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しおりを挟むドアを開けた天王寺に中へと通されると、入ってすぐの廊下で待ち構えていたシロが、にゃおん、と何かを訴えるように鳴く。
「シロ」
車内からずっと引きずったままだった静寂が破られ、また猫特有の柔らかいラインに視覚的にもほっとして口元を綻ばせると、
「ましろ」
鍵を閉めた天王寺に後ろから抱き寄せられて、ドキッと鼓動がはねた。
「ち、ちー様……?」
「……さっきの……車の中での話だが」
「っは、はい……」
「お前も俺と同じ気持ちだと思っていいんだな?」
低く抑えた声に、こくこくと何度も頷く。
「も、もちろんです……!」
「……そうか」
ほっとしたのが伝わってきて、自分の気持ちをちゃんと伝えられていなかったことに気付いた。
回された腕に想いを込めてそっと手を添える。
「私も……」
「、痛て」
「えっ」
短い呻き声に振り返るれば、天王寺が眉を寄せて下を見ている。
足でも踏んでしまっただろうかと慌てて彼の視線を追いかけると、なんと、シロがその足に噛み付いていた。
「シロ……お前。飯なら出掛けに少しやっただろう」
「ええと……ちー様の帰りが遅くて、不安だったのでは?」
だがましろのフォローも虚しく、シロは甘える様子など一切見せず、こちらを一度振り返ると先導するように歩き出す。
天王寺は特大のため息をついて、ましろを解放するとシロを追った。
離れてしまった温もりを少し寂しく思いながらましろもそれに続くと、シロは以前天王寺が餌を出していた棚の前に座り、じっと上の方を見上げている。
やはり、求めているのは食事のようだ。
「まったく……お前は、少しは空気を……まあ、お陰で玄関で襲い掛からずに済んだが……」
「(???)」
何を言っているのかはよくわからないが、フードを出してやりながら猫と真剣に対話している天王寺は何だか可愛くて、微笑ましく見守ってしまった。
「……ましろ、そういえば、あんなに車の中が暖かかったのに、まだ体が冷えたままだな。余力があれば、横になる前に風呂で温まったほうがいい」
「そう……ですね。お借りできたら、助かります」
言われた通り、空調のない場所に全裸でいたせいで体が冷えてしまっているし、何よりあの埃っぽい場所にいたので、このまま寛いだら部屋を汚してしまいそうで心配だ。
素直に頷くと、給湯器のスイッチに手を伸ばした天王寺が、何やらハッとして険しい顔でこちらを見る。
「お前、連れて行かれるときにまた殴られたりしてないだろうな」
「今度は薬のようなものだったので大丈夫です」
以前のように頭に打撲などを負っていたら、症状によっては入浴を控えた方がいい場合もあるだろうが、今日は打撲ではないので問題ない。
……と、思ったのだが、天王寺は薬と聞いてギョッとした。
「それは一つも大丈夫じゃないだろう。病院に行くか?今の時間だと救急になるが……」
大事になりそうな気配を感じ、慌てて詳しく説明する。
使われたのは恐らくインターネットなどで安易に手に入る程度の大麻のようなもので、今は特に症状もないので問題はないと思う。念のため病院は後日、いつも診てくれている医者のところへ行く予定だと話すと、天王寺は一応納得してくれたようだ。
「だが……、何かあると心配だから、一緒に入って見守る」
「えっ、でも、それは……恥ずかしいです……」
驚愕の申し出を遠慮しようとすると、天王寺はわかりやすくムッとした。
「あいつらには見せられて俺には見せられないのか」
「そ、そういうわけではなく、どう思われても構わない人には見られても何とも思いませんが、す、好きな人には……」
行為の最中ならばともかく、体を洗っているところは、人に見せるものではないだろう。
だから一人で……と重ねて主張したのだが。
「……そんなことを言われると……ますます一緒に入らなければという気になるな」
何故か、真逆の捉え方をされてしまったようだ。
「そ、そんな」
「今のはお前が悪い」
「ええ……」
どうしよう、と思っているそばから、風呂が沸いたことを知らせる音が鳴り、ましろは逃げ場を失った。
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