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しおりを挟む予想外の惨劇(主に若彦とその部下に)はあったものの、御薙が危険に晒されるようなことにならなくて良かった。
気になることは多いが(主に組長について)、そう思うことにしよう。
組長を先頭に三人で倉庫を出ると、ドア近くに立っていたハルが「お疲れ様です」と頭を下げた。
「おうハル、お前さんも来てたのか」
「すみません親父。追いかけてきてたんですが、すぐにお助けできなくて」
「フン、あんなひよっこども、俺一人で十分よ」
一人で十分という人数と状況ではなかったような気がするのだが。
「や~、ほんと、出る幕なくてどうしようかと思いました」
ハルも組長もあっはっはと楽しそうに笑っている。この二人はなんだか気が合うようだ。
そんな二人を眺めていると、隣の御薙に「帰りもバイクで大丈夫か」と問われたので頷いた。
「ハル、俺たちは二ケツで戻るから、親父を頼む」
「了解でっす」
びしっと敬礼を決めたハルが、不意に冬耶の方を見る。
「?」
「大和さん、なんかあったら連絡しますから、マンションの方に行ってもらっていいですよ」
「…そうだな。バイクも持ち主に返さなきゃなんねえし」
先程の視線は何だったのかと問いかける間もなく、ハルは乗ってきた車に乗り込み、組長と共に去っていった。
「俺たちも行くか」
「はい」
促されてヘルメットをかぶりながら、ふと若彦たちのことが気になり、倉庫の方を振り返った。
倒れている人たちをこんなところに放置して大丈夫なのかという心配もあるが、組長や御薙との確執が解決したわけではないのに、このまま去ってしまっていいのだろうか。
ぼこぼこにされたくらいで若彦が改心するとは思えず、すぐにまた同じことが起こるかもしれない。
そんな冬耶の不安を察したらしい御薙は、「今はこれでいい」と首を振った。
「あいつらが目覚めると面倒なことになりそうだし、とりあえず戻るぞ」
確かに、この状態で彼らが目を覚ましたら大変だ。
冬耶は素直に頷き、不慣れな動作で御薙の後ろへ座った。
途中例の駐車場に寄り、国広に鍵を返却してから御薙のマンションに戻った。
この頃には既に日は沈んでいて、そういえば夕食を作らないとなあとぼんやり考える。
「御薙さん、何か飲みますか?夕飯食べますよね。冷蔵庫に何があったかな…」
「いや、食事の支度はいいから、ちょっと座れ」
「は、はい」
促され、ソファに腰を下ろすと、御薙も隣に座った。
何だろう?首を傾げかけた冬耶は、そこでようやく御薙に言わなければならないことがあったことを思い出す。
「御薙さん、今日は本当にありがとうございました。店の様子を見に行きたいとか、組長さん救出についていきたいとか、我儘を叶えていただいて」
「我儘っつーか……、むしろうちのごたごたに巻き込んで、また怖い思いをさせちまったな」
「いろいろあって驚きましたけど、大丈夫です。みんな無事で帰ってこられたし…」
「そうだな。親父も無事だったしな」
御薙は少し笑って、組長のあの杖をついた弱々しい姿は、若彦の真意を探るための演技だったと教えてくれた。
他にも、あまり健在な姿を見せていると、組員が組の存続に希望を持ってしまうから、という事情もあるようだ。
確かに、あの力強い姿を見たら、解散などしなくてもいいのではと思ってしまうかもしれない。
組長のビフォーアフターを回想していると、御薙がじっとこちらを見つめているのに気づいた。
妙に温度の感じられない視線がどういう意味なのか、御薙の真意を測りかねてまごついてしまう。
理由を尋ねる前に、御薙はすいと視線を外すとどさっと背もたれに体を預けた。
「それにしても、まさかお前がうちの向かいに住んでた冬耶だったとはなぁ。よく見りゃ、確かにちゃんと面影があるのに、全然気づかなくて悪かった」
そうだ。そのことを話さなければいけなかったのだ。
先に謝られてしまって、冬耶は慌てて首を横に振る。
再会した時『真冬』だったのだから、古い知り合いの少年と結びつけるのは困難だろう。
「俺の方こそ、騙すような形になってしまって、本当にごめんなさい。言わなきゃって思ってたけど、どうしても言い出せなくて…」
「まあ、言いづらいよなあれは。俺も、実際に体が変化するところを見てないときに打ち明けられても、ちゃんと信じてやれたかちょっと自信がないぜ」
「…ですよね…」
「ああ、いや、今はちゃんと、わかってるからな。…………、」
言葉を呑み込んだ御薙に再びじっと見つめられ、今度はその視線に葛藤のようなものを感じた冬耶は、困惑した。
もしかして御薙は、『真冬』が『平坂冬耶』だったことを受け入れがたく思っているのでは?
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