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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 14
しおりを挟む「いでよ! 我が盟友!」
辺り一面にエリィの声が響く。
エリィは天に伸ばした手を、虚空を掴むように強く握った。
空間を震わせる振動と共に、エリィの目の前に白金色をした空間の裂け目が現れる。
「天球の子らよ伏して唄え! 星歌と共に我は呼ぶ!」
大気を震わせながら、空間の裂け目はどんどん大きく広がっていく。
「星の輝きを刮目せよ! 閃星剣アルバーンの姿をっ!」
エリィがそう叫ぶと一瞬、周囲の音が消えた。
一条の光の筋が濁った空を裂く。
光の筋はやがて、柱のような太さになって辺りを照らす。
その中から金属でも宝石でもない素材で作られた、七色に鈍く光る刃を持った剣が、ゆっくりとその姿を現した。
夜にも関わらず、エリィの周囲だけが真昼のような明るさに照らされる。
「きらきらの剣だ……」
「あれが、エリィの言ってた……とっておきの策……なのか?」
赤竜の相手をしていたタカヤとリフィリットは、そのあまりに眩い輝きに手を止めた。
暴れていた赤竜も立ち止まり、聖剣をじっと睨みつけている。
目の前に浮かぶ聖剣の柄を、エリィはゆっくりと掴む。
聖剣は更に輝きを増す。と同時にエリィから魔力をぐんぐん容赦なく吸い取り始める。
「……相変わらず、遠慮なく人の魔力を馬鹿食いしていきますね」
苦々しく呟き、エリィは赤竜に向かって聖剣を構えた。
赤竜が牙をむき出しにして、敵意を向けてくる。
即座にエリィに向かって火球を発したが、聖剣のひと振りで打ち消された。
「とんでもない強さだな」
「エリリンのキラキラの剣凄くない?」
もう赤竜を引き付ける必要がないと判断したタカヤとリフィリットが、エリィに駆け寄ってくる。
「まぁ……威力は凄いのですが、そのぶん私の魔力がどんどんなくなっていくので」
悠長な事は言ってられない。と、口にする間もなく赤竜が巨大な尻尾をこちらに叩きつけてきた。
悲鳴を上げて、タカヤとエリィは意味の無い防御態勢をとる。
エリィだけは赤竜の尻尾を睨み据え、聖剣で斬りあげる。
輝きで見えない刃は確かに赤竜の尻尾を捉え、鋼鉄よりも固い鱗を容易く砕き、その内側にある肉に食い込む。
赤竜が痛みで絶叫を上げるが、エリィは聖剣を持つ手に力を込め、更に刃を押し上げていく。
肉を裂き、骨も断ち切る音と共に、赤竜の尻尾は宙を舞った。
「あんなに固かったのに斬っちゃったっ!」
矢を何本射っても、鱗に弾かれていたリフィリットが喜びの声をあげる。
「まだまだー」
尻尾を斬り上げた体制から、聖剣を正中の構えに戻し。エリィは赤竜へと走り出す。
時間を目一杯使って倒せばいい。などとは言っていられない。
思っていたよりも、魔力の消耗が早く感じる。魔法自体は今日は使っていないので、魔力は減っていないはずだが……ゴブリンとの戦いで体力を消耗していたのが影響しているだろうか?
どちらにせよ、一分でも、一秒でも早く赤竜を仕留めなくてはならない。
とにかく時間がないのだ。
エリィは赤竜の頭の高さまで飛び、一気に仕留めにかかる事にした。
「星巡る聖剣よ、宙の旅人にその輝きを示せーーー」
エリィの言葉と同時に、聖剣の輝きが天空まで伸びる。
すべての魔力を込めた必殺の一撃だ。
「星繋ぐ十字航路っ!」
聖剣を振り下ろそうかという、その瞬間。光弾がエリィめがけて飛んできた
「嘘っ!?」
一発目がエリィに命中する。
二発、三発と間髪いれず飛んできた光弾も直撃し、爆発した。
爆発後の煙の中から、エリィが地上に落下してくる。
「エリィっ!」
地上でタカヤがなんとかエリィを受け止める。
「油断しました」
実際は油断というよりも、星繋ぐ十字航路を使う際には聖剣に全魔力を注ぎ込むのでかなりの隙が生じてしまう。そこを突かれてしまった。
どうやら、相手は赤竜だけではないらしい。
「怪我とか大丈夫か?」
「それはなんとか……私、結構頑丈なので」
聖剣を使用中のエリィは、聖剣の加護により常に防御魔法を纏っているのと変わらない状態だ。
光弾は何かの魔法なのだろうが、聖剣を持った状態でなかったら、跡形もなく消えていたに違いない。
赤竜とは別に、魔術師がどこかにいる。正確な場所はわからないが、光弾が飛んできた方角から、大体の場所は見当がつく。
しかし、見当がついたところでエリィは動く事ができない。
光弾のダメージではない。それよりも厄介なものだ。
「ちょっと、これはまずいれふね……」
自分の意思では抗えないほどの眠気に、エリィは襲われていた。
すでに呂律も怪しい。
不発に終わったとはいえ、星繋ぐ十字航路を放つために体内の魔力のほとんどを聖剣に注いでしまっていた。
身体にほとんど魔力は残っていない。
もう一度戦う気持ちはあるが、体は素直に欲求に従おうとしている。
「エ、エリリン? こんなとこで寝たらやばいって」
遠のきそうになる意識を気合でなんとか引き戻しながら、エリィは必至に考える。
できれば……このまま眠りたい。
「ぁ………」
エリィは、エクストラポーションの存在を思い出した。タカヤとリフィリットに渡してしまったが、あと一本残っているはずだ。
「タカヤひゃんタカヤひゃん……」
「おお、なんだなんだ?」
ほとんど呟きのような声しか出ない。エリィの口元にタカヤは耳を近づける。
「鞄にぽーしょんあるのれ飲ませてくらひゃい……」
「鞄? ポーション? わ、わかった。ちょっと待ってくれ」
言われた通りに、タカヤはエリィの鞄を漁りはじめる。エクストラポーションが見つかるまでの僅かな時間でさえ、眠気と戦うエリィにはとても長く感じられた。
「あった! 」
手にしたエクストラポーションを見せると、タカヤは瓶をエリィの口に運んだ。
甘いような、苦いようなエクストラポーションの味が口の中一杯に広がっていく。
最初はゆっくり流れ込んできていたので、それにあわせて喉を鳴らしていたエリィだったが。瓶の中身が少なくなるにつれ、タカヤが瓶を傾ける角度がどんどん急になっていく。
最終的に、エリィが飲むよりもエクストラポーションが流れ込んでくる量のほうが上回った。
そして……。
「げぇっほっ! ぶぇっほっ! げほげほっ!」
思いっきり咽た。
「あ、ごめん」
「弱ってる人にあんな勢いよく流し込む人がありますかっ!」
口から垂れるエクストラポーションをローブの袖で拭い、エリィは抗議する。
「緊急事態だったしさ、急がなきゃとおもってつい……ほんとごめん」
タカヤは手を合わせて平謝りしている。
「まったくもう……」
ぷんすこ怒りながら、エリィは立ち上がった。タカヤの足元に転がっている聖剣を拾う。
雑な飲まされ方をしたものの、エクストラポーションの効き目は絶大で、エリィの体力と魔力は全快に回復していた。
これでもう一度聖剣を使う事ができる。
そして、後はない。今度こそ一気に勝負を決めなくてはならない。
さっきは油断したが、魔術師もセットなのがわかれば対処はできる。勝負は仕切り直し。赤竜と一緒に魔術師もぶっ飛ばしてやろうとエリィは思った。
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