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第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか)
第二話 やばばっ!エルフ谷のリフィリット(ゴブリンとか赤竜とか) 11
しおりを挟むエルフの村に入り込んだゴブリン達は押し返されはじめていた。
戦いがはじまってから一時間と少し。
戦況はエリィ達に有利になりつつある。
見れば、ゴブリンの数は半分ほどになり、目に見えて少なくなって来ている。
「この調子なら、行けそうですね」
エリィは村の状況を見て、安堵した。
体力との相談にはなるが、今の調子を維持できれば、このままゴブリンを撃退する事も可能だ。
撤退まで追い込めれば、追撃して背後から掃討するもよし、こっそり後をつけて拠点を破壊するもよし。
煮るなり焼くなり自由だ。
「みなさん、ここはもう大丈夫そうなので、一旦リフィリットさんの所に戻ります」
「ありがとうございます、後はお任せください」
エルフの若者は頭を下げた。
怪我をして一時離脱していた他のエルフも手当を受け、戦線に復帰してきている者もいる。
「それでは、また危なそうな時は遠慮なく呼んでください」
村の右側から村の中央までの道のりを、エリィは走る。
道中、旗色が悪くなり右往左往するゴブリンを、二匹ほどすれ違い様に法杖で殴っておいた。
「ただいま戻りました」
「あ、エリリンおかえり」
リフィリットが手をひらひらと振って出迎えてくれる。
相変わらず、タカヤは敵を寄せ付けない剣の舞で奮闘している。
声をかけるだけの余裕はないのか、ちらりとエリィを見て頷くだけだった。
額には玉のような汗が浮いている。
「タカヤっち、めーっちゃがんばってくれてるんだよ」
余裕の笑顔で、リフィリットはビュンビュン前方に矢を撃っている。
タカヤが敵を威嚇し、隙のできたゴブリンをリフィリットが仕留める。なんだかんだ上手く連携をとって戦えているようだ。
「さぁ、もうひと踏ん張りがんまりましょう。ここまで来れば負ける事はありません」
余程の致命的なミスがない限り、もう負ける事はない。
それぞれが、自分にできる限りの事をして懸命に戦った結果だ。
みんなに体力が残っているうちに、一気に勝負を決めたい。
エリィは気合を入れなおし、タカヤの隣に並びゴブリンと対峙する。
あと少し、勝利はもう目の前だ。
「いい加減、あきらめて帰りなさいっ!」
ゴブリン達の群れに、エリィは一気に突撃していく。
全体の数が減った事で、囲まれる心配は少ない。多少突出しても問題はない。
積極的に突撃し、ゴブリンの隊列を崩す。かく乱してゴブリン達の好きにさせない作戦だ。
突撃するエリィに従い、タカヤとリフィリットもついてくる。
前線がじりじりと押し上げられ、ゴブリン達は村の入り口に向かって僅かずつだが後退させられていく。
一匹のゴブリンが、ギギッ! ギギッ! っと左右に広がる他のゴブリンに向かって大きく鳴いた。
それを聞いて、左右に展開していたゴブリン達が中央に集まってくる。
「みんなーっ! 集合―っ! あつまってーっ!」
それを見て、リフィリットもエルフの若者達に号令をかける。
村の中央に互いの全戦力が集まり、睨み合う。
総力戦の様相を呈していた。
ゴブリンが一箇所に集まってくれたのは、好都合だとエリィは思った。
そのほうが、まとめて倒しやすくなる。
「タカヤさん体力は大丈夫ですか? あと一本エクストラポーションが余っているので渡しておきますよ?」
自分用にとって置いたものだが、タカヤのほうが心配だ。
エリィは最後の一本を取り出して見せた。
「私もまだ使ってないから、タカヤっち欲しかったいつでも言ってね」
リフィリットも自分が貰ったエクストラポーションを見せる。
「みんな過保護すぎ。俺を一体なんだと思ってるんだよ」
「しょんぼり剣士さんですよ」
「へなちょこタカヤっち?」
エリィとリフィリットは同時に言った。
タカヤは頭を抱えた。
「一回飲んでるから大丈夫だって」
タカヤは手をばたつかせ、二人の申し出を断った。
「なら良いのですけど……」
エリィは疑いの目で見る。
……強がっているだけなのでは?
まぁ、本人がいらないと言っているのなら、それでいい。
必要そうなタイミングがくれば、また渡せばいいか。とエリィは思った。
意識を戦いに戻す。
睨み合いの拮抗を破ったのは、ゴブリンのほうだった。
手にした武器を掲げ、エリィ達に向かって突撃してくる。
「みなさん行きますよーっ!」
エリィも法杖を構えなおして、みんなを引き連れて走り出す。
恐らくこれでケリがつく。正念場だ。
互いの陣営がまさんびぶつかり合う……その時だった。
ゴォォォォッッ!!
雷鳴のような、空気の塊が震えるような轟音が上空で鳴った。
「? なんの音ですか?」
「なんかえげつない音してるな」
「なんかごろごろいってるねー」
思わずエリィ達は揃って空を見上げる。
ゴブリン達も戦いの途中だというのに、手を止め口をあけて空を見上げている。
轟音は断続的ではなく、ずっと鳴り響いている。
それどころか、どんどんとこちらに近づいてきているように感じる。
「妙ですね……」
空を見上げながら、エリィは胸騒ぎを感じた。
空気の質が一気に別なものに変わったからだ。
今までの冒険でも、時々こういう空気を感じた事があった。
そして、そういう時は大体ろくでもない事が起こった。
つまり、あまり良い兆候ではない。
「何か、います」
空に小さな黒い点を見つける。
「俺には何も見えないけど……」
タカヤはまだ見つけられていないようだ。空を見回している。
「エリリン、あれって……やばやばのやばじゃない?」
三人の中で一番視力が良いリフィリットが、震える指で、上空の一点を指さした。
「あれは……」
エリィがその黒い点の正体を完全に把握した瞬間。
ドンッ!
と赤竜が地面に足をめり込ませ、エリィ達の前に降り立った。
強烈な地響きで村全体が激しく揺れる。
リフィリットとタカヤは赤竜の巨大さに言葉を失い、呆然と見上げている。
ゴブリン達もじりじりと後退し、赤竜と距離をとる。
竜とゴブリンでは魔物としての格が違う。敵か味方か判断しかねているようだ。
そんな中で、エリィは既に竜と対峙する覚悟を決めていた。
「みなさん、しっかりっ! 油断していたらやられますよっ!」
未だ呆然としている味方に、エリィは激を飛ばす。
いきなり目の前に竜が現れたショックが大きいのはわかる。
しかし、相手は竜だ。一撃で消し飛ばされる可能性だってある。
ゴブリンを相手にするのとは訳が違う。
立ち尽くしている場合ではなかった。
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