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しおりを挟む…という夢を見た。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「(……駄目か……)」
冬耶は、少し見慣れてきた御薙の寝室の天井を見上げながら、特大のため息を吐き出した。
目覚めてから何度も脳内でイメージしているというのに、一向にこの現実が夢になってくれない。
昨晩は途中で何が何やらわからなくなって、無意識のうちに恥ずかしいことを沢山言ったりやったりしてしまったような気がする。
気がする、というのは覚えていないのではなく、恥ずかしすぎて自主規制が入って回想できないためだ。
もしかして、初めての日もあんな風だったのだろうか?
しかし今回は酒のせいにすらできない。
目覚めた時、御薙はベッドにいなかったが、物音が聞こえてくるので恐らくリビングの方にはいるだろう。
この後、一体どんな顔で挨拶をすればいいのか。
むしろ御薙が昨晩の記憶を失っていてくれたらいいのに。
ベッドの中で往生際悪く現実逃避をしていると、足音が聞こえてきてハッとした。
ドアが開き、逃げる場所もなく上掛けを頭まで引き上げたが、時既に遅し。
気配が近付いていてきて、ベッドがぎしりと音を立てる。
「起きてたか」
「お、起きてません」
「……………………」
「……………………」
またやってしまった。
寝ている人間は返事などしない。
ゴホン、と御薙がわざとらしい咳払いをする。
「あー、まあ、そうだな。無理させたせいで疲れてまだ寝てるかもしれないが、一応朝飯作ったから声だけかけにきたぞ」
「…朝ごはん…?」
冬耶はそろそろと顔を出した。
ベッドサイドに腰掛けた御薙が、出て来たなと苦笑する。
恥ずかしかったが、作ってくれたというのを無視するわけにもいかない。
「お…、おはようございます…」
「おはよう。身体は平気か?」
「な、何のことを仰っているのかわかりかねます」
「昨夜は飲んでなかった気がするが…」
「こここ、この話はやめましょう。お腹が空いているような気がするので、起きて朝食をいただきます」
さっとベッドから出ようとすると、失念していたが全裸だったので、再びさっと元の状態に戻る。
御薙は声を上げて笑ってから「ゆっくり支度してこい」と上掛け越しに頭を撫でて、部屋を出て行った。
身支度を整えてリビングの方へ向かうと、いい匂いがしていて食欲をそそられる。
ダイニングテーブルには、白米に味噌汁、焼鮭に玉子焼等々…、絵に描いたような和の朝食が並んでいて驚いた。
「え…、これ全部、起きてから作ったんですか?」
「作るっつっても、簡単なもんばっかだけどな」
そうは言っても、パンをトースターに放り込むだけの朝食よりはずっと手間暇のかかるものだ。
美味しそうだし有難いが、気を遣わせてしまったのではないか。
手伝えずに申し訳なかったと謝ると、御薙は少し気まずそうに頭を掻いた。
「いや、昨日はただでさえ疲れてるところ無理をさせちまったから、少しでも機嫌をとろうと思って」
「そ、……べ、別に怒ってないですから」
藪蛇になったところで、料理が冷めないうちにいただくことにする。
箸をつけていくと、どれもこれも見た目を裏切らない味だった。
「美味しいです。ハルさんも言ってたけど、本当に料理が上手なんですね」
「今はもういないが、俺が組に入ったばかりの頃、元板前の兄貴分がいてな。基礎みたいなもんを教えてもらった」
「じゃあ、プロ直伝…」
すごい、と驚くと、御薙は全然駄目だと苦笑しながら首を振った。
「『お前には食事を見た目でも楽しませるという気持ちが足りねえ。単車いじるのとは違うんだぞ』って何度も怒られて、自覚もあったから、結局品数揃えて格好つける技だけ学んだな」
「俺にはこれも十分美味しそうに見えますけど…、やっぱり元板前さんともなると厳しいんですね」
「今日のは、お前に出すからちょっと気を遣った」
「そ、……ど、どうもありがとうございます…」
大山さん(恐らくその元板前)の言ってたことがようやくわかった気がする、などとしみじみ言われても、反応に困る。
冬耶はもそもそ礼を言うと、もう藪はつつくまいと食事に没頭することにした。
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