67 / 85
67
しおりを挟む今更こんなことを告白したところで、心を繋ぎとめるどころか困らせるだけだ。
けれど、もしも終わってしまうのだとしたら、有耶無耶にするのではなく本当のことを知らせた上で拒絶された方が、冬耶も諦めがつく。
自己満足かもしれなくても、至らない自分にずっと優しくしてくれた人への冬耶なりの誠意でもあった。
すぐには御薙からの言葉はなく、彼が何を考えているのか不安になってくる。
だが、音にしてしまった言葉はもう元に戻らないのだ。
冬耶は覚悟を決めて視線を上げた。
「……………………」
御薙は何故か、刮目したまま固まっている。
「み…なぎさん…?」
声をかけても無反応だ。
どうしよう。硬直するほど衝撃的な話だったのだろうか。
おろおろしていると、御薙はぎぎぎと作動音でもしそうなカクカクした動きで口を開いた。
「好きだったって…、本当か?」
「は、…はい」
改めて確認されて申し訳なさに俯いたが、がっと強く肩を掴まれて驚いてまた顔を上げる。
「お前、あの夜のこと…、俺がお前を初めて抱いたときのことは覚えてねえんだよな?」
「す、すみませ」
「あの夜、先に好きだって言ってきたのはお前だった」
「え……、」
「けど、次の日店に行けばやたらよそよそしいし、そもそも覚えてないっつーから、俺も最中の言葉を真に受けて先走って迷惑かけたなって思ってたけどよ」
自分が、そんなことを?
聞いても信じられないが、確かに抱き合う相手に感じた愛しさの残滓は記憶にある。
「あれはつまり、酔って本音が漏れてただけだっつーことだな?」
ぐっと迫られて、己の失態に冬耶は小さくなった。
「…ゃ、あの…、それは…、す、すみません…」
隠していたつもりだったのに、のっけから本当の気持ちを伝えてしまっていたなんて。
お酒の飲み過ぎダメ、ゼッタイ。
過去の自分を呪い倒していると、御薙は「何で謝るんだよ」と笑い、肩から手を離した。
そしてわざとらしく咳払いをする。
「ゴホン。ただまあ、お前が本当の気持ちを話してくれたのは嬉しいが、今そんな告白をされると、俺もちょっと理性を保てる自信がだな」
「こ、告白?」
謝罪をしたつもりだったのだが、どうして理性を失うような話になるのだろう。
怒りで…ということでもなさそうで、なんだか、先ほどから会話が噛み合っていない気がする。
「俺のこと、受け入れられないとかそういう話じゃ……?」
「???何でそんな話になった?」
「さっき…、急に出て行くから、俺といるのが気まずいのかと思って…」
「気まずいっつーか、うるうる見つめられたらうっかり邪念が湧いてきたから、お前の身の安全を考えて席をはずそうとしたんだよ」
「う、うるうる?身の安全って…」
「お前が疲れてるみたいだから事務所じゃなくてこっちに戻ったってのに、より一層負担をかけるようなことをしたら本末転倒だろ」
「そ……、」
そんな理由とは、微塵も思わなかった。
そういえば埠頭での別れ際、ハルにじっと見られたのを不思議に思った気がする。
あれは冬耶の体調を確認してくれていたのか。
……………………。
じわじわと御薙の言葉を理解していくにつれ、冬耶は真っ赤になった。
勝手に勘違いして、半べそで御薙に縋りついてしまった…。
思い詰めて性別まで変わってしまったなんて、恥ずかし過ぎる。
言い訳をするなら、今日は色々と恐い目にも遭っているし、そのせいで陰気が高まっていた可能性が…それで情緒も不安定に……………、ええまあ、言い訳なんですけど。
「…よくわかんねえが、問題は解決したか?」
「いっ…、一応…?」
解決したというか最初からなかったことがわかったというか。
「じゃあ、俺も相談させてもらっていいか」
「相談?も、もちろんです」
何だろう。
自分が役に立てることならいいのだが。
「責任を取るためにこのままお前を寝室に連れ込むべきか、体調を慮って耐えるべきか、お前はどっちがいいと思う?」
「……………………はい?」
11
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜
長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。
しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。
中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。
※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。
※小説家になろうにて重複投稿しています。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる