TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
56 / 85

56

しおりを挟む

 それから数日。特に大きな事件もなく、冬耶は平和な非日常を過ごしていた。
 事務所にも馴染み、小間使いのようなポジションで(主にジンに)便利に使われている。
 ジンとキツの他にも何人かの組員と会ったが、どの人も言葉は多少粗っぽくても親切で、理不尽なことを言われたりすることはない。
 みんな国広より優しいな、というのが現時点での印象だ。
 …国広は、そう思われていることをもう少し反省してもいいと思う。
 
 御薙は思っていたよりもずっと忙しそうで、不在の時も多い。
 高齢の組長の仕事を多く代行しているほか、組の解散後の組員の就職先探しなど、やることが山積しているようだ。
 夜には必ず戻ってくるが、二人きりでいる時はなんだか甘い雰囲気になってしまって恥ずかしい。
 かといって一緒にいたくないかというとそんなこともなく、いない時には早く帰ってこないかなどと考えているので、今一番わからないのは自分の気持ちだった。

 ただ、早く帰ってきて欲しいというのは、御薙が危険な目に遭っていないか心配だからというのもある。
 御薙が外出する時、ハルは冬耶を守るために事務所やマンションの部屋に残ることになってしまう。
 信頼できる腹心を連れずにあちこちして大丈夫なのだろうか。
 心配で聞いてみたが、『今は揉めてる組もないし、一番危険な若彦さんの方も色々小細工を弄してるってことは、まだ白昼堂々鉄砲玉寄越すほど追い詰められてはいないってことだから大丈夫だ』とのことで、安心できるほどではないが、外出を躊躇うほどの危険はないらしいのだが、それらも全て推測でしかない。

 とはいえ、冬耶がどれほど心配したところで御薙の危険が減るわけではないこともわかっている。
 ネガティブな気持ちを募らせると性別が変わってしまう確率も高まるため、ジンが頻繁に用事を言いつけてくれるのは、逆にありがたかった。
 気をまぎらわすためには忙しくしているのが一番だ。
 今日も言いつけられる用事がなくなると、二階の掃除でもしようと自発的に掃除機を手に奥のドアへと足を向けた。

 吹き抜けの階段を上がり始めると、上の方からガタン!と大きな音がして、驚いて立ち止まる。
 続いて、どすの利いた怒鳴り声が聞こえてきた。
 どうやら、三階から漏れ聞こえてくるようだ。吹き抜けというのはとにかく音が響く。
 そしてこのビルは、外側の装甲は厚いようだが、中の壁やドアは建物が古いせいか薄い。
 御薙にも、内密の話をするときは声を潜めた方がいいと注意をされていた。

 よくないとは思いながら、冬耶は足音を忍ばせ、二階まで上がる。
 二人とも興奮して声が高くなっているようで、ここからでも十分やり取りを聞き取ることが出来た。
 何度も聞いたことがあるわけではないので確証はないが、若彦と倉下の声のようだ。

『見つからねえってのはどういうことだ』
『かなり調べましたが、本当にこのあたりに来るまでの足取りがわかんねえんです』
『じゃ何か?突然湧いて出たとでもいうのかよ』
 また、ガタン、と鈍い音が響いた。
 呻き声が聞こえる。倉下(仮定)が殴られたようだ。
『使えねえな』
『すみません…、でも、ひとつ面白いことはわかりました』
『何だ。…………………………、…フン、なるほどな』
 声を潜めたのか、「面白いこと」の中身は聞き取れなかった。
 だが、続いた言葉に、冬耶は息を呑む。

『とにかく、『真冬』のことは『JULIET』のいけ好かねえガキが知ってるはずだ。若い衆を使ってもいい。締め上げろ』

「(そんな、店長……!?)」

 驚愕していると、突然三階のドアが開いた。
 すぐに隠れようと思って二階のドアの側にいたというのに咄嗟に動けず、勢いよく下りてきた倉下に見つかってしまう。
「てめえ……、」
 挨拶をして、白々しくても何も聞いていないふりをしなくては。
 頭ではそう考えているのに、口が動かない。

「(どうしよう……!)」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...