48 / 103
48
しおりを挟む「ん……ぅ……?」
胸に何か重しを乗せられているような息苦しさを感じて目を覚ました。
何だろう、とうっすらと目を開けると、視界には、何やら黒い毛むくじゃらの物体が。
「……、シロ……?」
天王寺との行為の後、どうやらましろは眠っていたようで、そこへシロが専用のクッション(?)を求めてやってきたようだ。
ましろを気に入ってくれているらしいことや、毛の感触や温もりを感じられることなどはとても嬉しいのだが、胸部を圧迫するような場所で寝られてしまうと、少々息苦しい。
少しずれてもらえないだろうかともぞもぞ身動きしても、丸くなって眠るシロは微動だにせず、梃子でも動かんという謎の強い意思を感じる。
「シロ……ええと……」
どうしたらいいのかと途方に暮れていると、物音と共に人が近付いてくる気配がしたので、ましろはそちらへと意識を向けた。
「ましろ?」
「ちー様」
「シロ、お前いつの間に……」
呆れたような声音でベッドサイドへ歩いてきた天王寺が、シロを抱き上げて床へと下ろしてくれる。
「あ……ありがとうございます」
「よほどお前の上は寝心地がいいらしい」
「光栄です」
苦笑しながら起き上がり、サイドテーブルに置いてあるデジタル時計で時間を確認した。
カーテンが引かれていて外の明るさはわかりにくいが、あれからそれほど時間は経っていないようだ。
ましろが寝てしまったので、天王寺はシャワーを浴びてきたのだろう。
惜しげもなくさらされている引き締まった上半身に今更ながらドキドキして、じっと見てしまっていたことに気付き慌てて目を逸らした。
「お前もシャワーを浴びるか?」
「は、はい。お借りできたら、ありがたいです」
視線の意味を、ましろも体を洗いたいと思っていると解釈してくれたようだ。
嘘をついたようで気まずくなって、焦ってベッドから降りようとすると、足に力が入らず、座り込みそうになるのを天王寺が抱き留めてくれた。
「も、申し訳ありません」
「いや、……」
「ちー様?……あっ」
そのまま一度ベッドに戻されて、シーツに包まれ抱き上げられる。
「あ、あの、自分で……」
「じっとしてろ」
浴室の前でましろを下ろした天王寺は、ましろが自立できていることを確認すると、タオルの場所と石鹸類は好きに使っていいということを伝えてさっと踵を返した。
そっけなさにまた迷惑をかけてしまったとしょんぼりしながら、とにかく早く済ませてしまおうと体を覆っていたシーツをたたみ、よたよたと浴室に入る。
天王寺は綺麗好きなようで、脱衣所も浴室も清潔だ。
初めて入る浴室を新鮮に思いながら、シャワーのハンドルを捻った。
水滴にうたれる自分の身体を見下ろすと、天王寺がつけたものと思われる朱いものがちらほらと目に入り、いつつけたのだろうと一人赤面する。
それがどういう感情かはわからないが、天王寺がましろの身体を望んでいることは間違いないと思う。
できればましろと同じ気持ちであったらと願うけれど、違ったとしても側にいたいと考えるようになっていた。
再会するまで、ましろはずっと天王寺に赦されたいと願ってきた。
そして、以前のように仲良くなれたらいいと。
謝罪とは、結局のところ自己満足だ。
赦すと言われれば謝った方は安心するだろうが、償うべき相手に譲らせているのだということを忘れてはいけない。
そもそも自分は、彼の置かれている状況を踏まえた上で天王寺の本当に望むことというのを、きちんと考えたことがあっただろうか?
ましろが自分のことばかり考えている間も、天王寺はずっと一人で戦っていたのに。
本当に天王寺のことを考えるならば、彼のために何ができるかを考えなくてはいけなかったのだ。
天王寺がましろの身体を望むなら……できることの少ない自分にも提供できるものがあり、それが自分にとっても嬉しいことならば、率先して応じていきたい。
もしかしたら……気持ちも後からついてくるかもしれないから。
天王寺のためにと言いながら打算の混じる自分の狡さがどうかと思うが、それでも、微かに期待するくらいは許されるだろう。
「……シロを見習わないと……」
あの『誰の指図も受けぬ』というような意志の強さには、憧れを感じる。
気ままに生きているようで、恐らく今天王寺のそばで一番の癒しを与えているであろうあの黒猫のようになりたいと、ましろは荒事など一度もしたことのない拳を固め、少々見当外れの決意をするのだった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる