら、反対したりとかはしないと思うけどな』
「そう…ですね。話してみます」
ましろが緊張したのを察したのか、碧井は『何かあったらいつでも電話して』と言ってくれた。
礼を言って碧井との通話を終えて、ましろは一つ深呼吸をすると、気がくじける前にと月華の番号を表示させた。
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