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しおりを挟む軽く触れた唇が離れた後で、ようやく己の身に何が起こったのか認識して、冬耶はとても動揺した。
(って……キス……!?いや今更なのか既にもっとすごいことを色々してしまっているような気もするけれどこれは好き同士がすることではああでも彼の言うことを鵜呑みにするならば事実上は両想いなわけでだからといって流されるわけにはいかないのにもう本当にどんな気持ちでいればいいのか混乱してきた……!)
「い、いい今の」
真っ赤になってあわわと慌てながら御薙を見ると、相手もなんだかはっとしたように口元を押さえて。
「わる、……」
謎の言葉の後が続かない。
気になった冬耶は刹那慌てていたのを忘れ、小首を傾げて聞き返した。
「わる?」
「……いや、これは謝らねえ。今のは不可抗力っつーか、突然可愛いこと言うお前が悪い」
そんな。
うっかりキスされるほどのことを言ったつもりもなくて、謎の理屈に戸惑う。
更に、不意にのぞかせた子供っぽい表情をかわいいと思ってしまって、つい口元をむずむずさせると、ばつの悪そうな顔になった御薙に腕を掴まれ、ソファに押し倒された。
この展開は予想していなくて、驚いて覆いかぶさる男を見上げる。
光の加減で、一瞬怒っているように見えたが、そうではないようだった。
「…ここで笑うとか、お前は突然無防備すぎるんだよ。それとも意識してやってんのか?」
欲望を堪えるような眼差し。
自分はどんな表情をしていたのか、そんなつもりはないと首を横に振った。
一体どこがスイッチだったのかわからない。
けれど、気持ちのこもった視線をぶつけられると、どうしても心がわきたつようになって、それを受け止めるので精いっぱいになってしまう。
うっかりそのまま身を委ねそうになり、すんでのところではっと正気に戻った。
今夜は「秘策」がないのだ。
いや、決して国広を信じているわけではないけれど、…そう、この後五十鈴との約束もあるから、あまりハードなプレイは避けたいとかそういう意味で。(自分に言い聞かせるように)
なんとか断らなくては。
理性はそう警告しているが、本能の方はもう少し好きな人にくっついていたいと抵抗を続けている。
全てに折り合いをつける解決案はないものかとごく短い時間に知恵を絞ってでてきた答えは。
「あっ、あの…、今日は、私がします……!」
「は?」
「その…、く、口で」
現時点で最もトリガーと思われている行為を避けつつ、接待的な行為であり、彼も恐らく嬉しいのでは?という一石二鳥の案である。
名案と思ったが、唐突すぎたのか御薙の目は点になっていて、少し不安になってきた。
上手くできるかどうかわからないけれど、どうすると気持ちいいのかは女性よりはわかる、と思うのだが。
「えっと…、い、嫌…ですか?」
「いいか嫌かで聞かれたら、そりゃ、いいって答えるけどよ…」
そもそも好きではない行為かもしれないと心配になったが、嫌がられてはいないようでほっとする。
ならばと、冬耶は彼の腕をすり抜け、足元へ跪いた。
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