TSですが、ワンナイトした極道が責任をとるとか言いだして困っています

イワキヒロチカ

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 何かを堪えるような表情で、御薙は冬耶を見つめ返した。

「……いいんだな?」

 今からでも、やっぱり今日は駄目です、と断った方がいいと理性が警告する。
 その瞬間は少し気まずくなるかもしれないが、体調が理由なら彼はきっと『真冬』を許してしまうのだろう。
 仮にそれで愛想を尽かされてしまったところで、逆に有難いくらいのはずなのに、冬耶は首を横に振ることはできなかった。

「……はい」

 小さく頷くと、御薙は一瞬迷ったようだったが、こんなとこじゃなんだなと呟いて、立ち上がる。
 手を引かれ、連れていかれたのは寝室だった。
 パチッと音がして電気がつき、ベッドが目に入ると、これから何をするのか思い知らされる気がして鼓動が早くなる。

 だって、先日はここで、彼に……。
 あの時のことをちゃんと覚えていたら、もう少し緊張せずにいられただろうか?

 思わず部屋の真ん中で立ち尽くしていると、御薙は上着を脱ぎながら聞いた。
「あ、シャワー浴びたいとかあったか?」
「いえ、来る前に浴びてきたので、」

 ・・・・・。

 また何か思わせぶりな発言になってしまった気がして、冬耶は焦った。

 いやいや、客商売だし、出掛ける前に綺麗にしていくのは普通のこと、ですよね?
 やる気満々で準備してきたわけでは……!
 こんな展開になるなんて、家を出る前には夢にも思っていなかったし!

「あっ、あの、ちち違うんです……!」
「いや…、何となく言いたいことはわかったから、落ち着け」

 ……本当にわかったのだろうか?
 とても気になったが、自分の立場的に、わかってもらう必要があるのかどうかもよくわからないので、頭の中に並んだ言い訳達は、使われずに終わった。

 自分はどうしてこう、墓穴を掘るようなことばかり言ってしまうのか。
 熱くなった顔を手で扇ぎながら精神の乱れを統一していると、ネクタイを緩める御薙の視線がちらっとこちらをかすめて、そうだ自分も脱がなくてはと、慌てて服に手を掛けた。
 ところが、緊張や直近のやり取りの混乱で手が震えていて、シャツのボタンが上手く外せない。
 苦戦していると、そっと手をとられて、彼の手の熱さに小さく震えてしまった。

「……緊張してんのか。少し飲ませとけばよかったな」
「だ、大丈夫…」

 覗き込まれ、慌てて目をそらすように下を向く。
 アルコールが入っている方が楽にはなりそうだが、今酒を飲んだら、飲みすぎてしまう気がする。
 そうしたら、前回の二の舞だ。
 それとも恐いのかと重ねて気遣われて、首を横に振った。

 冬耶が恐れているのは、唐突な体の変化だ。
 行為は、本当は少し恐いが…、それも別に、御薙を恐れているからではない。

 大きな手が、器用にボタンを外していく。
 慣れているのかなと思って、少し胸が騒いだ。

 上だけ脱がされると、恥ずかしいと思う間もなくくるりと後ろを向かされ、ベッドに座った彼に後ろから抱き抱えられて座るような体勢になった。
 背中に感じる体温に、鼓動が跳ねる。
「あの、……」
「嫌か?なんか緊張してるみたいだから、こっちの方がいいかと思って」

 そんなに気を遣ってもらうよりも、いっそひと思いにさっとやってしまってほしい。
 しかし確かに、後ろからの方が、いざという時に誤魔化しがきくのではないかという気もしてきた。
 この先についてちょっと想像してみる。
 ……どちらにしても全裸なら駄目だという結論に達した。
 けれど、恥ずかしさで言えば後ろからの方がましなような気もして、肯定の代わりに小さくお礼を言う。

 冬耶の力が少し抜けたことで安心したのか、うなじにくちづけられ、息を呑んだ。
 身体のラインをなぞる手が、胸へと辿り着く。
 包み込まれると、冬耶のふくらみは、彼の大きな手には少し足りなくて、微かに申し訳なさを覚える。
 冬耶自身は自分を含め女性の胸の大きさに特別なこだわりはないけれど、キャストとして働いていると、やはり女性が好きな男性にとって胸の大きさは重要なのだなと感じることが多々あるため、どうせ体が変化するなら、自分の望むように変化すればいいのにと、こんな時だけ都合のいいことを考えてしまう。

「ぁ……っ」
 胸の先をきゅっと引かれて、思わず声が出た。
 吐息のような声が、静かな部屋には大きく響いて、顔が熱くなる。
 こりこりと弄られるとそこはすぐに形を変えて、痛いような、もっとしてほしいような感覚に、何故か下腹のあたりが熱くなり、身を捩った。

「ん、……っそれ、ゃ、」
 
 こんな風に感じることが正しいのかよくわからず不安になって、振り仰ぎ、もうここはやめて欲しいと頼んだ。
 すると、何故か彼の手はより一層強くそこを虐め始める。
「ひん、あっ、…ゃ、や、…って、」

 また墓穴を掘ってしまったことに、今度は気付けなかった冬耶であった。
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