TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
59 / 85

59

しおりを挟む

 どうしよう、とおろおろしているところへ、電話を終えた御薙が戻ってきた。
 一目で動揺が伝わったらしい。足早に冬耶の座るソファへと寄ってくる。
「…どうした?」
「あっ…、あの、店長が…!」
「……国広が?」
 冬耶は、先程三階から聞こえてきた会話と、今の電話でのやり取りについて手短に話した。

 聞き終えた御薙は、腕組みをして難しい顔で唸る。
「まあ…、国広のことだから、大丈夫だとは思うが…」
「そ、そうですね…」
 そう言われれば確かに、あの怖いものなど何もなさそうな国広相手に無用の心配という気もする。
 しかし、多人数だったら?卑怯な手を使われたら?
 心配をしたところで、自分が行ってもどうにもならないどころか、より事態を悪化させるだけだというのは理解していた。
 もちろん、御薙に助力を頼むわけにもいかない。
 こっそり行って、揉めているようなら通報したりするのはどうだろうか。
 はたから見れば、仁々木組の人間が仁々木組の人間を通報するというおかしな構図になるが、この際仕方がない。
「(俺のせいで店長に何かあったら…マスターにも申し訳が立たないし…いざとなれば通報で…)」
 一人決意を固めていると、突然御薙が立ち上がった。

「行くか」

「え?警察に?」
「??何で警察に?」
「あっ…いえその、…」
 目を丸くした御薙に、何でもないと首を振る。
 うっかり考えていたことが口から漏れてしまったようだ。
「店のことが気になるんだろ?」
「あの、でも、」
 確かに気にはなるが、今一番若彦から狙われている御薙が、己の身を危険に晒してまで出向くべき案件なのか。
 国広と御薙を天秤にかけたら、申し訳ないが御薙の方に傾いてしまう。(もちろん、国広なら大丈夫なのではという目算が大きいからこそだが)

 躊躇う冬耶に、しかし御薙は笑った。
「国広は俺にとっても、…あれだ、困った弟分みたいなものだからな。それに、堅気さんに狼藉を働くなんて、親父も許さねえだろうし」
 こうなってしまうと、御薙の決心を覆すことは難しそうだ。
 今更、正直に話すべきではなかったと少し後悔したが、話してしまった以上、なかったことにはできない。
 御薙の心遣いをこれ以上遠慮することは、冬耶にはできなかった。

「不安なら、お前は残っててもいいぞ」
「お、俺も行きますっ……!」
 ぐずぐずしていては、置いていかれてしまう。
 冬耶は覚悟を決め、さっさと出て行こうとしている御薙の背中を追いかけた。


 二人で『JULIET』に駆け付けると、店の前には柄の悪い男が立っていた。
 事務所では見たことがないが、若彦の取り巻きの一人だろうか。
「あの人も、仁々木組の人ですか…?」
「違うな。知らねえ奴だ」
「知らない…?」
 では、店に来たのは別件のならず者だったのだろうか。
 向かうところ敵だらけの国広のことだから、恨みを持つチンピラの一人や二人や三人や四人…どれだけいてもおかしくない。
「スタッフ用の入り口の方も…、え、御薙さん…?」
 念の為、従業員用の裏口も確認してはどうかと提案しようとしたら、何と御薙がずんずんと柄の悪い男の方に向かって歩いて行くではないか。
 冬耶は慌てて後に続いた。

「おい」
「ああ?なんだてめ…、あっ!お前はぶァッ!」

 ドサッ…。

 柄の悪い男は、御薙の一撃に沈んだ。
 止める間もない、一瞬の出来事だった。
「み、御薙さん?」
「大丈夫だ。加減はした」
 別にこの男の安否確認をしたわけではなかったが、自信たっぷりに言い切られて、冬耶は頷くことしかできなかった。

 この腕っぷし。一人で乗り込んでくるわけである。
 店の周辺はそれほど治安のいい場所ではないので、喧嘩を目撃する機会はあるが、こんなにあっさり一発で人が倒れる様は見たことがない。

 それにしても正面突破が過ぎるとハラハラしながら、冬耶は何の躊躇もなく店に入っていく御薙を追いかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...