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■再び車内

 それで、何故自分はここにいるのだろう。
 短い回想から得られるものは少なく、結局直接聞いてみることにした。
「その……、久住…さんはどうしておれを……?」
「安心しろ、君に危害を加える気はない。征一郎にうちの方までご足労願いたくて人質にさせてもらっただけだ」
「それは……普通に呼び出すんじゃ駄目なんですか?」

 親戚だというのなら、本人に連絡すればいいのではないだろうか。
 こうしてきちんと質問に答えてくれているところを見るに、久住は芳秀のような外道オブ外道というわけではなさそうだ。
 征一郎と仲が悪い……のだろうか?

 ちびの疑問はごく当たり前のものではあったが、久住は軽く首を振ると、諦観をにじませる表情で大きなため息をついた。
「先日……芳秀から電話がかかってきてな」
「…芳秀さんから?」
「君と征一郎のことを延々と聞かされたんだが」
「…なんだか…すみません…」
「時同じくして、うちのほうではちょっとしたトラブルが起こり」
「………………は」

「これは、何か面白いことをしろという振りだなと」

「………………………………………」
 背中を嫌な汗が流れる。
 何故自分が今ここにいるのか、ものすごくよくわかった。
 退屈しのぎのエンタメを……創造主より求められているのだ。
 そして、その振りを察してしまうということは、久住は相当芳秀をよく知る人物なのだということも理解する。

 更に続いた言葉に、ちびは目を瞠った。
「まあ、俺個人としても芳秀が作ったホムンクルスに興味はあったんだが。人ではないのに、人と同じか。なかなか面白い作りになっているな」
「おれの体のこと……わかるんですか?」
 久住は「見てわかることだけだが」とあっさり認める。
 現在の本当のコンディションや、征一郎の役に立てるようなスキルを発揮する術など、何か有益な情報が聞けないだろうかと続きを請うたが、相手の反応は渋いものだった。

「あまり余計なことを言うと、君が初期化される可能性があるからな……」

「………………………………………」
 嫌な汗リターンズ。
 確かに、芳秀ならばやりかねない。
 ちびや征一郎が何も教えてもらえていないのは、理由はわからないが、芳秀が教えたくないからだ。
 初期化された場合、全てを忘れてしまうちびの方はともかく、征一郎は悲しむだろう。
 芳秀規制に抵触したらと思うと、何も聞けなくなってしまった。
 ちびが青い顔で黙り込むと、ハンドルを握る男は笑う。
「そんなに怯えるな。検閲の入らなさそうなことはいくらでも教えよう。征一郎の幼い頃の話はどうだ?」
「はっ……、き、聞きたいです!」
 かぶりつきながら、単純にも「(久住はいい人だな)」と感動した。

■奈良県某所 持慧院

 『持慧院』と書かれた門をくぐり、車は止まった。
 短い道中ではなかったが、征一郎の話をしていたらあっという間だった。
 ちびが無闇に逃げ出したりしないとわかったのか、もう体は動くようになっている。
 窓から外を窺うと、二十メートルくらい先に寺の本堂のような建築物が見え、ここはどういう場所なのかと不思議に思う。
 その疑問が口をつく前に、覚えのある気配を感じ、ちびははっとして視線を巡らせた。

「(征一郎……!)」

 母屋だろうか。玄関の戸の前に、征一郎が立っている。
「行っていいぞ」
 とん、と肩を押された瞬間、いつもより体が軽くなったような感じがした。
 不思議に思う気持ちは、自分の主の元に早く行きたいという気持ちに押しやられてしまう。
 シートベルトを外しドアを開け、ちびは征一郎の元に走った。

「征一郎……!」
「ちび!」

 胸に飛び込むと子供のように抱き上げられ、回る腕に力が籠る。
 ちびも首に腕を回し、ギュッと抱きついた。
「大丈夫か?」
「うん……」
 怖い思いも嫌な思いもしていないが、征一郎の匂いを吸い込むとほっとして、笑みが溢れた。
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