TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

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 あの頃の辛さが既に過去のものになっていることを改めて自覚して一人頷いていると、唐突に御薙がデスクから立ち上がり、冬耶の隣に座った。
「や、大和さん?」
 突然どうしたのだろう。困惑しながら様子を窺うと、なんだか表情が暗い。
 あまり楽しくない話をしてしまったので、嫌な気持ちにさせてしまっただろうか。
「……こんなこと言っても、どうしようもないのはわかってるんだけどよ」
「??はい」
「今まで、どこかでお前が元気にやっててくれりゃいいなんて呑気に考えてた自分が許せなくなったっつーか…」
「そ、それは本当にどうしようもなかったと思うので、許してあげてください。俺だって、大和さんが大変なときになにもできなかったという点では、同じだし…」
「いや、まあ、言ったところで過去が変わるわけでもないし、俺もわかってるんだけどよ…なんかこう、釈然としないというか…」
 相変わらず、御薙は優しすぎる。
 冬耶は刹那の逡巡の後、逞しい腕にそっと手を添えた。
「あの時は辛かったですけど、色々あってマスターに出会えて、そのお陰で大和さんにも再会できたので、トータルではよかったことの方が多いと思ってます」

 そもそも、幼い頃御薙と出会えたことが、冬耶にとって最大の僥倖だった。
 最終的に関係が上手く行ったから言えることかもしれないけれど、今は心からそう思える。

「お前は無欲だよなぁ」
 なんだか呆れたような声に、そうでもないですよ、と苦笑する。
 少なくとも御薙に対しては貪欲だ。
「ちゃんと責任を取ってもらうつもりなので、無欲ではないと思います」
 彼がこれ以上罪悪感を感じないよう押しつけがましく言おうとして、やはり照れて小声になってしまった。
 御薙は一瞬虚を突かれたように固まり、すぐに目を細める。
「それは…もっと貪欲になってもらわないとな」

 腕を引かれ、抱き締められた。
 スーツが皺になってしまわないかと少し気にしながら、冬耶も広い背中に手を回す。
 触れあう身体から、御薙のあたたかさが流れ込んでくるようだ。
 優しい抱擁の後、至近で見つめる瞳が更に近づいてきて、冬耶は目を閉じた。
「ん…、」
 唇が重なる。
 啄んで離れて、今度は少しだけ深く。

 抱擁の続きのような甘い口付けにうっとりしていると、腰に回された手が妖しげに動きだして、冬耶は焦った。
「ん、っ…、ゃ、大和さ…、それは、ちょっと…」
 そんな風に触れられては、色々とまずいことになってしまう。
 弱々しく押し戻すも、御薙は澄ました顔をして、手を止める気はなさそうだ。
「兄貴分が事務所に女連れ込んでるなんて、よくある話だから大丈夫だろ」
「や、大和さんも?」
 思わず聞いてしまうと、笑われた。
「ああ、今まさに連れ込んでる」
「俺は便宜上は舎弟なんですけど…」

 ジタバタしていると、御薙はぴたりと手を止めて立ち上がる。
 諦めたのだろうか。ほっとしたような、残念なような。
 いやいや、何を考えているんだ自分は。
 たとえ極道でも、公私のけじめは大切だ。…な、はずだ。

 しっかりしろと自分に言い聞かせていると、かちりと鍵をかける音がして、御薙はすぐに隣に戻ってきた。
 そして、何故か再び冬耶の腰を引き寄せる。
「…あの?」
「これで大丈夫だろ」
「や、入ってこられなくても、声は外に聞こえちゃいますから…っ」
 室内の声が、吹き抜けの階段に筒抜けの上とても響くのは確認済みだ。
 そんなことはよくわかっているだろうに、御薙はやめる気はさらさらないらしい。
「まあ、ばれたらばれたで、いいんじゃねえか」
「よ、よくはないですよ…」

 一応抵抗して見せているが、だんだんもういいのではという気になってきてしまう。
 御薙にとって冬耶が特別な存在だということはなんとなく他の組員にも伝わっていて、生温かく見守られていると思うこともある。
 公私のけじめも大切だが、大切な人の願いを叶えることも大切なのでは?
「じゃあ、…ちょ、……ちょっとだけなら」
 ちょっとだけとはなんなのだろう。
 言った自分でもわからなかったのに、御薙にはわかったらしい。

「わかった、ちょっとだけな」

 微笑みに、不穏なものを感じるのは気のせいだろうか。
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