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さらにその後のいじわる社長と愛されバンビ
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しおりを挟む複合的な驚愕で動けずにいると、左右の柱の陰からも同じような格好の男が出てきて、不審者に囲まれてしまった。
こんな状況でも冷静な久世が、さりげなく万里を庇うように前に出る。
「…俺に何か用か?」
「お前に用はない」
三角目出し帽男のあまりにもあっさりとした否定。
え?じゃあなんでこんなことを…?と他人事のように首を傾げると、この場の全視線が己に集中しているのに気付いた。
………………………。
「……俺!?」
人違いじゃないかと思う。
バイト先のオーナーが本職の方なので勤め先は必然的に黒だし、恋人もそのオーナーの身内で、本人は自分の仕事をグレーだというが、本職の方に金が流れているのだから必然的に黒だ。
黒い勤め先からお給料をもらい、久世からも色々と恩恵を受けているのだから、自分一人潔白だと言い張るつもりはないが、万里自身は、本当にただのその他大勢の一般人である。
直近で何か、物騒なものを向けられるようなことをしでかした覚えはない。
せいぜい、先程秘密結社に不法侵入してしまったくらいで……。
………………………。
って、もしかして、それ!?
「一緒に来てもらう。抵抗しなければ危害は加えない」
違います。悪いのは全部父です、と喚きたい。
だが、相手に交渉の余地があるようには見えなかった。
隣の久世が素直に「わかった」と頷いて両手をあげたので、ひとまず万里もそれにならう。
銃を突きつけられたまま、男たちの車に乗せられ、目隠しをされる。
危害を加えない、なんて言葉を鵜呑みにはできず、一体どんな場所に連れていかれるのかと怖かったが、久世も一緒に乗せられたことがわかっていたので心強かったし、みっともないところを見せたくないという意地で、なんとか取り乱さずにいられた。
車でどれほど運ばれたのか。
やけに道の悪いところを走っていたと思えば、降りるように促された。
椅子のようなものに乱暴に座らされ、括りつけられると目隠しを外される。
ぼやけた視界がクリアになってくると、そこが今は使われていない工場のような場所だということがわかった。
埃っぽい空気の中、錆びついた、見たことのない機械が並んでいる。
遠い窓から見える外は真っ暗で、夜なのに明るいのは電気が付いているからだ。
廃工場のように見えるのに、電気はまだ通っているのか。それとも、この男達が根城にするためにわざわざひいたのか。
周囲は静かで、大声を出しても無駄なことだけはわかった。
隣では久世が、万里と同じように椅子に拘束されている。
困惑する万里と久世の前に並んだ男達が名乗った。
「「「「我々は、『暗黒の夜明けを見守る会』」」」」
「見守る……?」
それは、暗黒の夜明け団の団員だか会員だか社員だかとは違うのだろうか。
不思議に思っていると、リーダー格なのか、先程万里に銃を向けていた男が一歩前へ出た。
「貴様は、一体どうやって神子様に取り入った」
「……………………は?」
「どうやって同志のバッジを手に入れたのだと聞いている」
一瞬ピンと来なかったが、バッジの一言でようやくわかった。
先程九鬼から押し付けられた、アレのことだ。
何故この男達が、万里が持っていることを知っているのか不明だが、どうやってと言われても、欲しくもないのに押しつけられたのである。
「ふ、普通にもらえましたよ?」
「嘘をつくな!見たところ、貴様は平々凡々を絵に描いたような凡庸な人間だ。組織に何一つ利益をもたらさない者を、黄泉の神がお望みになるはずはない!」
なんて失礼な奴等だ。と、万里は内心憤った。
平凡で凡庸な自覚は大いにあるが、他人からわざわざ言われると腹が立つ。
そして隣の久世の肩が震えている気がして、笑いたかったら笑えばとキレたい。
謎の男達が怖いので、とりあえずは大人しくしておくけれど。
「そんなこと言われても…。俺だからとかじゃなくて、頼めば誰でも貰えそうな雰囲気でしたけど…」
「黙れ!」
何故かものすごい剣幕で怒鳴られて、首をすくめた。
「そんなはずはない!あれは選ばれし者以外が手にしていいものではないのだ!」
何度否定されても、貰ってしまったのだから仕方がない。
捨てたいと思っていたくらいなので、熨斗をつけてあげてしまいたいが、譲渡していいものなのかどうか、しかもこんな怪しげな連中に渡してもいいものなのかどうかわからなかった。
九鬼は確か『我が『暗黒の夜明け団』は、主の許可した入団希望者を拒むことはしない』というようなことを言っていたような気がする。
『主』が何なのなのかは謎だが、九鬼の許可はいるのだろう。
万里が困り果てた、その時。
「……お前達は、まだ気付かないのか?」
隣でずっと黙っていた久世が口を開いた。
ハッとして頭を巡らせると、その横顔は怖いくらいに真剣な表情で。
「何だと……?」
男達も、迫力に吞まれたように久世を注視する。
久世は一体、何を言おうとしているのか。
この事態を打開する策を思いついたのだろうか。
固唾を飲んで次の言葉を待っていると、カッ……と稲妻でも飛びそうな鋭い視線が、万里の方へと向いた。
「この方こそ、導師様より授けられた奥義を極めし達人(アデプト)だということを!」
・・・・・・・・。
はあ!?!?!?!?!?
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