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「ちょっと透、ましろを独り占めしないでよ」
皿の上からサンドイッチがなくなった頃、月華がやって来て、当然のようにましろの隣に座った。
ダブルカフスのワイシャツにラバルドベスト、襟元にはアスコットタイという見慣れた姿で、日の差し込むサロンは暖かいけれど、この季節に上着を着込まないことを前提としたファッションなのは、いつものことではあるが、あまり体が強い方ではないのに風邪などひかないか心配だ。
とはいえ、月華はとても寒さに強いのか、真冬でも寒いという言葉を聞いたことはなく、ジャケットを羽織っているところはほとんど見たことがないのだが。
「………………………」
「……月華?」
何故か、至近で先程城咲にされたようにじっと見つめられて、天王寺とのことや、ましろが坂本の事務所に連れていかれたことについて聞かれたらどうしようと、にわかに緊張した時。
「ましろ……!」
唐突にぎゅっと抱き締められた。
「あ……あの……月華?」
「うーん、ましろは抱きつき心地がいい」
「月華は甘えん坊だなあ。ここにいる他の人たちよりは頻繁に会ってるんじゃないの?」
ぎゅうぎゅうと、生き別れの兄弟との再会のような熱い抱擁を見せつけられ、向かい側に座る速水の声が笑っている。
「『SHAKE THE FAKE』までは毎日は行かないからさ。会えたときにましろ成分を補充しとかないと」
「まあ、ましろんにアニマルセラピー的な効果があるのは認めるけど。絞め殺さないでよ?」
「失礼な。人を蛇かなんかみたいに……」
他愛もない応酬を聞きながらじゃれあっていると、まるで学生時代に戻ったようで楽しい。
痩せた背中をあやすように抱き締め返しながら、ましろはほっと口元を綻ばせた。
「……ましろは最近どう?」
ようやくましろを解放した月華は、いつの間にかテーブルに運ばれてきていた自分のカップを手に取り、口をつける。
どう、とはどの部分について聞かれているのか。
言えないことがあるせいで、つい考えすぎてしまう。
天王寺のことで悩むことは多いが、今は少しうまくいっているような気がしているので、『最近どうか』といえば『わりといい』ということになるだろう。
「かわりはありません。月華こそ、お疲れではありませんか?」
さりげなく聞き返した途端、すっと月華の瞳から輝きが失われた。
「ハハ……ほんっとろくでもない大人ばっかで毎日楽しいよ」
立場上、苦労が多いのだろう。
乾いた笑いには虚無感が漂っている。
「うん、でも、そうだね。ましろが元気そうでよかった」
「私は……月華達に守っていただいていますから、いつも元気でいられます」
月華は、初めて会った日に口にした言葉を、一度も違えたことはない。
羽柴の家を出てからは、毎日美味しいものを食べて、優しい仲間達と楽しい時間を過ごした。
心から感謝を伝えると、月華はとても綺麗に、にっこりと微笑んだ。
「僕も、みんながいるから、無能で醜い肉の塊相手に仕事頑張ろうって思えるよ」
「月華……」
結局、お開きになるまで天王寺とのことを聞かれることはなかった。
拍子抜けしたような、想像通りのような、心中は複雑だ。
月華が今回の一件について知らないはずはないので、出来れば介入されたくないという気持ちを汲んでもらえているのだろうか。
好きなようにやってみろというエールかもしれないとも思う。
ましろの思うようにやってみて、困ったときや辛いときはいつでも頼ってくれていいと、そんな風に言ってもらったような気がした。
帰り際、いつも月華がその時々に気に入っている菓子を土産として持たされるのだが、何故か今日は二箱もある。
『SHAKE THE FAKE』のスタッフに分けてもいいけれど、差し入れを会う口実にして天王寺に持っていくのはどうだろうか。
思いついたら実行に移してみたくなって、簡単な経緯と、食べきれないので土産にもらった菓子を一緒に食べないかと連絡をすると、すぐに『今日は会社にいて外出の予定はない』と返信が来た。
突然の連絡で気を遣わせてしまっていないか少し心配だが、忙しければ流石に断ってくれただろう。
ましろは竹芝の車に乗り込みながら、向かってほしい場所があると声を弾ませた。
皿の上からサンドイッチがなくなった頃、月華がやって来て、当然のようにましろの隣に座った。
ダブルカフスのワイシャツにラバルドベスト、襟元にはアスコットタイという見慣れた姿で、日の差し込むサロンは暖かいけれど、この季節に上着を着込まないことを前提としたファッションなのは、いつものことではあるが、あまり体が強い方ではないのに風邪などひかないか心配だ。
とはいえ、月華はとても寒さに強いのか、真冬でも寒いという言葉を聞いたことはなく、ジャケットを羽織っているところはほとんど見たことがないのだが。
「………………………」
「……月華?」
何故か、至近で先程城咲にされたようにじっと見つめられて、天王寺とのことや、ましろが坂本の事務所に連れていかれたことについて聞かれたらどうしようと、にわかに緊張した時。
「ましろ……!」
唐突にぎゅっと抱き締められた。
「あ……あの……月華?」
「うーん、ましろは抱きつき心地がいい」
「月華は甘えん坊だなあ。ここにいる他の人たちよりは頻繁に会ってるんじゃないの?」
ぎゅうぎゅうと、生き別れの兄弟との再会のような熱い抱擁を見せつけられ、向かい側に座る速水の声が笑っている。
「『SHAKE THE FAKE』までは毎日は行かないからさ。会えたときにましろ成分を補充しとかないと」
「まあ、ましろんにアニマルセラピー的な効果があるのは認めるけど。絞め殺さないでよ?」
「失礼な。人を蛇かなんかみたいに……」
他愛もない応酬を聞きながらじゃれあっていると、まるで学生時代に戻ったようで楽しい。
痩せた背中をあやすように抱き締め返しながら、ましろはほっと口元を綻ばせた。
「……ましろは最近どう?」
ようやくましろを解放した月華は、いつの間にかテーブルに運ばれてきていた自分のカップを手に取り、口をつける。
どう、とはどの部分について聞かれているのか。
言えないことがあるせいで、つい考えすぎてしまう。
天王寺のことで悩むことは多いが、今は少しうまくいっているような気がしているので、『最近どうか』といえば『わりといい』ということになるだろう。
「かわりはありません。月華こそ、お疲れではありませんか?」
さりげなく聞き返した途端、すっと月華の瞳から輝きが失われた。
「ハハ……ほんっとろくでもない大人ばっかで毎日楽しいよ」
立場上、苦労が多いのだろう。
乾いた笑いには虚無感が漂っている。
「うん、でも、そうだね。ましろが元気そうでよかった」
「私は……月華達に守っていただいていますから、いつも元気でいられます」
月華は、初めて会った日に口にした言葉を、一度も違えたことはない。
羽柴の家を出てからは、毎日美味しいものを食べて、優しい仲間達と楽しい時間を過ごした。
心から感謝を伝えると、月華はとても綺麗に、にっこりと微笑んだ。
「僕も、みんながいるから、無能で醜い肉の塊相手に仕事頑張ろうって思えるよ」
「月華……」
結局、お開きになるまで天王寺とのことを聞かれることはなかった。
拍子抜けしたような、想像通りのような、心中は複雑だ。
月華が今回の一件について知らないはずはないので、出来れば介入されたくないという気持ちを汲んでもらえているのだろうか。
好きなようにやってみろというエールかもしれないとも思う。
ましろの思うようにやってみて、困ったときや辛いときはいつでも頼ってくれていいと、そんな風に言ってもらったような気がした。
帰り際、いつも月華がその時々に気に入っている菓子を土産として持たされるのだが、何故か今日は二箱もある。
『SHAKE THE FAKE』のスタッフに分けてもいいけれど、差し入れを会う口実にして天王寺に持っていくのはどうだろうか。
思いついたら実行に移してみたくなって、簡単な経緯と、食べきれないので土産にもらった菓子を一緒に食べないかと連絡をすると、すぐに『今日は会社にいて外出の予定はない』と返信が来た。
突然の連絡で気を遣わせてしまっていないか少し心配だが、忙しければ流石に断ってくれただろう。
ましろは竹芝の車に乗り込みながら、向かってほしい場所があると声を弾ませた。
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