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しおりを挟むロックを解除してみると、電源もそのままで問題なく使えそうだった。
耐久度、バッテリー共に一週間砂漠で遭難しても大丈夫という特別仕様なので、意図をもって破壊しようとしない限りはそうそう壊れたりしないものではあるが、内部のデータを使用者や管理者以外が無理矢理取り出したりしようとすると、強制的にシャットダウンするようになっているらしいので、ましろの手を離れている間、そういったことは行われなかったということだ。
大切に扱ってもらえていたことをありがたく思いながら、連絡先を交換していると、程なくしてオーダーしたロイヤルミルクティーが運ばれてくる。
深みがあり、けれどさっぱりとしたアッサムの茶葉で煮出したミルクティーは、ましろのお気に入りだ。
優しい色合いを見るだけでも幸せな気持ちになる。
李が口をつけたのをみて、ましろもありがたくいただくと、熱いものが内側から体を温めてくれて、ほっとした。
李にも気に入ってもらえただろうか。
ちら、と隣の様子を窺うと、彼の方ももましろを見ていて、思わず見つめあってしまう。
「李様……?」
「多少は、血色が戻ったようだな」
その言葉に、はっとした。
「もしかして……私のために頼んでくださったのですか……?」
飲み物のオーダーの時に『お前はどれが好きだ?』と訊ねてきたのは、どれがお勧めかということではなく、言葉通り、ましろの好きなものを聞いてくれたのか。
驚くましろに、李はふっと唇を綻ばせた。
「顔色が少し悪いように見えたからな。余計な世話出なかったのならいいが」
「あの……お恥ずかしいのですが、少し空腹でした……。お気遣いいただき、有難うございます」
恥ずかしさに頬を染めながらも、素直に打ち明けてお礼を言った。
客に気遣われてしまうなんて。
駄目なキャストだと思うけれど、李の優しさが嬉しかった。
もしかしたら最初に『食事を』と言ったのもましろのためだったのかもしれない。
自分はそんなにお腹を空かせた顔をしていたのだろうか?恥ずかしい。
「元気になったのなら、お前の話を聞かせてくれ。お前に興味がある」
「畏まりました。お楽しみいただけるかはわかりませんが……」
李は聞き上手で、話は弾み、ましろは楽しいひと時を過ごした。
勤務時間中ほぼ途切れることなく指名が入り、ようやく碧井と話すことができたのは閉店後。
それも食事を食べ忘れたことをうっかり話すと、とても怒られてしまった。
とりあえず話は後日にして、食べて休息を取るようにと、店を追い出されるようにして退勤する。
部屋に戻ると、食事を作る前にまずメッセージアプリを立ち上げた。
天王寺からのメッセージが入っていたのを、李と連絡先を交換したときに確認して、ずっと気になっていたのだ。
『昨晩は迷惑をかけた。その後、吐き気や眩暈などの症状は現れていないか?』
簡潔だが、ましろのことを気にかけてくれている内容で、心配をかけていることは心苦しいものの、嬉しくなった。
問題ないと返し、そのすぐ下に『会いたいです』と……、
続けたい気持ちを、直球過ぎる気がしてぐっと堪え、『またシロに会いたいです』に直した。
シロはかわいいので、また会いたい気持ちに嘘はない。
遅い時間の返信になってしまったのに、天王寺からはすぐに『いつでも来てくれて構わない』と返事が来た。
「(いつでも……)」
そんなことを言ってしまって、ましろが毎日押し掛けたりしたらどうするのだろうか。
子供の頃は、もっと一緒にいたいとくっついて回っていた。
今も、本当にそれを望んでいいのか。
計りかねて、喜んでいる絵柄のスタンプを送信するにとどめる。
すると、行動を読んでいたかのような碧井から『ちゃんとご飯食べた?』とメッセージが入り、一つ微笑んだましろは、今度は優しい友人に『今から食べます』と返信をした。
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