不器用な初恋を純白に捧ぐ

イワキヒロチカ

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「二人が幼馴染だと聞いて……ピンときた……忘れることのできない初恋の人……。忘れられなさ過ぎて社名をうっかり因んだ……猫にも名付けた……これで毎日名前を呼べる……」
 八重崎は『白=ましろ』だと妙な確信をもっているようだが、その言葉を間に受けていいものかわからず、ましろは首を捻った。
 隣で碧井が大きなため息をつく。
「はあ……これもうゴールイン秒読みじゃない?いいなあハク。ねえこなぎん、一つその情報網で、俺好みの昼は鬼軍曹で夜はかわいく乱れるゴリラ系のイケメン探してよ」
「その好みの限定的すぎる婚活からは……ドラマが生まれる予感がしないから……情報量は正規の料金をいただくことになる……」
「ドラマが生まれないってことはないでしょ!?デスティニーが導くトゥルーラブが!」
「……恐らく……碧井アキラの理想を演じることに疲れた鬼ゴリラが……別れを切り出して……終わり……。悲恋は需要が限られるし……注意書きが必要……」
「行き着く先はハッピーエンドだから!ていうかいつの間に俺振られキャラ的なポジションになってるの!?」
 碧井は本当に友達想いの素敵な人なのだが、確かに身内からはそういうポジションで弄られることが多い。
 一刻も早く彼とずっと一緒にいてくれる人が見つかるといいと思う。


 やがて開店の時間になり、八重崎は帰っていった。
 色々考えてしまいながらやっとのことでその日の仕事を終えて部屋に戻ると、ましろは真っ直ぐに窓際にある観葉植物の棚の前へと移動した。
 そこにはましろの育てている鉢に混じって、天王寺から預かったテーブルヤシが並んでいる。
 猫に噛まれて傷んだ部分はかなり切ってしまったので見た目は寒々しいが、小さいながらも根本に尖った新葉が見えてきており、これが無事に成長すれば自然とその次も出てくるのではないかと推測していた。

 こうしてテーブルヤシを託してくれたことでも、天王寺は今はましろを以前のように嫌ってはいないのだろうと思える。
 だが、やはり社名やシロの名前の由来については強引な気がした。
 母親がどんな気持ちでこの名前を付けたのか、聞いたことはないけれど、ましろ自身はあまり色の白と結びつけて考えたことはない。
 しかし、月華がつけた源氏名も『ハク』つまり『白』だ。
 そう考えると、『ましろ』から白を連想する人は多いのだろうか。
 けれど、ずっと好きだったのだとしたら、子供の頃天王寺が怒った理由は何なのか?
 再会したとき、あんなに怒っていた理由もわからない。
「(結局何も聞けていない……)」
 今日も話したくないと追い返されたばかりだ。
 しつこく職場まで訪ねて、必要だと思ってしたことではあるものの、これでは本当に嫌われてしまいそうで怖い。
 そろそろ諦めるべきなのではないかと思うけれど、再会し、共に時間を過ごしたことで、ますます彼を慕わしく思うようになってしまっていた。
 やはり、八重崎にもっと詳細な情報を聞くべきだっただろうかなんて弱気が頭を擡げてしまう。

「(どうしたら……)」

 ぼんやりと、消えつつある街の明かりを見下ろした。
 時間は遅いが、近辺に遅くまでやっているバーがあるので、人通りは皆無ではない。
 そういえば以前、城咲を見送ろうとして天王寺を見つけたことを思いだす。
 天王寺がいると思うわけではないが、なんとなく行き交う人を眺めていると、不意にバーから出てきた人物に見覚えがあって、目を凝らした。
「(えっ…………?)」
 それは、今日も天王寺の会社で見た、天王寺の母親だった。
 暗いので顔がはっきり見えるわけではないが、昼間と同じ服なので恐らく見間違いではないだろう。
 確信を深めているうちに、彼女は黒いスーツのいかにもな男に話しかけられ、腕を取られると建物と建物の間に引っ張り込まれてしまった。
 ましろは慌てて立ち上がる。
 この辺りは有名な観光地ではあるものの、港が近く、中華街もあるという土地柄、水面下ではマフィアにまつわる物騒な話も多い。
 実際、先日店を襲撃されたりもしている。

 店の近くで彼女を見るのは三度目、ということは、このところ何度もこの辺りに足を運んでいたのかもしれず、それを何を探っているのかと見咎められた可能性は高い。
 ただ話を聞かれるくらいで終わればいいが、危険な目に遭ったりしては大変だ。
 彼女が天王寺を困らせていたとしても、酷い目に遭ってもいいなんてとても思えない。
 天王寺を生んで育ててくれた人だとしたら、猶更。
 ましろは場合によっては通報しなくてはと、スマートフォンを掴んで部屋を出た。
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