TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
66 / 85

66

しおりを挟む

 真実を受け入れてもらえるか不安に思いながらも、御薙ならば気にしないのではないかとどこか楽観していたことを唐突に自覚して、冬耶は慄然とする。
 自分が御薙の立場だったらどうだろうか。
 『本当は男だった真冬』と『本当は旧知の人物だった真冬』、全く同じ感情を向けられるのか?
 …わからない。普通は、そんな立場に置かれることはない。
 自分でも判断がつかないことを、御薙ならば気にしないと、何故思えたのだろう。

 吞み込んだ言葉は一体どういうものだったのか。
 真意を探るように恐々見つめ返すと、御薙はすいと視線を外した。
 更に、ソファから立ちあがってしまう。
「とりあえず、今日のところは疲れてるだろうから、ゆっくりするといいんじゃないか」
「え……」
「夕食は、なんか弁当でも届けさせる」
「み、御薙さんは?」
「俺はちょっと、事務所の方の様子を見に行くから」
 あんなことがあった後だ。組のことが気になるのは当たり前だとは思う。
 平素であれば冬耶もそう冷静に考えられたかもしれない。
 けれど今は、目を合わせない御薙の様子が自分を避けているように感じられてしまって、激しい焦燥を覚えた。

 御薙とは、このまま終わってしまうのでは?
 昔の知り合いだと思ったら恋愛対象として見られなくなった…、そう言われてしまったら?

 血の気の下がるような感覚を覚えて、冬耶は反射的に御薙のスーツの裾を握っていた。
 既に背中を向けていた御薙は、驚いた表情で振り返る。
「どうした?」

 引き留めたところで、言えることは何もない。
 これまで幾度も嘘を重ねた自分を、責めずにいてくれるだけでもありがたいと、そう思わなければいけないのに。

「……って……、」
「なに?」

「責任、取るって言った…」

 絞り出したのは、縋るような、情けなく弱々しい声音だった。
 これは、『冬耶』ではなく『真冬』にされた約束だ。
 しかも責任を取られては困ると、自分からあやふやにした。
 それなのに都合がよすぎるとは思うけれど、今の冬耶には感情を抑えることが出来ない。
 滲む視界で御薙を見上げ、みっともなく縋った。
「行…かない、で…」
 何故か頭がガンガンと痛む。
「冬耶?あっ…、おい!」
 覚えのある感覚にしまったとは思ったが、すぐに視界が暗転して、冬耶は意識をなくした。




 熱っぽく『真冬』と呼ぶ声。
 それは、記憶にないあの夜のこと。
 自分がどんな気持ちだったか、相手がどんな表情をしていたか、確かなことは何一つ思い出せない。
 けれど、その熱と想いだけは身体が覚えていた。
 愛しさが溢れて、何度も抱き締め返したような気がする。
 本当にそんなことがあったのかどうか、今もう確かめる術はないけれど。
 もしも、このまま御薙との関係が終わってしまうならば、せめてあの夜のことを思い出せたらいいのに。
 そうしたら、今度はその記憶を支えにして生きていくから。
 …子供の頃にもそうしたように。




 チカリと視界の端が光った。
「…ぅ…」
 眩しくて身じろぐと、全身の関節が痛んで思わず呻く。
 目を開けると、冬耶はソファに寝かされていて、傍らには御薙がいるのがわかった。
「気が付いたのか。…大丈夫か?ベッドに行くか」
 御薙は身体の変化が落ち着くまで様子を見ていてくれたようだ。
 具合はあまりよくないが、これはいつものことなので冬耶は大丈夫ですと首を振った。
「ごめんなさい…、出掛けるところだったのに」
「お前が謝ることは何もないだろ」
 項垂れた冬耶の頭をくしゃっとかきまぜる。
「今日は恐い思いをしただろうし、一人になりたくないよな」

 優しい仕草と言葉に、つんと鼻の奥が痛んだ。
 失いたくない。
 けれどそれ以上に、この誠実な人に本当の気持ちを隠したままでいたくない。

「違うんです…、っ…」
「違う?お、おいどうした。そんなに具合が悪いのか?」
 顔を覆った冬耶に、御薙が困惑した声を上げる。
 冬耶は未練を払うように、頭を振った。

「…俺は、あなたのことが好きだったから…、接待させてもらったんです。『平坂冬耶』じゃなくて『真冬』なら、もしかしたら一晩くらいはって、思ったから…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...