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しおりを挟むコーヒーの入ったマグカップをましろに渡すと、キッチンへと取って返し鍋を出し始める天王寺にはっとして、腰を浮かせた。
「あの……っ、手伝います!」
「いい、座っていろ」
すげなく断られて、しゅんとなる。
ましろには料理などできないと思われているのだろうか?
せめて片付けはさせてもらおうと決意しつつ、大人しく言われたことをしていようとシロの姿を探した。
シロは、ましろとは微妙な距離を保ったまま、体を舐めている。
突然の来訪者に警戒したり、怯えたりしている様子は見えない。
あまり動物と触れ合ったことがないので、意識せず嫌がることや怒らせることをしてしまったらと思うと不安だが、飼い主がそばにいれば多少のフォローは期待できるだろう。
マグカップをテーブルに置くと、エノコロ草……つまりネコジャラシを模して作ったおもちゃが床に転がっているので、それを手に取り、フローリングの上でふりふりと振ってみた。
シロは興味がなさそうに、あくびをしている。
もう一度、今度は少し早めに振ってみる。
すると、それを目で追い始めたので、ましろは一生懸命おもちゃを振った。
バシッ。
「あっ……」
シロが素早く跳びかかり、左フックで猫じゃらしを攻撃すると、持ち方が甘かったせいか、飛んでいってしまった。
シロはそれを追いかけたが、動かなくなったとみると、興味を無くしたかのようにまたその場で体を舐め始める。
ましろはそうっと近づき、もう一度猫じゃらしを手に取って、
パシッ。
「えっ……」
強い力で、猫じゃらしの先端を押さえつけられてしまった。
引こうとしても、動かない。
「あの、シロ……離してください」
眉を下げて頼んでみたが、きいてもらえるわけもなかった。
きくどころか、パクリとおもちゃをくわえるとましろの手から奪い取り、前足でサッカーするように遊び始める。
もうましろには、激し過ぎてついていけない。
「シロ……もう少し手加減をお願いしたいのですが……」
重ねてお願いをしていると、キッチンの方から吹き出す音が聞こえて、ぱっとそちらを見る。
カウンターの向こうでは、口元を押さえた天王寺が、笑いを堪えるように体を揺らしていた。
「遊ばれてるな」
「シロは厳しいです……」
肩を落とすましろを見て、天王寺は楽しそうに笑っている。
再会してからこんなに笑っているのを見るのは初めてで、内心ドキドキしてしまう。
自分の部屋だからだろうか?それともシロがいるから?
天王寺はいつになくリラックスした様子だ。
奪っておきながら早くもおもちゃには興味をなくしたらしいシロは、すっくと立ち上がると真っ直ぐましろの方へ歩いてくる。
「シロ……?」
フローリングの上に座り込んだましろの膝に乗ると、ぐるりと円を描くようにして丸くなって寝てしまった。
有無を言わさぬ強引さにどう対処していいか分からず、おっかなびっくり頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「シロ……やわらかいです。それに、あたたかい……」
動物と暮らしたいと思う人が多いのも頷ける。
……ましろには、少し難易度が高いようだが。
「できたぞ」
ましろがシロに遊んでもらっている間に、天王寺はさっさと夕食を完成させてしまったようだ。
「あ……、ありがとうございます。あの、でも、シロが……」
膝の上では、シロがすっかり寛いでいる。
これでは立ち上がれそうもない。
「お前のことが気に入ったみたいだな。起こしたらかわいそうなような気になるかもしれないが、こいつは特に気にしないから、冷めないうちに食え」
言いながら、天王寺がシロを下ろしてくれる。
その言葉通り、シロは怒ったりせずにスタスタと隣室へ消えていった。
猫とは本当に不思議な生き物だ。
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