TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

文字の大きさ
上 下
22 / 85

22

しおりを挟む

 翌日、冬耶は再び五十鈴のもとを訪れていた。
 連日となってしまい申し訳ない気持ちはあったが、昨晩御薙と話しているときに感じた、性別が入れ替わる前兆…かもしれない感覚のことを話したかったのだ。
 それともう一つ。酔っていた時の記憶を取り戻せないだろうかという相談である。

 初めて抱かれたあの夜、御薙と自分の間にどんなやり取りがあったのか、とても気になる。
 冬耶の覚えているところまでは、そんなに色気のある会話はなかったと思う。
 それがどうして、惚れられるようなことになってしまったのか。
 彼の言動の端々から、自分の様子はあの夜と違うようだということがうかがえる。
 自分ではない誰かが、彼と濃密な時間を過ごしてしまったようで、なんだか面白くないという気持ちもあり。
 直球で「あの時どんな様子でしたか」と聞く勇気はなかったので、自分は何か失礼なことをしなかったかと御薙に聞いてみたところ。
「あったとしても、酔っ払いに責任追及する気はねえよ」
 と、彼は笑った。

 え、それは結局失礼があったのなかったの……?

 恐ろしくて、それ以上聞くことはできなかった。
 御薙から聞けないのならば、もう一人の当事者である自分に聞くしかなかろうと、ひとまずかかりつけ医のところにやってきたのである。

 酔っ払っていた時の記憶をなんとかして復元できないだろうかと相談すると、白衣の五十鈴は腕を組み、難しそうな顔で唸った。
「酔っ払ってた時の記憶……ねえ」
「催眠療法とか…忘れた記憶をよみがえらせるみたいな治療、ありますよね」
「確かにあるが、あれは肉体や精神に大きなダメージを受けるなどの外的要因があって、一時的に思い出せない記憶があるような患者にやるものじゃないか?私は専門じゃないし、そもそも酔ってる時の記憶だろう?寝ているときの記憶を思い出すみたいなもんじゃないかね」
 起きていても覚えていないことはあるだろうと言われ、それもそうかと肩を落とす。
 少しくらいなら得られる情報があるかもしれないが、これだけ思い出せないのだから、自分の言動の全てをはっきりと思い出せる可能性は低そうだ。

 残念だが、一旦酔っ払いの記憶は置いて、本題に入った。
 昨晩は性別が変わらずに済んだこと。その後彼と話している最中に、それらしい兆候が現れたが、前兆のようなものがあっただけで変態はしなかったこと。
 念の為、国広から託された『秘策』のことも話すと、五十鈴は苦笑した。
「あの子は…鋭いんだか馬鹿なんだか」
 金に目が眩んだだけでは……と脳内で密かに国広を呪詛していると、不意に五十鈴が表情を改める。

「実はね、あんたのその体の変化の原因について…、こういうことなんじゃないかって、おおよその見当はついてるんだよ」

「えっ」
 突然の告白に、冬耶は驚いて目を瞬いた。
 五十鈴の口ぶりからすると、昨日今日気づいたことではないように感じて、つい何故今まで言ってくれなかったのかと考えてしまう。
 視線に非難の色が混じってしまったのか、五十鈴は「悪かったね」と頭を掻いた。
「恐らくあんたからしたら荒唐無稽な話だが、証明する方法がなくてね。聞いても混乱するだけかもしれないが、今となっては、一応話しておいた方がいいかもしれないと思ってさ」
「よ、よくわからないけど、俺には一つも原因が思い当たらないので、是非聞きたいです」
 五十鈴は一つ頷くと、壁にかかった時計を見た。
「今はもう診察が始まるから、また後で話そう。今日は仕事があるんだろう?その後、『NATIVE STRANGER』で話をしよう」


 冬耶はすっきりしない気分のまま、追い出されるようにして五十鈴レディースクリニックを出た。
 今すぐに教えて欲しいと食い下がりたかったが、そもそも診察の時間外に押しかけている身で、そこまで迷惑はかけられない。
「(こんな気持ちでちゃんと仕事になるかな……)」
 あと数時間のうちに気持ちを切り替えなくてはと思いながら、家までの道をぶらぶらと歩く。

「しつこいなあ、行かないっつってんじゃん」

 少し遠回りをしていこう、と職場近くの繁華街に差し掛かった時、揉めているような声が聞こえて反射的にそちらを見た。
 なんと、同じ店で働いている、メノウと月夜というキャストが、見るからに柄の悪そうな男に絡まれているではないか。
 この辺りは基本的には仁々木組の縄張りで、数年前まではそれほど治安も悪くなかったらしいが、最近は例の跡目問題のお陰で、どうにもきな臭い。
 メノウと月夜は、冬耶よりもずっと世間というものを知っている、しっかりした大人の女性だ。
 しかし、荒事に慣れていそうな男性に力づくで何かされそうになったら、やはり対処しきれないだろう。
 ここは自分がなんとかしなくてはと、冬耶はバッグの中からスマホを取り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗
ライト文芸
島田颯斗はサッカー選手を目指す、普通の中学二年生。 しかし突然 病に襲われ、家族と離れて一人で入院することに。 中学二年生という多感な時期の殆どを病院で過ごした少年の、闘病の熾烈さと人との触れ合いを描いた、リアルを追求した物語です。 ※闘病中の方、またその家族の方には辛い思いをさせる表現が混ざるかもしれません。了承出来ない方はブラウザバックお願いします。 ※小説家になろうにて重複投稿しています。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...