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しおりを挟む「っは……、大丈夫か?」
はりついた前髪をそっとどけられて、冬耶は息を乱したまま、呆然と頷く。
「っ…、ん、はい……、」
あまり大丈夫ではないが、今はそれを訴えることすら億劫だ。
一度果てた御薙はまだ冬耶の中にいて、それが何だかほっとするような、恥ずかしいような。
受け入れた場所から温かさが広がっていく感覚がある。
ふわふわする頭で、これが『陽気』なのかな?と考えていると、頭上の御薙に「なあ」と呼びかけられて視線を上げた。
「なん、ですか…?」
「ちょっと思ったんだけどよ、この状態でお前が男になったらどうなるんだろうな?」
「それは……、」
現在御薙と繋がっている場所は、体が男の時には存在しない器官だ。
このまま身体が男になったら…?
「「………………………」」
自分でも変態の途中経過を見たことがないので確証はないが、外科手術のような表面的な変化が起こっているわけではなさそうなので、結合してしまう、ということはないのではないか。
しかし、絶対にそうと断言はできない。
「とりあえず……抜いとくな?」
「その方が、よさそうですね……」
御薙も冬耶と同じく怖い想像になってしまったようだ。
抜け出ていく御薙に少しの切なさを感じたのも束の間、突然鼓動が不自然に跳ねて息を呑んだ。
「んッ……、」
「冬耶」
冬耶の異変に気付いて血相を変える御薙の姿が滲む。
「……は……っ」
身体が熱くなり、浅い呼吸を繰り返した。
照明の明るさが変わったわけでもないのに眩しさを感じてぎゅっと目を瞑ると、自らを抱くようにして身体を丸める。
男に戻るのだとわかり、いつもの苦痛を覚悟したが、熱さが痛みに変わる前に、強い痛み止めを飲んだ時のように異変はすっと引いていった。
「……ぅ……」
「冬耶、大丈夫か?」
「は、い……、」
心配する声に閉じていた目を開けると、変態は完了している。
見ることはできなかったが、初めて変化の過程を体感した。
体を起こそうとすると、御薙にやんわり止められる。
「体変わると具合悪くなるんだろ、寝とけ」
「でも、怠い、くらいで…いつもほどは」
御薙に気を遣わせないようにそう言ったのではなく、実際いつもよりも楽だった。
しかし、どうしてだろう?
以前と違うことといえば、冬耶の気持ちくらいだ。
御薙がどちらの冬耶も受け入れてくれたから、行為の後に性別が変化するということを、意識せずにいた。
そんな、気の持ちよう、みたいなことで変わるとも思えないのだが、冬耶にはそもそも陰気だの陽気だのに関しても理解しているとは言い難い。
状況を説明するのに躊躇う部分はあるが、今度五十鈴にでも聞いてみよう。
「体が変わるところを見たのは二度目だが、やっぱり不思議だな。肉体が変化してるっていうよりかは、存在ごと取り替えてるみたいな……、あっ、もちろん、別人みたいに感じるってのとは違うぞ」
冬耶も自分で体験してみて同じようなことを感じたため、御薙の感想に頷き返す。
自分の体に起こる変化は、変態というよりも変異という方が近いのかもしれない。
「ちょっといいか?」
「え?えっ?」
考え込んでいたところ、突然足首を掴んで持ち上げられ、視界が約九十度ほど変わった冬耶は狼狽えた。
「ちょ、み、御薙さ、どこ見て……っ」
挙句あらぬ場所を覗き込まれて、冬耶は羞恥に足をばたつかせる。
「いや、汚れてたはずだが、綺麗になってるな、と。…って、名前。戻ってるぞ」
肉体ではなく存在の変化ということで、男になった今は存在しない器官で行ったことはなかったことになっているのかもしれない。
興味深いところではあるが、唐突にこんな確かめ方をされるのは驚いてしまうし、恥ずかしい。
「み、御薙さんが変なことするから、好感度が下がって呼び方が戻ったんです」
「えっ、まじか」
抗議に衝撃を受けたらしい、力の抜けた御薙の手から自由を取り戻し、冬耶はさっと上掛けの中に逃げ込んだ。
「待て、その下がった好感度はどうすれば上がるんだ?」
冬耶が本気で怒ったと思ったのか、御薙は随分と焦っているようだ。
「えっと、冗談ですよ……?」
そっと顔を出して、恥ずかしかっただけで怒っていないことを示したが、御薙は首を横に振った。
「いや、ちょっと不躾だったよな。今度からちゃんと許可を取るから許してくれ」
こんなことの許可を請われる方が逆に困りそうなのだが。
それでも御薙が焦ってる様子を少し可愛いと思ってしまった自分に、重症だなと苦笑した。
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