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不器用な初恋のその後

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 服を着ると、用意していた料理を並べて、碧井が「クリスマスプレゼント。二人で飲んで」とくれたスパークリングワインで乾杯をした。
 流石碧井の選んだものというべきか、すっきりとして優しい味わいで、ましろの好みだ。
 先程の疲れもあり、すぐに眠くなってしまいそうで、あまり飲み過ぎないように気をつけようと己を戒めた。

「お前は料理が得意だったんだな」
 並んだ料理を見て少し意外そうにしている天王寺に、とんでもないと首を振る。
 クリスマスにどんな料理を食べるのが一般的かなどよくわからないので、無難に、サラダにスープ、あとは買ってきたチキンを焼いたり、簡単にできるレシピでローストビーフを作ったりした程度だ。
 料理人の知り合いがいると、この程度で料理が得意だなんて、おこがましくてとても言えない。
 ちなみに、持っていたレシピが本格的すぎて料理一品作るのにも大変な時間のかかるましろに、簡単なレシピがネット上に溢れていることを教えてくれたのは碧井で、そうしたものを多用していることは、料理の基礎を教えてくれた本格派料理人の一には、なんとなく内緒にしている。
「得意とはいえませんが、嫌いではないと思います。好きなものを美味しく作れると嬉しいですし」
「好きだからというのはいいな。俺は食べることにあまりこだわりがないから、いつまで経っても上達しない」
 ましろからすれば天王寺は十分料理ができると思うが、己の中の合格ラインが高いのだろう。
 ましろは、何に関しても人一倍頑張らないとできるようにならないので、少しでも上達すれば自分の中では達成感がある。
 天王寺は最初から何でもできすぎてしまうので、できるようになる楽しみが少ないのかもしれない。

 食べられないものを作ったとは思っていなかったが、天王寺が喜んで食べてくれているようで、ましろはほっとした。
 互いに口数の多い方ではないので、賑やかなパーティーとはいかなくても、音もなく忍び寄ったシロがダイニングテーブルに乗ってきて、チキンが奪われかけるトラブルなどもあり、印象的な、楽しい食事になったと思う。
 腹が満たされると軽く睡魔に襲われて、本格的に眠くなってしまう前に食器を片付けようと思っていると、対面の天王寺が、不意に表情を改めた。
「ましろ」
「はい」
 微かな緊張が伝わり、ましろの眠気は霧散する。
 何の話だろうと不安を覚えつつ、居住まいを正した。
「少し前に、引っ越そうと思っているという話をしたな」
「はい……あ、もしかして、場所が決まったのですか?」
「…少し、考えたんだが…、」
 天王寺は何故か、そこで言い淀んだ。
 何だろうと首を傾げ、続きを促そうとすると、天王寺はようやくその先を口にする。

「お前も一緒に暮らさないか」

「えっ………………、」

 一瞬、何を言われたのか…はっきり聞こえたものの信じられず、ましろは固まった。

 天王寺と、一緒に?
 それは……とても嬉しい。
 そんなことがあっていいのだろうか。
 恋人同士なのだから、同居するのは普通のことかもしれないけれど、本当に自分が一緒でいいのだろうか。

「……、いや、すぐにじゃなくていいし、無理にとはいわないが」
 フリーズしてしまったのをネガティブな反応と捉えた天王寺が、提案を引っこめかけたので、ましろは慌てて言った。
「う、嬉しいです!あの、でも、私は至らないところが多くて、ご迷惑をおかけしてしまうかも…」
 朝、中々起きられないのをだらしがないと呆れられたりしないだろうか?など、色々と不安になってしまう。
「今更だ。というか俺の方が迷惑をかけてるだろう」
 そんなことはないと首を振って、ましろは自分も望んでいると伝えようとした。
「わ、私も、ちー様と一緒に、」

 その時突然、見つめ合う視界に黒い影が過った。

 ましろは驚いて固まってしまったが、天王寺は素早く立ち上がり、その黒い影を抱き上げて床に下ろす。
「……シロ、お前はこのタイミングで」
 天王寺の苦い顔に対抗するように、シロは不満げな声で「うな~」と鳴いた。
 引っ越しの話なら、自分にも関係があると思ったのだろうか。
 思わず天王寺と顔を見合わせ、話の前に先に食器を片付けようと笑い合った。
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