TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
42 / 85

42

しおりを挟む

 ことん、と目の前に湯呑みが置かれる。
「どうぞ…」
「ああ…ありがとな。いや、そんなに気を遣わなくていいから、お前も座ってくれ」
「は、はい…」
 真冬は素直に頷きながらも少し緊張した様子で、御薙の正面に座った。

 どこか懐かしい風情の晴十郎の家のダイニングテーブルを挟んで真冬と向かい合っているという状況に、御薙は何となく落ち着かない気持ちになる。
 話がしたいと連絡をした時には一切邪な気持ちはなかったのだが、プライベートな空間に二人きりというのは、いつだって「何かが始まってもいいのではないか」という謎の期待感を抱かせるものだ。

 あの後。
 真冬を晴十郎の家に送り届けてからいくらも経たないうちにうちに「話をしたい」と連絡してしまったのは、直後に起こった出来事のせいで、彼女の身の安全について強い危機感を感じたからであった。

 ハルの運転する車を降り、組事務所に入った御薙は、奇妙な静けさを感じ足を止めた。
 そして、すぐにその静寂の理由を知ることになった。

「よお、大和」

「……っ」
 声のした方向に視線を向ければ、応接用のソファに若彦が座っており、その足元には二人の男が倒れている。
 執拗な暴行を受けたとみられ、判別が難しいほどに顔が腫れ上がっていたが、御薙にはすぐに誰だか分かった。
 先程御薙と真冬を殺害しようとした倉下と三雲だ。
 あまりに酷い有様に、思わず拳を握り締めて若彦へと非難の視線を向けたが、相手はただニヤニヤ笑いながら煙草をふかしている。
「悪かったなあ、こいつらが何か勘違いして暴走したみたいでよ」
 ぬけぬけと己のたくらみを舎弟になすりつける、いかにもヤクザらしいやり口だ。
「ま、でも手前ェも無事だったようだし、こいつらは俺がしっかり教育しておいてやったから、あまり怒ってやるなよ」
 若彦は、髪を掴んで持ち上げた倉下の顔に、無造作に煙草を押し付けた。
 悲鳴が上がり、パフォーマンスのための無意味な暴力に御薙はぎり、と奥歯を噛み締めたが、かといって二人をかばうこともできない。
 御薙がこれを耐えがたく思えば思うほど、若彦は行為をエスカレートさせるだろう。
 苦しいが、無視することが最善だった。

「……こういうことは、せめて組の中だけにしてください。堅気の人間まで巻き込むのは…」
「言ったろ?俺の指示じゃねえ。こいつらの、俺を慕うあまりの勝手な暴走だって」
「……………………」
「お前みたいなお坊ちゃんにはわからねえかもしれねえが、こいつらみてえな馬鹿には、飼い主が必要なんだよ。こうやって、堅気さんに迷惑かけねえようにしつけてるんだ。社会貢献ってやつだろ」

 若彦が笑うと、周囲の男達も同調するように笑った。
 これは、組の解散なんて余計なことを考えるからこんなことになる、という忠告だ。

 御薙は若彦に頭を下げると、入ってきたばかりの事務所を出た。
 真冬の安否が気になる。
 若彦への対応を考えるのとともに、打てる手はすべて打っておかなくてはと思い、先程車の中で思いついた案が使えないかと、連絡を取ってみることにした。

 電話をかけ、出来るだけ早く会って話がしたいと打診すると、先程別れたばかりだというのに真冬は快く応じてくれた。
 そして夜に晴十郎の家で、ということになり、今に至る。
 曰く、
「夜はマスターは留守なのでお気遣いなく」
 とのことだが、留守だから気を遣うのではないだろうか。

 たまに突然思わせぶりなことを言うのを、最初のうちは駆け引き的な冗談なのかと思っていたが、どうもそういうことではないらしい。
 会話や雰囲気から察するに、恐らく真冬はそれなりに生活水準の高い家で育っている。
 突然性別が変わるような事件がなければ、夜の街に関わるようなことはなかったのではないだろうか。
 つまり駆け引きではなく、知らぬが故の天然なのだ。
 いい年をして、そんな世間知らずの天然に振り回されている自分も本当にどうかと思う。
 だがまあ、仕方がないだろう。惚れた弱みというやつだ。

 真冬の性別が変わってしまうという体質についてはやはり驚いたが、男になった真冬を前に考えてみて、すぐに「そんなに気にならないな」と思った自分にはもっと驚いた。
 ただ、真冬の方が気になるのであれば仕方がないと諦めようとしていたが、先程の倉庫での会話では、なんだか望みがありそうな感じだったので、こういう状況になれば、いらない希望を抱いてしまう。

 しかし、今はそれは置いておかなくてはならない。
 御薙は邪念を捨て、本題を切り出した。

「その、お前の体質のことなんだが……、」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。 しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。 中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。 ※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。 ※小説家になろうにて重複投稿しています。

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...